7話 自然発生じゃないんですか?
物質の解説
メタノールとは?
アルコールの一種で、現在では燃料として利用されています。アルコールランプなどに用いるアルコールは、このメタノーを使います。
ちなみに、お酒に含まれるアルコールは、エタノールという物質で同じアルコールでも毒性は全く異なります。
「それじゃ、かんぱーい!!」
私たちは、町の中にあった冒険者の宿でランチを食べることにしました。銅貨3枚を支払って、食べるランチは格別です!! バフェットさんは、さらに2枚の銅貨を支払って、ぬるいビールを飲んでいます。
「うん! さすがにおいしいな!! たまらない!!」
数か月ぶりのお酒なのでしょう、まるで子供のように喜んでいます。バフェットさんは、ビールを飲みながら、一冊のファイルを読み始めます。いったい何の書類なのでしょうか? 私は質問してみることにしました。
「何を読んでいるのですか?」
すると、バフェットさんはファイルをテーブルに広げて見せてくれました。そこには、たくさんの依頼についての書類がまとめてありました。
「これは、この冒険者の宿が受け付けた依頼をまとめたものだね。これを見ながら冒険者が依頼を受ける仕組みみたいだよ。ほら、これを見てよ」
バフェットさんは、1枚の依頼書を取り出しました。そこには、午前中に探索した採掘場の採掘の依頼について書かれていました。そして、その依頼料は……
「え!? 私たちがもらった報酬の倍以上じゃないですか! あの商人さんケチってるんじゃ……」
「僕は、そう思わない。適正な価格だと思うよ。冒険者側が町の人たちが採掘できないことをいいことに、値段を吊り上げているんだと思うよ」
そんな話をしていると、一人の冒険者が私たちの元にやってきました。
「よぉ! また会ったな。一緒に食事してもいいかい?」
それは、採掘場で出会った剣士さんでした。剣士さんは、私たちに言いました。
「それにしても、あのオオコウモリの大群を2人で全滅させちまうなんてな。お前たちどこの宿に登録している冒険者なんだ?」
「……え? えっと……」
私は、返答に困ってしまいます。ほかの町から勝手にやってきて、勝手に依頼を受けたなんて言えません。私が困っていると、バフェットさんが剣士さんに言いました。
「ただの旅人さ。あの商人さんは知り合いでね。お手伝いをしただけだよ。」
この人は、本当にしれっと嘘をつきます。さっきもそうです。本当は、オオコウモリを音爆弾で気絶させただけなのに、魔法を打ったなんて嘘をついて、この人は何を考えているのでしょう。剣士さんはバフェットさんの嘘を疑うこともなく、話を進めます。
「なぁ、お前らってさ、“転移者”なのか?」
「ああ。その通だ。君もそうなのかい?」
「俺は※2類転移者だ。君たちは、どうなんだい?」
※ 1類転移者:現世で死亡し異世界転生したもの
2類転移者:ソロモンのゲームプレイヤーが異世界転移したもの
3類転移者:1・2類に当てはまらないもの
「僕は、3類だよ。そう言えばミカは、何類なんだい?」
「え? 私も3類だよ。そう言えば言ってなかったね。」
「そうか、じゃぁお前たちこのゲームをどう攻略していいか分からないだろう? どうかな? うちの宿の冒険者にならないか?」
剣士さんは、私たちに提案してきました。剣士さんは、さらに話を続けます。
「実は俺、ここの宿の経営者なんだ、戦力が足りなくてさ。君たち強いんだろ? うちとしても助かるんだけどどうかな?」
この人は、私たちの実力を完全に勘違いしています。そもそも、私たちは別の冒険者の宿に登録をしています。そんなことはできません。バフェットさんは、立ち上がり言いました。
「すまないね。僕たちは、このままブラブラするつもりだよ。さて、ミカそろそろ帰ろうか。」
バフェットさんは、そそくさと立ち去りました。私は、急いで追いかけます。
「ちょっと。まってくださーい。バフェットさ~ん!!」
「………………」
私は、バフェットさんを追いかけるように宿を飛び出しました。バフェットさんの背中は、心なしか怒りに震えているようでした。
昼食を済ませた私たちは、商人さんの家に行きました。バフェットさんは商人さんと別室でお話をしています。一方の私は、バフェットさんの頼まれごとをしていました。それは、外で焚火をすることでした。なんでも、木炭が欲しいからだそうです。なんだってそんなもの……。そして木炭を作っているあいだ、採掘場でバフェットさんが集めていた白い石を砕いて粉末にします。これも、バフェットさんからお願いされていたことです。一体、これで何をするのやら……。せっかく仕事が終わってのんびりできるっていうのに、何で働きゃなきゃいけないの?
「どう? 進んでる?」
「うわ~! バフェットさん!?」
「お~。結構作業進んでるね。助かったよ。」
そう言うとバフェットさんは、私の作った白い粉末や木炭を粉末にして袋の中に入れ始めます。私は、その作業を眺めながら質問します。
「それで、バフェットさん。いつ、この町を出発しますか?」
私の質問に対して、バフェットさんは予想外な返答をします。
「まだ、依頼終わってないでしょ。明日になったら採掘場に戻るよ。さっき、商人さんに交渉したらもう1日泊めてくれるってさ」
「え!?」
次の日の朝、私たちは再び例の採掘場に足を運びました。私は、バフェットさんに尋ねます。
「依頼が終わっていないってどういうことですか?」
「商人さん言ってたじゃないか。モンスターが大量発生している原因を排除できたら報酬をくれるってさ。今日はその調査だ」
「でも、あんなの自然発生じゃないんですか?」
「とにかく、調べてみればわかることだよ」
本当に大丈夫かな~? 噂では、あの採掘場にはゴブリンも出没するという話です。私はゴブリンと何回か戦ったことがありますが、1体倒せてやっとというところです。あんなのが大量発生したら確実に死んじゃう気がします。私は、そんな不安を胸に採掘場に向かいました。
採掘場に到着した私は、さっそく松明の準備をしました。また、照明装置を起動させなくてはならないからです。すると、バフェットさんが言いました。
「ミカ、今日は照明は“なし”だ。」
「どうしてですか?」
「ゴブリンは、人間と同じで暗いところでは目が見えないんだ。だから、照明を付けずに探索した方がいいんだ。」
「でも、それだとあまりにも危険じゃないですか!?」
「そこで、スキルを使おうと思うんだ」
「え!? バフェットさんスキル使えるんですか?」
「まさか。僕はNPC扱いだからね。スキルを使うのは、ミカ、君だよ」
「え!? 私ですか!? 」
「前に、ミカのスキルを見たときに気が付いたんだ。ミカって闇属性のスキルを使うでしょ。たしか、闇属性のプレイヤーは、現実世界だと暗視って言って、暗闇でも見えるようになるスキルが使えたはずだ。やってみてよ。」
「え? そうなんですか? とりあえずやってみますね。」
私は、目に意識を集中してみました。すると、真っ暗な採掘場の様子が手に取るようにわかります。こんなことできたなんて、全然知らなかった。
「うわ!! すごいこれ!! めちゃくちゃ見えますよ!!」
「それじゃ、くまなく探索してみようか。ああそれから、この瓶を渡しておくね」
「なんですか? これ?」
「特別な薬だよ。ちょっと試したいことがあるんだ」
私たちは、何の照明もつけないまま、採掘場の中に入っていきました。採掘場の中には、数体のゴブリンがいるようです。私はそっとゴブリンに近づき……。
「えい。」
バフェットさんからもらった薬をかけてみました。すると、ゴブリンは急に動かなくなりました。しかもそれは、薬をかけたゴブリンだけでなく、周辺のゴブリンも動かなくなりました。一体この薬は何なんでしょう?これなら……。
「ぐぎゃぁぁぁぁ!!!」
不意打ちをキメまくります。こんなに楽勝なのは、初めてです。これなら、何体出ても大丈夫そうです。ですが、しばらくゴブリンを倒していると突然明かりがつきました。
「え!? なんで!?」
すると、バフェットさんは身構えていいました。
「くるよ。この事件の黒幕が。」
「え? どういうことですか!?」
「そもそも、暗い場所で目が見えないゴブリンが、こんなところに居ること自体おかしな話だったんだ。おおかた、ゴブリンを召喚でもしたんだろう」
「ゴブリンを召喚? 出来るんですか、そんなこと?」
「確か、そういう《課金アイテム》があったはずだよ。本当は、昨日もゴブリンを召喚して僕たちを殺そうとしていたんじゃないかな? でも、僕たちがオオコウモリの大群を一撃で倒したと勘違いして、その日は襲い掛かるのをやめたってところじゃないかな」
「バフェットさん? 何を言ってるんですか? こんなことをして得する人なんて誰もいないじゃないですか。」
「いいや、得をする人間はいるよ。いい加減出て来いよ! 冒険者の宿に居た剣士さん。あなたなんだろ!?」
バフェットさんがそう言うと、岩陰から、昨日出会った剣士さんが姿を現しました。その顔は、悪意と殺意に満ちた顔をしていました。
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
・名刺入れと名刺1式・ボールペン1本・冒険者用リュック1個・スマートフォン1台・メタノール500mL瓶×3・回復薬2回分・音爆弾2発・ランプ・布袋20枚・火打石1セット・携行用ナイフ1個
・硝石600g・湯の華200g・木炭200g・ろうそく1本・糸1m
2、損益計算(1話分)
現金
銅貨20枚
収入
なし
支出
昼食代 銅貨5枚
合計
銅貨15枚(1500円分)
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