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33話 習得が早すぎます


 ある日の朝のこと、私とバフェットは剣術の稽古に励んでいました。彼にお願いされてからというもの、毎日剣術の稽古に付き合わされています。稽古は順調でした……いや……。


「マリーどうかな? 3日前に教えてもらった技と基本の構え、これで合ってるかな?」


「ええ……完璧です……」



 習得が早すぎる!!! 私が基本を習得するのに何日もかかったというのに、一体どうなっているのでしょうか? 私は、彼に質問します。


「こんなに早く技を習得するなんて……あなた、もしかして、剣士としての才能が……」


私がそう言いかけると、バフェットは人差し指でこめかみを触りながら言った。


「僕は、そう思わない。才能なんてないさ。そう言えば、例の手紙の返事って来たかな?」


バフェットはそう言って、話をはぐらかしました。例の手紙とは、きっと先日届いたバフェット宛に届いた手紙のことなのでしょう。バフェットはその手紙の送り主は、このさき強敵になると言っていましたが……。私は、彼に言います。


「まだ、手紙の返事は来ていません……。それにしても、そのグラバーと名乗る人物は、一体何者なのでしょうか? まさか、そんな危険な相手に会う気ですか?」


「え? 会うつもりだけど?」


「何言ってるんですか!? もしものことがあったらどうするんですか!?」


「だからこうして鍛えているんじゃないか」


「はぁ~~~。あなたって人は……賢いのか愚かなのか分かりません。」


私は、ため息をつきながらそう言いました。この人は、本当に何を考えているのでしょうか!?


「バフェット……それで、会ってどうするんですか?」


「そうだね……何にも考えてないや。」


「え! そんなことあります!? ……もういいです。そろそろ、旦那様が起きる時間です。バフェットも仕事を始めてください。今日は、屋敷の清掃をお願いします」


「うん。わかったよマリー」



 稽古を終えた私は、屋敷に戻り、旦那様の眠る寝室へ向かいます。


「失礼します」


ドアをノックし寝室に入ります。旦那様は、すでにベットから起き上がり、窓の外を眺めていました。その表情は、いつもより暗いようです。私は、旦那様に尋ねます。


「おはようございます……その……例の悪い夢ですか?」


旦那様は、私の方を向き答えます。


「おはようマリー君……そうだね……残してきた妻のことを考えてしまってね……気にしないでくれたまえ」


「旦那様……。」


この人は、時々ものすごく寂しい顔をします。残してきた奥様のことをいつも思っているのでしょうか? 


「ところで、マリー君。今日はお客さんが来るそうだ。」


「そうなんですか? そんな話は聞いていませんが……どなたですか?」


「ミカ君だ。私の方の手紙に入っていた。迎え入れてあげなさい」


「かしこまりました。」



 それから数時間後、ミカさんが屋敷にやってきました。私は、すぐに彼女を旦那様のいらっしゃる応接間に案内します。


「おひさしぶりです!! ラボアジエさん!!」


ミカさんは、旦那様に会うなり、元気に挨拶をしました。彼女の頭の上では、飼いならしたニードルワームが頭をフリフリさせています。もう完全にトレードマークと化しています。


「ミカ君、久しぶりだね。腕の方はもう大丈夫かね?」


旦那様は、ミカさんにそう言いました。ミカさんは、袖をまくって私たちに腕を見せてくれました。


「すっかり治りました! なんだったんでしょうね、あれ?」


「そうか……治ったようでなによりだ……。だが、無茶はしないようにしたまえ」


「はい。気を付けます。ところで、バフェットさんは?」


私は、ミカさんに答えます。


「バフェットなら、屋敷の清掃をしています。後で会いに行ってあげてください」


「はい、ありがとうございます!」


「それではミカ君、本題に入ろうか」


「はい、今日伺ったのは、伝えておきたいことがあったので」


「ほう……何かね?」


「ラボアジエさん違法ギルドってご存じですか?」


「うむ、聞いたことはないが嫌な予感がするな……。」


「冒険者の宿で聞いた話なのですが……ここ最近、領主の認可のない宿、町では《違法ギルド》って呼ばれています。それが、増えてるって話なんです。」


「そうか……いつかは出現すると思っていたが……」


どうやら、ミカさんは《違法ギルド》と呼ばれる組織について報告に来てくれたようです。しかし、私には腑に落ちないことがありました。そのことをミカさんに質問します。


「どうして、認可を受けないのでしょう? 別に、うちの領地での認可は難しくないはずですのに……」


「おそらく、脱税が目的だろう」


旦那様が両手を組みながらそう言いました。たしかに、こちらが把握していないのならば、税金を徴収できないからです。旦那様は続けて言います。


「他にも違法な取引などが行われている可能性が高い。それは、実態をつかむ必要がありそうだ。ミカ君、その違法ギルドについて、他に知っていることはあるかね?」


「ええ……これは、噂なんですけど、町には複数の違法ギルドがあります。ですが、それらには元締もとじめが存在するみたいなんです。」


一体、こんなことを考えるのはどこのやからなのでしょうか。このとき、私と旦那様は、問題ではあるが所詮は、盗賊のたぐいだろう。とタカをくくっていました。しかし、次の彼女の言葉で、その認識を改めることになったのです。


「たしか、その元締めを取りしきってる人の名前が……《グラバー》って名前の人だと思います。」


旦那様は、渋い顔をしながら言いました。



「これは……面倒なことになりそうだ……。」




 その日の夜、屋敷の廊下を歩いていると、ふと窓の外からバフェットが何かをしている様子が見えました。もうじき冬になるというのに、外で何をしているのでしょうか? 私は、彼の様子を見に中庭へと移動します。彼は、木刀を何度も何度も振りかぶり、練習していました。もしかすると、彼の習得の速さは、影の努力によるものなのでしょうか……。はぁ~~~かなわないな……。そう思った直後でした。バフェットさんが私に気付き、声をかけてきました。


「マリーどうしたの? こんな寒いのに外に出て?」


「あなたこそ何してるんですか?」


「この通り特訓だよ」


「見ればわかります!」


「質問してきたのは、そっちじゃないか……。」


「……あの……バフェット」


「なんだい?」


「あなたの剣術の習得の速さは、はっきり言って異常です。もしかして、何時間もそうやって見えないところで……」


「そうじゃないよ。効率よく練習しているからだよ。ほら……」


バフェットは、そう言ってスマートフォンを私にみせてきました。そこには、今朝私が彼に見せた動きが映像として記録されていました。


「これを、見ながら練習しているんだ。その他にも、自分の動きを映像にして確認しながらやってるから、習得も早いんだよ。」


「そうでしたか、やっぱり道具のおかげですか」


「まあね。僕にそこまでの根性はないよ」


バフェットは笑顔でそう言いました。でも、それが嘘だってわかっています。なぜなら、彼の両手は木刀を振りすぎて、ボロボロになっていたからです。その姿に、私は何とも言えない感情を抱きました。……私は、何を考えているのでしょうか? 私が硬直していると、バフェットは話題を変えてきます。


「そう言えば、ミカから聞いたよ。《違法ギルド》があるんだって? しかも、その元締めが《グラバー》なんでしょ? 興味深いね。」


「興味深い……ですか?」


「そうだね。……………………マリー、君には言ってなかったけど、バフェットという名前は、僕の居た世界で活躍した人物から名前をとっているんだ。」


「そうなんですか?」


「この名前を知っているということは、多少の学のある人物なんだよ。そういう人たちが接触してくることを狙って、この名前を付けたんだ。」


「それじゃ、グラバーは」


「それにひっかかったってことだね。やっぱり興味わくよね。いままでそんな人とこの世界で出会わなかったから。久しぶりに経済の話とかしたいな~」


その時の彼の眼は、本当にキラキラしていました。この人は、どんなことも、こうやって乗り切ってきたのでしょうか。まるで無邪気な子供のようです。でも、そんな彼に、私は惹かれつつあったのです。





【バフェットの経済状況】


商品

  小麦粉  6000ポンド


所持金

  前話での繰り越し

  2,290,500円


計 2,290,500円


借金 4,260,000円






最後まで読んでいただきありがとうございます。


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