ずぶ濡れ
ジーラはひっかかるものを感じてはいたが、ゲートの方に向きなおる。
シームァが心配でもあるが、今日はゲートの偵察に来たのだ。
* * *
シーザーは家で宿題をしていた。
雪の多いこの地では、子どもが学校に通うのではなく、先生が各家庭に週一で教えに来る。
そのかわり、どうしても宿題が多くなる。
明日が先生が家に来る日だったのだ。
それをころっと忘れていたシーザーは必死に宿題を取りかかっていた。
どうして宿題を忘れていたか。
理由は明らかだった。
その理由を思い出すとまた宿題が手につかなくなりそうなので、シーザーは今は宿題に集中する。
* * *
シムゥンとジーラが帰った後、シームァは釈然としない気分だった。
確かに少女と犬を見たのだ。
シームァは自分の片目を手で塞ぎ、片方ずつの見え方を確認してみたりした。
何かおかしなモノが見えたりする、ということはなかった。
また、さきほどの女の子と犬がいた辺りに来てみた。
今は誰もいない。
この辺で犬を飼ってる家は数件あったはず、なんてこともシームァは思い出した。
どこか近所の犬だったのだろうか?
それなら、ジーラとシムゥンに見えてないのもおかしな話だ。
その時だった。
犬がいた。
間違いなく、さっきの犬だ。
どういうわけか、犬はずぶ濡れだった。
シームァは犬に触れてみる。
だが、触れなかった。
シームァの手は犬を体をすり抜けた。
驚きはしたが、心のどこかでやはりと思っていた。
ということは、やはりこの犬は幻?
ならこの憐れな犬は実在しないのか、なら安心なのだが。
その時、犬はシームァを見た。
犬はすがるような目でじっとシームァを見ていた。
そして、前足を片足上げ、まるでおいでおいでするような仕草をした。
「来いってこと?」
シームァはそう解釈した。
今、シームァは犬の目の前にいる。
だけど、この犬は実際にはここにはいない。
……ということは?
シームァはゲートを見る。