9話 どうして異世界にやってきたんですか?
懺悔
今回は、主人公の回想です。どうしても、ミカ視点で描くのが難しいので、ここ回だけ主人公視点になっています。ご理解下さい。
「異世界転移するってのに、NPC扱いってどういうことですか!!!!戦えないじゃないですか!!!!」
「そうですね……そうなりますね」
「で!元の世界に戻るには、この世界の問題を解決する。つまり、ゲームクリアをする必要があると!!?」
「そうですね……おっしゃる通りです」
「戦えないのに、どうやってクリアするんですか!?」
「そうですね……そうなりますよね」
不思議な白い空間の中で、僕と和服を着た女性が問答をしていた。その女性は、僕の主張をただ聞き流しているだけのようだった。そもそも、始まりは数時間前にさかのぼる。
数時間前、僕は、新幹線のグリーン車の中で書類に目を通していた。反対側では、高校生と思われる青年が本を読んでいる。青年は、本を読みながら彼に尋ねてきた。
「どうして、俺を連れて行くんだ?」
「え~。だって、僕よりゲーム詳しいでしょ?」
「確かにそうかもしれないが……。ゲームに詳しくないのに、ゲーム会社を買収するか? 普通……」
僕は、会社の経営を生業なりわいとしていた。数年前、とあるゲーム会社の買収の話を持ちかけられ、僕はその話に乗ることにしたんだ。僕は資料を見ながらその青年に言った。
「だってさ、やったことのない仕事ってさ、ワクワクしちゃうじゃん。」
青年は、自分よりも若々しい無邪気な振る舞いをしている彼を見てため息をつきながら言った。
「だが、問題だらけなんだろう、そのゲーム。今回ばかりは、大損するんじゃないか?」
「損とか得とかは、どうでもいいかな。やりたいことをやれるんだから。それに、買収したときに使ったお金もそんなにないし、痛くも痒くもないよ。」
「……まぁ、自分でやりたいことなら反対はしないがな。」
僕らが、目的の駅に到着すると、一人の男性が近寄り声をかけてきた。
「社長。お待ちしておりました。お車で会社までご案内させていただきます。」
「うん。よろしくお願いします。」
その男性は、僕らが来るのを待っていた。ゲーム会社の人間だ。男は、僕らを車に乗せ会社へと案内した。そのゲーム会社のオフィスは、ビルの一角を借りている、オーソドックなタイプのオフィスだった。男に案内されるがままに応接室に入り、しばらくすると、その会社の重役らしき男が挨拶に来た。
「どうもご無沙汰しております。わたくしが、代表取締役の本庄早人と申します。この度は、弊社に多額の融資をしていただきありがとうございます。社長の噂はかねがね伺っております。」
その男は、彼に名刺を差し出してきた。僕もすかさず名刺を渡し本庄に挨拶をする。
「ご丁寧にありがとうございます。私が、※《蛹玲イ「》です。本日は、よろしくお願いします。」
※ バグって回想ですら文字化けしています
本庄は、名刺を受け取ると、僕が連れている高校生の方をチラリと見て言った。
「こちらの方は、社長のご子息ですか?」
「いいえ。私の養子です、ゲームに詳しいですし、この年ではありますが経営の才もあるので連れてきました。ぜひ、一緒にお話ができればと思います。」
僕がそう言うと、本庄は笑みを浮かべながら言った。
「なるほど。それは楽しみです。それでは、さっそく弊社の運営するMMORPGをご紹介しましょう。それでは社長。おかけください。」
本庄がそう言うと、応接室のスクリーンがゆっくりと降下し、数名の社員が資料を持ってきた。このソロモンと呼ばれるゲームは、2年前から運営されているMMORPGだ。MMORPGとは、インターネットを介して、大規模な人数が同時に干渉しあってプレイできるロールプレイングゲームの総称である。配信開始当時は、そのあまりにも莫大なコンテンツから一時話題になったものの、様々な問題点が見つかり、次々とユーザーが減っていった。そしてついに、インターネットの口コミで酷評が付くまでになってしまった。
いわゆるクソゲーというやつである。
本庄ら数名の社員は、ソロモンの概要や問題点などを説明し始めた。
数時間後、僕と連れの青年は、資料を見ながら頭を抱えていた。それはもちろん、ソロモンが抱えている問題点が多すぎるためだ。
ソロモンは、人族と魔族との争いを描いたゲームである。当然、RPGではおなじみのボスキャラクターが存在するのだが、なんとそのボスが72体もいるのだ。おそらく、ソロモン72柱を参考にしているのだろうが、多すぎるだろ!!
次に、バグも多かった。ゲームを進めていくと様々なバグに遭遇のだが、極めつけは、ゲームを始めてすぐのキャラクター設定ですら一定確率でバグってしまう。
さらに、RPGではおなじみのゲーム内での通貨が存在していなかった。
一体何を考えているのだろうか!?彼は、これらの問題を解決するために、仕様変更を検討すること。運営や企画について※SWOT分析をすることを依頼し、その場を後にした。
※SWOT分析
マーケティング等を行う際に、用いられる分析手法の一種。自社や自社の製品・サービスの強みと弱みを知り、さらに市場の状況や競合の動きなどを把握することができる。
その場を後にした僕らは、再び新幹線に乗り、仕様書を読みながら頭を抱えていた。すると、連れの青年が僕にいった。
「仕様書を見たが……予想以上にクソゲーじゃないか。本当に大丈夫なのか?」
僕は、その質問に対しこう答えた。
「大丈夫かどうかは、どうでもいいかな。それよりもこれから、このゲームがどう変わるのか、興味わかない?」
僕が目を輝かせながらそう言うと、青年は、あきれ顔で言った。
「お前なー……。相変わらずだな」
「あ! そうだ。一つ寄りたい場所があるんだけどいいかな?」
「なんだ? 別に時間は、あるから構わないが……」
「ならよかった。さて、東京に着くまでまだ時間があるから、少し仕事を終わらせようかな。」
僕は、そう言ってパソコンを開き、作業に没頭するのだった。
東京に戻った僕らが向かったのは、とある神社だった。
青年は、その神社の鳥居を見上げながら嫌な顔をしている。
「寄りたい場所ってここかよ……」
青年には、この神社での悪い思い出があった。しかし、僕はそんなことなどお構いなしで言った。
「だって、ご利益ありそうじゃん!」
「お前もこの神社の神様に何かされても知らないぞ」
「何かされるって、兄さんみたいに子供の姿にされちゃうとか?」
僕は、青年を横目にそう言った。青年は、少し黙ってから言った。
「………………それは言わないでくれ。それより、さっさと参拝してしまおう」
そう言って、境内に足を踏み入れた次の瞬間だった。突然僕の体が白く光りはじめ、体が徐々に薄くなり始めた。その様子を見て青年は慌てて声をかける。
「おい!!どうなってるんだ!?大丈夫か!!?」
「うわ!!ナニコレ!!!体が透けてきてる!!!」
それから数秒後、僕の視界は真っ白になり、何も考えられなくなった。
「………だ…い」
「…き…ださい」
「おきてください」
僕は、静かに目を開いた。辺りは真っ白で何もない虚無の空間。その中で、僕は宙を漂っていた。
目の前には、和服を着た女性が自身と同じようにモワモワと漂っている。どうやら、この女性が僕に話しかけているようだ。僕は、その女性に質問した。
「あなたは……もしかして、あの神社の神様ですか?」
和服を着たその女性は、機械的に返答した。
「その通りです。理解が早いですね」
「で、僕をこんなところに連れてきて何の用ですか?」
「はい、私は願いを叶えるために、あなたをここに連れてきました」
神様は、そう言った。僕は、首をかしげながら言った。
「願い……ですか?一体何をするつもりなのですか?」
僕の質問に対して、神様は無機質な返答をする。
「はい。今から、あなたには異世界転移をしてもらいます」
「異世界転移!? よくライトノベルで描かれる、あれですか? なんでまたそんなことを……」
「あなたに転移してもらう世界は、あなたの買収したゲーム会社のゲームの世界です」
「………………は!?」
思わず動揺してしまった。神様は、相変わらず無機質に答える。
「ですから、あなたが買収した会社が運営している、《ソロモン》の世界に転移してもらいます」
僕は、あきれた顔で神様に言った。
「はぁ~。願いを叶えるって言いましたけど……何をどう解釈したらそうなるんですか!!?」
神様は、首を傾げ、上目遣いをしながら言った。
「え? だめなんですか?」
「今、その顔しないで、ちょっとムカつく」
「…………………………………………」
数秒間、お互いに沈黙する。僕は、その間に自分の置かれている状況を整理する。今、目の前に居るのは神様で、今から自分を買収した会社が作ったクソゲーの世界に送り込もうとしている。しかも、それは願いを叶えるためだと……。 それは、ゲームでの行動次第でゲームの仕様やマーケティングに影響が出るという事だろうか? さっぱりわからない。僕は、その神と名乗る女性に最後の確認をとった。
「これって拒否権は、ありますか?」
「もう、転移先なので、できません。」
………………神は無慈悲だった……。
僕は、あきらめてひとまず状況を受け入れた。それはそれで、ワクワクする展開だったからだ。
「ま!いっか、異世界転移ってのも楽しそうだし!それで、元の世界に戻ることは、可能ですか?」
「はい、このソロモンの世界で起こる問題を解決すれば、元の世界に戻れます。いわゆるゲームクリアというやつです。」
「ちなみに、この世界で死亡したら?」
「はい。そのまま死亡します。もちろん元の世界には帰れません」
「そうですか。では、元の世界に戻れた時、この世界で経過した時間分は加算されますか。例えば、クリアに1年かかり、元の世界に戻ったら同じ1年の時間が経過するといった具合に……。」
「いいえ。あなたが希望する日時に戻ってもらいます。限度はありますが……」
「なるほど……そこは、勝手がいいですね。ちなみに、ソロモンはRPGですから、魔族モンスターと戦闘することが前提になります。僕に戦闘能力は、与えてくれるんですか?」
「ええ。もちろんです。」
神様は、そう言うと右手のひらを天に向けた。すると、数値の書かれたクリスタルのようなものが、突如姿を現した。神様は、そのクリスタルを彼の前に差し出して言った。
「それでは、キャラメイクといきましょう。まずは、扱える属性から決めましょう。火・水・雷・地・闇・光の6つの属性から一つを選んでください。」
「確か、このゲームはゲームバランスが悪すぎて、闇属性が最強だったからそれにしようかな」
「承知しました。それでは次に、ステータスを決めてたいと思います。このクリスタルに触れてください。」
僕は、クリスタルに手を触れた。その時だった、クリスタルの挙動が突然おかしくなりすべての数値と文字が文字化けし始めた。神様は、無表情のままボソッとつぶやいた。
「………………あ、バグった……。」
「は?」
「すみません。バグりました。仕方ないですね……NPC扱いになります」
僕は、きょとんとしながら神様に質問する。
「異世界転移するってのに、NPC扱いってどういうことですか!!!!戦えないじゃないですか!!!!」
「そうですね……そうなりますね」
「で!元の世界に戻るには、この世界の問題を解決する。つまり、ゲームクリアをする必要があると!!?」
「そうですね……おっしゃる通りです」
「戦えないのに、どうやってクリアするんですか!?」
「そうですね……そうなりますよね」
「いや、そうなりますよね、じゃないですよ!!」
「そうですね……そうなりますよね」
………………神は無能だった……。
「じゃぁ、せめて凄いアイテムとかないんですか?」
「そんな、アイテム。もともとこの世界にありませんよ。レベルを上げて、魔法か物理で殴るゲームですから。それは、よくご存じなはずでしょう?」
「クソゲーーーーーー!!!!!!!!!!」
僕は、はじめてこの会社を買収したことを後悔した。だが、時すでに遅し。神は、淡々と転移の準備を進めている。
「あ、そうだ。いいわすれました。プレイヤー名がバグってしまったので、別の名前を名乗るようにしてください。本名を名乗ると、あなた自身もバグってしまうと思うので」
「いや! どういう理屈だよ!?」
神がそう言い終わると、次第に神の体が薄くなっていった。正確には、自分の視界が再び真っ白になっていった。
「え!ちょっ………………ま………………。」
僕は、再び意識を失った……。
「そこから、ミカと出会ったってわけだよ。」
バフェットさんは、自分に起こったことを洗いざらい話してくれました。……なんか、おかしなところがあった気はしますが……。
「さて、僕の話はこれでおしまいだよ。もう、だいぶ暗くなっちゃったね。僕はもう寝るよ……おやすみ……」
「はい。おやすみなさい。」
この人なら、この世界を救えるかもしれない……それは………………いいえ。もう考えるのはやめましょう。明日も、町に帰るために移動しなくてはなりません。私は、焚火の火を見ながら静かに眠りにつきました。
1、所持品
・名刺入れと名刺1式・ボールペン1本・冒険者用リュック1個・スマートフォン1台・メタノール500mL瓶×2・回復薬3回分・音爆弾2発・ランプ・布袋20枚・火打石1セット・携行用ナイフ1個・保存食2日分
2、損益計算(1話分)
繰越
銀貨2枚
銅貨15枚
収入
なし
支出
なし
合計
銀貨2枚(10000円分)
銅貨15枚(1500円分)
計 11500円
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった、続きを見たい、神様の上目遣いもっと見せろ」
と思った方は
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懺悔その2
気づいた方も居るかもしれませんが、バフェットさんの正体は、前作の登場人物の一人です。設定を欲張ってすみません。
前作では、彼が現実世界でどんな事をしていたのかが、ある程度描かれています。興味のある方は、前作『ReSTART!!〜中学生に転生して無双した事案についての報告書〜』をご覧下さい。