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【第四話】島根県民、異世界を知る

「―――――なるほどなあ・・・」


 出会ってからしばらく、日当たりの良いところで彼女の体を温めながら、お互いの状況を語り合った。

 俺から語ることは少ない。元の世界で死んで、女神にあって、この世界にやってきて、意味不明な能力を習得、考察している最中だと、それだけだ。

 

 比べて、彼女の話は実に興味深かった。

 一通りこの世界の成り立ちや状況を聞かせてもらったのだが、おおよそは俺のラノベ知識の範囲内の世界観だった。

 中世ヨーロッパの風土を下敷きにした文明レベルで、モンスターや異種族がいて、魔法やそれを教える学校があり、ダンジョンのような危険地帯がある。

 このあたりは聞いていて「実にファンタジーチックだなぁ」という妙な安心感が湧いた。知識を得るというよりも、先入観と照らし合わせていったというニュアンスが近いだろう。俺の脳味噌はこの小一時間だけでパンクしそうになっている。すんなりと入ってきてくれる話は実に心地よい。 

 

 一方で、この世界に住む人々は15歳までに能力――――彼女たちは魔法と呼んでいるらしいが――――を目覚めさせなければいけない、という話だけは直感に反していた。

 曰く、彷徨者が15歳を迎えると世界に良からぬことが起きるとのことらしい。


 そんな話は迷信だ!魔法が使えない人の年齢と、世界の危機の因果関係は不明だ!・・・とあらゆることが科学で説明付けられる元の世界でならば言えたかもしれないが、ここはファンタジーの世界。直感で否定できる話ではないし、現に彼女自身が今の今まで、死ぬ運命にあったとのことだ。



 すげぇ俺。異世界転移初っ端で女の子の命の恩人になっちゃってたよ!・・・結果論でしかないんだけど。



 他にもこの世界にまつわる話をいくつか聞かせてもらった。段々と彼女の緊張感もほぐれてきたらしい。出会った時は恐る恐るといった感じで喋っていたのが、今はだいぶハキハキと喋ってくれているし、身振り手振りも増えてきたように感じる。



 ふふふ、分かるぞアトリちゃん。

 ついつい饒舌になっちゃうんだよな。地元トークって。



「あ、ごめんなさい!私ったらついつい話しすぎちゃって・・・・」


「あははは。いいよ、いいよ。むしろありがたいくらいさ。おじさんからしたら、女の子はちょっと元気なくらいが見ていてかわいいものだからね」


「か、かわぁ・・・・っ」


 おっと彼女を困らせてしまった。いけないいけない・・・。俺はおっさんで相手は10も年下の未成年。ちょっとしたことがセクハラ、モラハラに繋がるのだ。気をつけねば。


「だいぶこの世界については詳しくなれたよ。それでちょっと気になったんだけど、アトリちゃん、街に帰っても平気なの?」


「えっと、どういう意味でしょう?」


「聞いてた感じアトリちゃんをここにつれてきた人たちは災いが来たと思って逃げちゃったんだよね?そうなると君は災いを呼び寄せた危険人物って思われちゃったんじゃないかなって」


「それなら多分大丈夫です」


 そう言って彼女は前髪をかき分けて、上目遣いでこちらを見つめてきた。


「・・・・青くてかわいい目をしているね」


「!!!あ、えっと、そ、そういうことではなくて、いやあってるんですけど・・・っ!」


 しどろもどろになりながらもなんとか彼女は説明を続けてくれる。


「彷徨者・・・魔法に目覚めていない人たちは黒目の色が真っ赤になるんです。赤みがかってるとかじゃなくて、真っ赤に」


「ああ、よくある吸血鬼のキャラとかのイメージかな?」


「えっと、それはわからないですけど、とにかく目の色で彷徨者かどうかは見分けることができるんです。私は太一さんに出会ったおかげで魔法に目覚めることができました。おかげで私本来の目の色も今初めて知ったんですよ!そっかぁ。おばあちゃんと同じ青い目をしてたんですね、私・・・えへへ・・・」


 彼女の大きな青い目の輪郭がかすかに揺れている。

 それもそうか。

 今までとてもつらい思いをしてきたんだから。

 今は安心やら感動やら、いろいろな感情が湧いてきているのだろう。



 うん。うん。



「・・・・ゔゔうう!よ、よがっだねぇええ・・・ア"ドリ"ぢゃん”・・・っ」



「わっ!!ど、どうされましたか!!大丈夫ですか太一さん!?」



 いけないねえ、歳を取るとどうも涙腺が・・・!

 まあまだ20代なんだけど、田舎暮らしが長いとどうも精神的に老けるのも早くなるもので・・・。



 とにもかくにもアトリちゃんのことは心配いらないようだ。その目を見てもらえれば彷徨者でなくなったことはみんなに伝わるみたいだし、祟りの原因も俺のせいだということを説明すれば大丈夫だろう。

 

 今日は通訳も兼ねてそばにいてくれるみたいだし、ありがたい限りだ。


 ・・・・あれ?むしろ心配すべきは俺の方なんじゃね?これからどこに行くとか、どこに住むとか、マジで先行きが見えない。

 転移する時に見送ってくれた女神も、魔王的な何かを倒せみたいな目標をくれるでもなく、能力だけ授けてくれたわけで。


 目標は自分で探せということだろうか・・・。



「そ、そういえば太一さんのこれからのご予定についてお聞きしてもよろしいですか?」


 おっとタイムリーな質問だ。


「実はそれが何も決まってなくてね。この世界に来たのもついさっきだし、まずは衣食住の確保からかな」


「ならうちに来ていただけませんか!?」


「アトリちゃんのうちに・・・」


 20代男性、10代女性の家に侵入する。


 あ、だめ。犯罪臭しかしない。


「いやだめだよそれは。迷惑かけちゃ悪いし」


「迷惑だなんて事ありません!太一さんは私の命の恩人なんです!」


「世の中には法というものがあって・・・」


「で、でも!!」


 彼女はぐいっと身を乗り出してきた。勢い余ってしまったんだろう。まつげの長さや揺れ、吐息が感じられるくらいに、その、顔が・・・近い!

 彼女自身は、熱意が勝っているのか、その事に気づいていないようだ。

 目と口元の揺れがていて、ほのかに頬も赤みを帯びている。

 とか、冷静に分析しているけど、俺もなんかドキドキしてきたなぁ・・・。相手子どもだぞ、正気を保て石飛太一!


「・・・恩返しをしてくれるのはとても嬉しいよ。でもやり方は色々あると思うんだ。食べれるきのこや山菜が生えてる場所を教えてくれるとか、立久恵のキャンプ場みたいないい感じの河原を教えてくれるとか、そういうので俺は十分だからさ」


「さ、サバイバル!?そんな事恩人にさせられませんよ!?

 うー、な、なら!・・・私のために、うちに来てください!」


「アトリちゃんのため?」


「そうです。私の魔法は太一さんに出会って目覚めました」


 それは先程のいきさつを語ってくれた中で聞いた話だった。


 固有適正【異世界交流】・・・・


 字面から察するに、俺のような異世界から来た人、物、事に接することで魔法を得ることができるのだろう。

 つまり、俺と過ごすということは、アトリちゃんのためにもなる・・・ということだろうか。


「私、今日はじめて魔法が目覚めて、すごく嬉しかったんです。命が助かったのはもちろんですが、ああ、私やっと魔法が使えるようになったんだ・・・って。

 今は言葉だけですけど、太一さんと接していく中で、もっともっと素敵な魔法を見つける事ができるんじゃないかな・・・って・・・・」


 その時、一羽の小鳥がやってきて、アトリちゃんの肩にとまった。

 鈴のような鳴き声を出しながら小刻みに羽先を震わせている。


 その姿はまさに、童話の一枚絵から抜き出したような、そんな印象を俺に抱かせた。


「た、太一さん・・・!」


「どうしたの?」


「こ、小鳥さんが肩にとまってます・・・!」


 あれ。メチャクチャ絵になってたから、珍しくないことかと思った。なんとなくファンタジーの姫様って動物を侍らせてるイメージあったから。


「・・・きっとアトリちゃんのこれからを祝福しにきてくれたんだよ。ほら、白い鳥ってさ。俺の元いたとこでは縁起がいい鳥って言われてるから」


 タンチョウヅルとかマナヅルっていうんだけどさ。クソでかいの。時々地元に飛来するヤツ。


「そうなんですね・・・・えへへへ」


 破顔する彼女を見て俺もつい口元が緩んでしまう。

 もう彼女は苦しむことはない。これからは他の子達と同じように、当たり前の日常を送って良いのだ。明日の誕生日を迎えてもよいのだ。


 これはきっと神様・・・女神かもしれないが・・・からの前祝いにちがいない。


「ああ、えっと、そ、そろそろ日も暮れちゃいますね。行きましょうか!太一さん」


 彼女の太陽のような晴れやかな表情から、本当に嬉しそうな気持ちが伝わってくる。・・・・そうだよなぁ。これ以上この子を困らせるわけにも行かない。

 冷静に考えればこの世界に児ポ法なんてないだろうし、そもそも俺が変な気を起こさなきゃ良いだけのことだし。


 お世話になるわけだから、今のうちにお礼を言っておこう。


「アトリちゃん」


「なんですか?」






だんだん(ありがとう)






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 林を抜けて湖の街へ。俺からすれば初めての異世界の街だ。心が躍る。

 そう。初めての街。初めての街なのだ。


 頼むぞ?あんまり地元を感じさせないでね?


 島根県民あるある、『観光地だけど地元だからあんまり魅力感じない』現象は起きないでほしいなあ・・・・。

 

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