5話 お金ってそもそも何なんですか?
領地について
クラン領
バフェットとミカが出会った領地。銀貨と金貨のみが流通しており、物々交換が主流になっている。農村が多い。
アントワーヌ領
数年前に、出来たばかりの新しい領地、面積は狭いが資源がそれなりに豊富。銅貨が出回っており、物々交換とは別に銅貨での取引も行われている。
スライムの大群を全滅させてから、1日経ちました。私たちは、ようやく目的の町にたどり着きました。町は、簡単には超えられない壁に囲まれています。この町に来たのは、私も初めてです。私は、商人さんに言いました。
「すごい城壁ですね。これなら、モンスターに町が襲われる心配もありませんね!」
すると、商人さんは暗い顔をして言いました。
「そうじゃねぇんだ、お嬢ちゃん。この壁は、そんなことのためにあるんじゃねぇんだ!!」
商人さんは、少し怒った口調で言いました。私は、彼の言っている意味が分かりません。でも、その理由は町の入り口ですぐにわかりました。商人さんは、入り口で馬車を止めると、門番が馬車の荷台を調べ始めました。門番は、荷物を一通り確認すると、手を出していいました。
「通行税として、銅貨12枚頂きます。」
商人さんは、嫌な顔をしながら銅貨を手渡し、私たちを町の中に入れてくれました。そして、私たちに怒りをぶつけるかのように、説明してくれます。
「坊主、見ただろ!? この領地は、こうやって俺たちから税金とか言って金を巻き上げるんだ!! 本当にアントワーヌって領主は、金の亡者だよ!!」
確かに、アントワーヌが悪徳貴族だという噂は、私も聞いた事があります。さっきの町の壁は、モンスターから町を守るためではなく、入り口を限定して確実に通行税を取るためのものだったのです! 私も、商人さんと同じ気持ちになって言いました。
「噂には聞いていましたけど、本当にひどいんですね!! それに、この領地では、珍しく銅貨が出回っていますけど、それって……」
商人さんは言いました。
「ああ!! 庶民は、銀貨や金貨を持ってないから、銅貨を流通させて、税金を巻き上げやすくしてるんだ!!」
これは……いくらなんでも酷すぎます!! すると、バフェットさんは、言いました。
「商人さん。ちなみに銅貨1枚の価値ってどれくらいですか?」
「ああ、銅貨2枚で小麦粉1ポンドくらい購入できるぞ。」
「なるほど……そうなると銅貨1枚で100円ってところか……。」
バフェットさんは、一人でつぶやきながら、勝手に納得していました。
町の中をしばらく移動すると、商人さんの倉庫が見えて来ました。私たちは、商人さんの倉庫に荷物を運びます。その時に、私はある事に気が付きました。
「なんか、荷物の量が思ったより少ないですね。」
すると、商人さんは言いました。
「ああ。お前さんたちの町で、銀貨に交換してもらったからな。この町だと、通貨で商品の交換を行うことが多いから、何かと便利なのさ。」
「便利……なんで?」
私は、商人さんの言っていることを理解することができませんでした。すると、バフェットさんが説明を始めました。
「いいかい。お金には、3つの機能があるんだ。もちろんそれは、物々交換という仕組みよりも遥かに便利なんだよ。商人さん。少し町の様子を見に行ってもいいですか? 依頼は、その後と言うことで。」
「おお。構わんぞ!」
「それじゃ、ちょっと見てきます。」
私たちは、町の中心街へと向かいました。中心街は、お店がたくさんあり、私たちの町よりよっぽど栄えていました。私が暮らしていた町には、商店街というものはありません。私は、この世界で見る初めての商店街に心を躍らせていました。すると、バフェットさんが言いました。
「さてと、この町には、たくさんのお店があるね。どうして、これだけ発展しているかわかるかい?」
「えっと……商人さんがたくさんいるからですか?」
バフェットさんは、ニコニコしながら言いました。
「え~? 本当にそうかな~?」
「もう! どうせ違うんでしょ! 教えてください!」
「簡単だよ。ここでは、一般人にもお金が流通しているからだよ。」
「町の発展とお金ってそんなに関係あるんですか!?」
「大ありだよ。お金には3つの機能があるって言ったよね。一つ目は、価値の保存だ。」
「価値の保存?」
「まず、どんなお店があるのか、見渡してごらん。」
私は、バフェットさんが言った通り、お店を眺めました。そこには、飲食店や雑貨屋……そして……。
「なんか、食品店が多い気がします。しかも、保存食にならないものまで……。」
「そうだね。食品で物々交換をすることがないから出来るんだよ。通貨が流通していない僕たちの町でこんなことをやったら、食べ物なんてすぐに腐ってしまうからね。生産した食べ物をすぐに通貨にしてしまうことで、その価値を保存することが出来るんだ。もちろん、物々交換もお金があった方がやりやすい。」
「どういうことですか?」
「例えば、この間行った物々交換も、小麦→肉→魚に交換しないと魚を手に入れることができなかったでしょ?でもこれがお金なら交換が楽になるんだ。何より、荷物も軽くなるしね。これが2つ目の機能、交換手段だ。」
「たしかに、お金が便利なのは分かりました。でも、そしたら不思議じゃないですか?」
「何がだい?」
「商人さんは、何で通貨の存在しない私たちの町に物々交換をしに来たんでしょうか?」
「いい質問だね。それは、お金が流通していないからこそ、相場がわかりづらくなっているためだと思うよ。」
「相場……? やめて~。わけがわからないよ~!」
「覚えているかい? あの商人に小麦と肉を交換してもらったときのことを。あの商人、最初はかなりぼったくろうとしてたでしょ?」
「そういえば……」
「お金が流通していないと、物の価値が分かりにくくなるんだ。だから、交渉次第でぼったくれるんだよ。あの商人さんは、そのことをわかってて、僕たちの町にわざわざ、物々交換しに来ていたんだよ。」
「え!? じゃぁ、悪い人じゃないですか!! 転売ヤーですよ!!」
「そうだね、ビジネスモデルは……似たようなものだね。でも、悪いことかというとそうでもないと思うよ。ともかく、僕たちの町でもお金が流通すれば、物の価値はわかりやすくなるし、相場も安定するだろ?これが、お金の3つ目の機能、『価値の尺度を測る』だ。」
「お金の機能か……高校では習わなかったな。バフェットさんは、どこでこんなことを勉強したんですか?」
「たぶん、この話は大学の経済学で最初に勉強することが多いと思うよ。」
「大学? バフェットさん何歳なんですか!?」
「とっくに、大学を卒業してるよ」
「おじさんじゃん。そんな気は、していましたけど」
「さてと……もう1か所見ておきたいところがあるんだけどいいかな?」
「はい。いいですよ。」
私たちが最後に立ち寄ったのは、教会でした。私は、なぜここに立ち寄ったのか聞いてみることにしました。
「どうして、教会なんて立ち寄ったんですか?」
「この国の宗教を確認しておきたかったんだ。」
「どうしてまた宗教なんて……」
「宗教と文化は、深く根付いているからね。この世界の人々を理解するのに役立つ。ほら、経典ももらってきた。それに……」
「それに?」
「この国が信仰している《救済の女神》ってやつは、僕たちをこの世界に送り込んだ張本人だ。少しでも手掛かりになればと思ったんだけどね……」
《救済の女神》私たちをこの世界に送り込んだ神様で、私がときたまアイテムを使って会話をする神様です。彼女は救済のために、現実世界から人間をこの世界に送り込み続けています。
すると突然、教会の鐘が鳴りました。これは、お昼になったことを意味しています。真剣だったバフェットさんの顔は普段の様子に戻り、私に言いました。
「そろそろ、お昼だね。商人さんのところに戻ろうか」
「はい!」
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
・名刺入れと名刺1式・ボールペン1本・冒険者用リュック1個
・スマートフォン1台・メタノール500mL瓶×6・スカスカ草1kg・回復薬3回分
・ランプ・布袋20枚・火打石1セット・携行用ナイフ1個
時価総額 約25000円
2、損益計算(1ヶ月換算)
収入
給与:その日の生活費とお手伝い代120000円
支出
冒険者の宿との契約:80000円
倉庫レンタル代:40000円
合計
0円
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