犬
「シームァ、どうしたの?」
シムゥンが心配そうに声をかける。
シムゥンもジーラも、シームァが機械の目なのは知っていた。
シームァはゲートの後ろに向かって話しはじめた。
「シームァ……?」
ジーラはじっとシームァを見た。
口にこそ出さないが、シームァの目こそ不具合が起きたんじゃないかと思っていた。
* * *
それは狼のように見えた。
ふと、狩猟犬かなと気づいた。
犬は何かを探しているのだろうか? それとも目的地を探しているのだろうか?
地面に鼻を近づけ、においを嗅いでるか、方角を確かめつつ歩いている。
犬の後ろに、戸惑いがちに歩く女の子の姿があった。
間違いない。以前来た黒髪のエルフの少女だ。
「あなた、また来たの?」
だが、シームァが話しかけても女の子は返事しない。
返事しないどころか、女の子はシームァに気づいてないようだった。
「あなた、この前来た女の子でしょ?」
やはり、女の子はシームァに返事しない。
聞こえてないのだろうか?
「シームァ、しっかりして!」
と、シムゥンが泣きそうな顔でシームァの背中をつかんだ。
「え?」
シームァは意味がわからず、シムゥンを見返す。
「シームァ、誰と話してるの?」
「ここにいるでしょ?」
「誰もいないよ!」
「……そんなはずは?」
その時、シームァは犬と目があった。
犬はシームァと目があった途端、猛ダッシュで後ろへと引き返した。
それを慌てて追いかける女の子。
一人と一匹はあっという間に見えなくなった。
「シームァ? 疲れてるんじゃないか?」
心配そうに、ジーラが声をかけてくる。
「今、ここに女の子と犬が……?」
シームァが話しても、二人は心配そうに無言になった。
その様子に本当に誰もいなかったのかと、シームァは思った。
「あ、うん、ちょっと寝不足だったかも。もう気にしないで」
シムゥンはほっとしたようだ。