4話 ポンドって分かりづらくないですか?
アイテム解説
スカスカ草
竹に似た植物。茎の太さは竹の半分くらい。
肉屋さんとの交渉を済ませた私たちは、その精肉とベーコンを使って魚やイモなどを交換していきました。バフェットさんは、交渉上手で……というか図々しいことばっかり言ってるように聞こえます。私は、ずっと後ろでヒヤヒヤするばかりです。……本当に疲れました……。
交換が一通り終わると、行きと同じように、2人でリアカーを引っ張ります。私は、リヤカーを引っ張りながら、バフェットさんに言いました。
「荷物が200ポンドもあるなんて……重たすぎです……。っていうか200ポンドって何キロ何ですか!?」
バフェットさんは、息切れしながら言いました。
「ゼェ……ゼェ……えっと、だいたい90kgだよ……。僕は、身体能力が普通の人間と同じみたいだね……ちょっとキツイ……。」
「そもそも、ポンドって使いにくくないですか?なんで、こんな単位を使うんですかね!?」
すると、バフェットさんの授業が突然始まります。
「ポンドって単位はね、人間の生活に合った単位なんだよ。人が1日に必要な穀物の重さが大体1ポンドになるんだよ。だから、200ポンドってのは、20人が10日間食事できる量だってざっくり計算出来るんだ」
「そんな、便利な単位なんですね……知らなかった」
私たちが宿に到着すると、宿の主人は驚いた顔で私たちに言いました。
「え!? こんなに交換できたの!!? 君たちすごくない!! 今度から、食材の交換を全部君たちにお願いしようかな」
するとバフェットさんは言いました。
「いえいえ。それから、小麦を交換した商人さんの護衛も引き受けてきました。明日、出発だそうです」
「ああ。君が言っていたやつか。まさか、クエストの案件まで取ってくるとは。バフェット君、冒険者なんて辞めて、ウチの宿で正式に働かないかい?」
「買い被りすぎですよ。僕は、しがない冒険者です。それより、明日から数日、僕とミカは商人の護衛と素材集めに行くつもりです。構いませんね?」
「わかった。行っておいで!!」
その日の夜、私は明日からのクエストに向けて、武器の手入れやら荷物の整理をしていました。明日から遠征かぁ〜。町から離れるのも久しぶりだな〜。
私は、そう思いながら窓を開けて下の道を歩く通行人たちを眺めてました。外では、何人かの大人たちが楽しそうにお酒を飲んでいます。この景色もしばらくお預けです。私は、その大通りの端っこにバフェットさんが居ることに気がつきました。何やら大きな鍋で何かを煮込んでいます。もう、ツッコむ気も起きません……もう寝よう……。
次の日の早朝、私たちは、町の入り口に集合しました。商人さんが言います。
「よし、行くぞ坊主! 準備はいいな?」
「もちろんです」
ひさびさの遠征です。ちょっとワクワクします。
目的の町までは、ここから馬車で3日くらいかかります。私たちは、馬車の荷台に座りながら小さくなっていく町を眺めていました。すると、バフェットさんが私に言いました。
「そうだ、ミカ。松明は持ってきた?」
「はい、持ってきましたよ。洞窟とかに潜るのに使いますからね」
「一本くれないかな? もちろん、あとでお礼を渡すからさ」
「いいですよ。どうぞ。………………それにしても、こんな遠出は初めてです。まさか、隣の領に行くことになるなんて!」
私の言った、何気ない一言にバフェットさんは質問しました。
「もしかしてこの世界っていくつかの領地に分かれているのかい? たしか、本家ゲームではそんなことなかったよね?」
「たしかに、この世界では、現実世界では実装されていなかった領地が存在します。私たちか住んでいる町はクラン領で、これから向かうのは、アントワーヌ領です。領主様の名前からとってますね。というか、バフェットさんソロモンやったことないんですよね!? なんか、このゲームに詳しくないですか?」
すると、バフェットさんは答えました。
「うん。このゲームはやったことないよ。でも、そうだね……ある程度のことは知ってるね」
「それは、なぜですか?」
「………………。」
バフェットさんは、黙ってしまいました。答えたくないのでしょうか? そう思った次の瞬間、馬車が急に止まり、手綱を握っていた商人さんが言いました。
「スライムの大群だ。お前たち! たのむぞ!!」
どうやら、スライムの大群が現れたようです。私は、素早く馬車を降りて剣を構えます。バフェットさんの戦闘力は、一般人と一緒なので、スライム相手でも危険です。スライムは、人間に体当たりしてきます。ぷにぷにしているので、一般人が攻撃を受けてもダメージはありません。しかし、その体液は猛毒で、飲み込んでしまうと、量によっては失明したり、死亡したりするそうです。油断できません。私が守らないと!
《ダークネイル!!》
私はスキル名を宣言します。私がよく使用しているスキルです。自分の右手が、禍々しい悪魔みたいな手に変化します。私はこの右手で、スライムを切り裂いていきます。いつも、こんな感じで前線の敵を私が食い止め、バフェットさんは、後ろでそれを眺めているのですが。この日のバフェットさんは違いました。なぜか、1匹のスライムに駆け寄ってます。私は、慌てて叫びました。
「何やってるんですか!!?」
するとバフェットさんは、たいまつに火をつけ、そのたいまつでスライムを叩きました。すると、スライムは瞬く間に燃え始めて消滅していきました。
え!? こんなの知らない!!
バフェットさんは、そのまま火のついたたいまつを持って大群に突っ込んでいきました。スライムたちは、どんどん燃えていきます。もう地獄絵図です。その後は、私も加勢して難なく全滅させることが出来ました。
スライムを全滅させた後、私たちは一度休憩がてらに昼食を摂ることにしました。今日のお昼は、バフェットさんが昨日作ったパウンドケーキです。商人さんは、バフェットさんに言いました。
「坊主、たいまつ1本でスライムを倒すなんてな! やるじゃないか!! さては、腕利きの冒険者なのか!?」
「いえいえ、大したことはないですよ。」
商人さんは、勘違いをしているようです。彼は、バフェットさんの戦闘能力が高いと思い込んでいます。でも、そんなことはありません! ありえません!! 私は、バフェットさんに耳打ちします。
「なんで、たいまつで倒せるって思ったんですか? そんなこと聞いたこともないですよ!」
すると、バフェットさんは言いました。
「確かに、ゲームをプレイしているだけでは、炎が弱点なんて気づかないよね。だってスライムのHPが低いから、どんな魔法や攻撃をしても、一撃で倒せてしまうし。でも、ミカから教えてもらったスライムの情報、それから、スライムの残骸で行った実験から火が苦手だってすぐに分かったよ。」
「どういうことですか?」
「ミカ、言ったじゃないか。スライムの体液を飲み込むと“失明”するって。それに、放置すると蒸発してなくなっちゃうし、それでピンと来たんだ。スライムの主成分がアルコールなんじゃないかって。」
「え!? アルコール!? お酒とかに入ってるアレですか!?」
「ううん。違うよ。お酒に入っているアルコールは“エタノール”で失明なんてしないよ。おそらく、スライムに含まれているのは、猛毒の“メタノール”が含まれている可能性が高い。それで、実際にスライムの残骸を加熱して、その蒸気を集めてみたんだけど……。」
バフェットさんは、そう言うとリュックの中から瓶を取り出した。その中には、透明な液体が入っています。
「この液体が、よく燃えるんだよ。ざっくり計算しても、スライムの3割はこの液体で出来てる。だから、火が弱点だって気が付いたんだ。」
そんな、勝ち方はありなのでしょうか!? 私は、バフェットさんの説明になんとか理解できましたが、一方の商人さんは、考えることをやめて、パウンドケーキをもしゃもしゃと食べています。すると、商人さんが突然話題を変えてきました。
「坊主の話は、よく分からないけどよ!! とりあえず、坊主が作ったこれ……パウンドケーキって言うのか? これうまいな!! どうやって作るんだ!?」
※「小麦粉、バター、卵、はちみつを同じ分量混ぜ合わせたあとに、焼くんだ。」
※実際は、小麦粉・バター・卵・砂糖を同じ分量混ぜ合わせたものを焼きます。この世界には、砂糖がないので、はちみつで代用しています。
私は、バフェットさんに言いました。
「全部、分量が同じなんですね! 知りませんでした!!」
すると、バフェットさんが言いました。
「うん。もともと、名前の由来がそれぞれの材料を1ポンド(Pound)ずつ加えたから、パウンドケーキって言うんだよ。」
「うう……もうポンドの話はお腹がいっぱいです……。」
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
・名刺入れと名刺1式・ボールペン1本・冒険者用リュック1個
・スマートフォン1台・メタノール500mL瓶×6・スカスカ草1kg・回復薬3回分
・ランプ・布袋20枚・パウンドケーキ6ポンド・火打石1セット・携行用ナイフ1個
時価総額 約30000円
2、損益計算(1ヶ月換算)
収入
給与:その日の生活費とお手伝い代120000円
支出
冒険者の宿との契約:80000円
倉庫レンタル代:40000円
合計
0円
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