心肺蘇生
それしか考えられない。
シームァはゲートの扉を開けた――
* * *
ジーラは異変を感じた。
シムゥンも気づいたようだ。
二人は魔法使い同盟の本部に帰る途中だった。
「今の何だ? あのコーヒー農夫か?」
寒いこの地域でビニールハウスでコーヒーを栽培している人物がいる。かなり魔力が強そうではある。
「違う。誰かの魔力じゃない」
シムゥンは気配を探ってるようだ。
「シームァ?」
「本当か?」
ジーラはシムゥンの言葉を疑ってるわけではない。
魔法に関してはジーラよりも、シムゥンの方が強い。
とはいえ、シームァから魔力らしきものを感じたことがなく、信じられない思いがあった。
「どこから?」
「たぶん。ゲート」
ゲートは研究所の敷地の中にある。
二人は元来た道を引き返すことにした。
* * *
――これも幻?
そこは暖かった。
木がたくさんあった。森のようだった。
シームァの知っているような雪に覆われた森などではない。
雪が一切ない世界。
そこにさっきの濡れた犬がいた。
犬はシームァを見て、クゥーンとすがるように鳴いた。
犬のそばにずぶ濡れの女の子が横たわっていた。
犬が前足で、女の子の体を小突いたりするが、女の子は反応しなかった。
シームァは女の子のそばに駆け寄る。
屈んで、少女の容態を確認する。
女の子は息をしていなかった。
シームァは心肺蘇生を試みる。
研究所で一通りの訓練を受けていた。まさかそれが役に立つ日が来るとは……
人工呼吸をするのは少し躊躇いがあった。
意識のないその顔はまさに美少女だった。
だがこの際そうもいっていられない。少女はまだ息を吹き返していない。
唇を重ね、息を吹き込む。
ごほごほと、少女は口から水を吐き出した。
そして、むくっと起き上がった。
少女はシームァを見てきょとんとした。そしてにこりと微笑む。
「あ、シーナだ。この前はありがとう」
女の子はシームァに抱きつき頬にキスしてきた。