【第五話】魔法都市レーム
街についてからの経緯をざっくりと整理しよう。
まず桟橋を渡った先に続く門の前で警備隊に囲まれた。どうやら街に戻った男たちの通報で街は厳戒態勢を迎えていたらしい。いつ来るともわからない災いに、街は鍋をひっくり返したかのような騒ぎに発展していたのである。
緊迫感が肌を通して伝わってきたこともあり、ここはちょっと強引な手に出る必要があるかもなぁ・・・と気構えていたが、アトリちゃんの目の色を見た瞬間、警備隊の表情は驚愕後に安堵のものへと変わった。彼女の予想通り、15歳を迎えるまでに彷徨者ではなくなったことが警備隊の人たちに伝わったのだ。空から降ってきた水に関しても彼女の口から説明がなされ、俺達は街に入ることを許された。
「おめでとうアトリちゃん!!本当に・・・!」
「ま・・まさか、最後の最後で力に目覚めるなんてなぁ・・・ぐすん・・うう」
「今まで頑張ってきたの、みんな知ってたからさぁ!」
一転今度は熱烈な歓迎を受けた。
どうやらアトリちゃんは自分の力を発現させるべく、異世界に関する情報を熱心に聞き込みし続けてきたため、町の大半の人と顔見知りだったのだ。なんたるコミュ力・・・と思ったけど、命が関わっているんだから必死になるのも当然だよなぁ。
祝福の言葉をかけてくれる人たちの中には、まるで自分の娘の無事を喜ぶかのように目に涙を浮かべている人もいて、彼女の人徳を垣間見た気がした。
その後は彼女の家に行ったり、お世話になった人たちへの挨拶回りに同行したり。
もう二度と会うことはないと悲嘆に暮れていたおばあちゃんとの再会のシーンは俺も涙を禁じ得なかった。涙腺弱くなったなぁ・・・。
そんなこんなで時間はあっという間に過ぎて、空はとっぷりと暗くなっていた。
「お疲れさまです。挨拶回りは大体終わりました・・・!わざわざ付き合ってくれてありがとうございました!太一さん!」
「いやいや。俺も街の様子を見たかったしね。ちょうど良かったよ」
「そう言っていただけると・・・、あっ!これもおすすめですよ!とっても美味しいんです!」
「うん。いただくよ」
今は街の食堂で遅めの食事をとっている。どれも美味。特にアトリちゃんおすすめの春の野菜と魚介を使ったキッシュは毎日でも食べたくなるくらいの美味しさだ。
朝から何も食べていなかったのだろう。彼女も大皿に乗った料理を美味しそうに食べている。結構大人びて見えるけど、こうしてみていると年相応な女の子だよなぁ。いっぱい食べる君が何とやら。
「・・・にしてもこの街、いろいろな人がいるんだね」
街を歩きながらまず俺が注目したのはその異種族の多さだ。エルフや獣人等の有名所からリザードマンやゴーレム等の異形感が強いものまで、本当に多種多様な種族が共生している。
街の雰囲気も活気にあふれていて、そこら中から商人の景気の良い声が聞こえてきた。遠くから見たとおり、ザ・ファンタジーな町並みで、今の所地元を感じさせるものは見受けられなかった。
「ここ【レーム】は魔法都市として世界でも有名なんですよ。だから種族の別け隔てなく、沢山の人達が魔法を学んだり、その恩恵を受けるために移住してきているんです。
街の外れには【コルディア遺跡】をはじめとした複数のダンジョンがあるので、冒険者の方の拠点としても一役買ってるんですよ」
「へー・・・。俺がいた世界には魔法もダンジョンもゲームやアニメの中だけの話だったから、すごく新鮮な気分だよ」
魔法都市にダンジョン!実に憧れる響きだ。タダ飯ぐらいをするわけにも行かないし、落ち着いたら冒険者を目指してみるというのも面白いかもしれない。
ちなみに俺が大根島と認識したこの街の名前は【魔法都市レーム】で、中海と認識した湖の名前は【リオルシス湖】という淡水湖らしい。
やはり他人の空似ならぬ他土地の空似なのだろうか・・・。それで力が解放されるんだから、固有適正【島根県】の裁定はかなりいい加減みたいだ。
「そういえば私、太一さんの通訳をしている時に、新しい力を獲得したんですよ!」
「え?そうなの?」
「もうすでに効果は出てると思います」
そう言うと彼女は店員さんを呼んだ。
「お待たせしました。ご注文でしょうか?」
「飲み物の追加をお願いします。太一さんは?」
「ん、じゃー・・・俺はこれで」
「お伺いしました」
店員さんは注文を聞き届けると、厨房へと向かっていった。
ああなるほど、そういうことか。
「・・・すごいね。店員さんの言葉が理解できたよ」
「【拡張自動翻訳】というらしいです。これからは私がある程度そばにいるだけで、お互いの言葉が理解できるようになります・・・多分ですけど」
「多分、というと・・・やっぱり自分がどんな力に目覚めたかは、使ってみないとわからないんだね」
「そうですね。私や太一さんは固有適正ですので特に・・・」
「――――アトリくん。探したよ」
その時、横合いから声をかけられた。
見るとそこにはメガネを掛けた白髪の女性が立っていた。見た目の年齢は俺と同じか少し上だろうか。特徴的な長い耳から異種族であることが見受けられる。エルフか?
「あ、理事長先生!」
「理事長先生?」
「やあ、君が彼女を救ってくれた異世界の方だね。お初にお目にかかる。私はアトリくんが在籍している【ルトルツカ魔法学園】の理事長、マリエラ=ルトルツカだ」