31話 剣術を勉強します
影の傾き方と緯度
基本的に緯度が高くなればなるほど、太陽の位置が冬場は低くなるので、正午での影の傾く角度が急激になり、影の長さが長くなります。
また、惑星の自転の関係で、つる植物の巻きつく向きが変化するため、その場所が北半球か南半球かを調べることができます。
バフェットは、先日の休暇を使って、クラン領から大量の小麦粉を買い占めていました。その量は6000ポンド(2.7トン)にも及びます。その狙いは、お金儲けではなく、穀物を買い占めることによる、食糧難を狙ったものです。彼が言うには、小麦粉の流通量が少なれば、クラン領の人々は、わたしたちの住むアントワーヌ領に移住してくるとのことでした。しかし、一向に人が移住してきたなんて報告は、私たちのもとにはやってきません。
バフェットが休暇を終えた数日後。彼は、通常の業務に戻っていました。彼は、身体能力が一般人と同程度で、戦闘技術もありません。そのため、最近は力仕事ではなく、書類の整理や、旦那様の趣味の道具のメンテナンスをしてもらっています。旦那様は、仕事をする傍ら、化学の研究を趣味としていました。バフェットは、実験に使用した、フラスコやビーカーの洗浄などを任せています。今日は、私とバフェットで実験器具の洗浄を行っていました。
「マリー、その溶液はアルカリ性だから、適当な酸と中和させてから捨てるんだよ。そこに、使い古したお酢があるからそれを使おう」
「わかりました。それで、中和できたかどうかは、どのように判断するのですか?」
「それはね、これを使うよ」
バフェットは、ハーブティーを取り出し、アルカリ溶液に加え、私にいいます。
「中和が完了したら、色が変化するよ」
私は、その溶液に少しづつ、お酢を加えていきました。すると、彼の言う通り、ある程度お酢を加えた段階で、溶液が赤色に変色します。私は、彼に質問します。
「すごい……一体こんなこと、どこで知ったんですか?」
「そうだね……僕のいた世界には、子供はみんな学校に通って、勉強するんだ。マリーの年齢の子も学校に通っている人がほとんどだね。そこで、学んだんだよ」
私は、その一言に、生まれた環境の違いというものを思い知らされます。すると、バフェットは、それを感じ取ったかのように、こう言いました。
「ま……その代わり、戦闘能力は皆無なわけだけどね。それに、学校で学んだことを生かさないまま、一生を終えてしまう人も多いかな」
「そうなんですね。恵まれているのに……。ところで、小麦粉の買い占めの件はどうなっていますか? どうやら、うちの領地に移住しているなんて、情報は入ってきていないようですが……。」
「そうだね。まだ移住を考える人は、いないと思うよ。おそらく、本格的に困るようになるのは、冬に入ってからだろうからね。あと、1・2か月もすれば、移住してくるんじゃないかな。」
「そうですか、ではその間は、使用人としての仕事に専念するのですね?」
「実は、この間に別のビジネスを考えているんだ。」
彼は、にやりと笑みを浮かべながらそう言いました。また、突拍子もないことを考えていることでしょう。私は、彼の話を半分聞き流しながら、ビーカーを洗っていました。数分経って、すべての機材の洗浄が終わると彼は言います。
「さてと……今日の仕事は、これでおしまいかい?」
「ええ……お疲れさまでした。」
すると、彼は私を見つめて言います。
「じゃぁ……マリー……すこし付き合ってもらえないかな?」
彼が、こんなことを言ってくるのは初めてです。なぜでしょう、ちょっと恥ずかしくなってしまいます。……いえ、きっと少しだけ困惑しただけなのでしょう。私は、「別に構いませんよ」とだけ返事をすると、中庭に連れていかれました。
中庭に着くと、バフェットはくるりと私の方を向き言います。
「マリー……僕に、剣術を教えてほしいんだ。」
そんなお願いをされるなんて、まったく想定外でした。なんでしょう……この気持ちは……ちょっと残念な気持ちです。私は、彼に質問します。
「剣術なんて……どうしてまた……。」
「この間の戦闘の時に思ったんだ。やっぱり、ある程度戦えないとまずいかなって。僕は、もともと体が強くないけれど、鍛えればある程度は何とかならないかなって思って」
私は、ため息をつきました。今思えば、なぜ私は、この時ため息をついたのでしょうか? 自分でも、よくわかりません。彼の言っていることに、感心しているはずなのにです。私は、そんな混乱した状態の頭を抱えながら彼に言います。
「そういうことですか……分かりました。では、木刀を持ってきます。まずは、それで訓練してみましょう。でも……習得には、時間がかかりますよ?」
すると、彼は、自信満々に言います。
「僕は、そう思わない。もし君が、習得に3年かかるというのなら、1年以内に習得してみせるよ。」
「そうですか……それじゃ、頑張りましょう。」
この日から、私はバフェットと剣術の練習をすることが日課になりました。
その日の夜、私がいつものように食事を旦那様のところへ持っていきます。旦那様の目の前に食事を置くと、旦那様は「ありがとう」とおっしゃったあとに食事に手をつけました。旦那様は、私に質問します。
「マリー君。そう言えば、バフェット君と中庭で何をしていたのかね?」
「剣術の稽古です。彼が剣術を身に付けたいそうで」
「……ほう。彼もキラーカメリアの一件で思うところがあったのだろうな。で、どうだったのかね?」
「正直なところ、習得に時間がかかりそうですね。」
「そうか……ところで、食事が済んだら、3人分のコーヒーを用意してくれないかね?」
「どうしました? 来客のご予定はなかったはずですが……」
「バフェット君と話をするのでね。彼の分も用意してあげた方がいいだろう」
「それじゃ、もう一人分は?」
「君の分さ」
「私ですか?」
「彼の行動には、興味があるのではないのかね?」
「………………………………………………。」
旦那様の食事が終わった後、私は食器を取りに部屋を往復しました。再び旦那様が部屋に戻ると、すでに旦那様とバフェットが、部屋のソファーに座っていました。私は、静かにコーヒーを煎れ、テーブルの上に静かに置きました。旦那様は、バフェットに言います。
「それで、話とはなにかね? 次の手を考えているのだろう?」
バフェットは答えます。
「はい。今度は、大規模な探索を検討しています」
「ほう……。どの辺りを探索するのかね?」
すると、バフェットはスマートフォンを取り出し、それをテーブルに置きました。その画面には、地図らしき画像が映し出されています。
「目的のエリアは、ここより南の方角にある地域です。この森を抜けた先の人が立ち入っていないエリアです。」
「その目的は何かね?」
「目的は、本物のコーヒー豆を入手することです。あのドングリコーヒーは、あくまでも模造品ですからね。ご主人様も本物飲みたくありませんか?」
「確かにそうだが……ここにコーヒー豆の木が自生している確証はあるのかね?」
「確証は、ありませんね。しかし、可能性は十分あると思います。まず、ソロモンの世界の大きさについてですが、おおむね地球と同程度ということは、ご存じですか?」
「ああ……時間のある時に、影の角度から計算したことがある。おおむね、同じ大きさだろうな。」
「それに、星の見え方が、地球から見える星の動きとほぼほぼ変わらないんです。ということは……」
「地軸も地球と同じように傾いているということだね」
「ええ……。そして、この場所は、冬に寒くなることから、北半球で間違いありません。なので、南下すれば、温暖な気候になることが考えられます。なにより、そういう設定でマップをデザインしましたし。」
「そうだったな、この世界は、君が持っているゲームというやつをモチーフにしているのだったな。では、そのエリアの町と交易をすればいいのではないかね?」
「ところが、そうはいかないんです。このエリアには、強力なモンスターが出現するので、人が住んでいないんです。」
「そうか……だから、探索に行くと君は言ったのだね? それで、どんなモンスターが出現するのかね?」
「キラーカメリアです。」
「そうか……そういうことか……。では、キラーカメリアの弱点を知っている以上、そこまでその地は脅威ではないというわけだね。」
「ええ、その通りです。」
「しかし、それでもリスクは大きいだろう。それに、君の持っている資金では、無理がある。」
「おっしゃる通りです。……なので、これから。」
「この世界で最初の会社を立ち上げたいと思います!!」
【バフェットの経済状況】
商品
小麦粉 6000ポンド
所持金
前話での繰り越し
1,415,500円
収入
コーヒー販売分 1,000,000円
(売れなくなってきたため値下げして販売)
支出
人件費 50,000円
(ミカにコーヒーを売りにいってもらった)
物販税 100,000円
計 2,265,500円
借金 4,335,000円
最後まで読んでいただきありがとうございます。
「面白かった、続きを見たい、マリーに木刀で叩かれたい」
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