30話 小麦粉を買い占めます
需要と供給
市場において、交換・販売を目的とする財やサービスを、個人または企業が購入しようとする行為を需要と言い、交換・販売を目的とする財やサービスを提供する行為を供給という。
「うむ……久々のコーヒーはたまらないな……。」
旦那様は、コーヒーを飲みながら満足そうにおっしゃいました。旦那様も、バフェットからコーヒーの粉末を50ポンドほど購入したようです。そして、バフェットに質問します。
「それで、バフェット君。コーヒーがずいぶんと売れ残っているようだが、大丈夫なのかね?」
「そうですね。じきに売れなくなると思います。そもそも、大量生産をするために作り方を冒険者の宿の主人に教えましたから、模倣品も出回るでしょうね。」
「そうか……では、もうその方法で儲けるのは不可能ということだな?」
私は、このとき、思ったことをバフェットに言います。
「なら、作り方を教えずに少ない量で販売すればよかったのではないのですか? 流通量が少なければ、価値があがりますから、高値で売れるのでしょう?」
バフェットは、驚いた様子で私に言います。
「君、凄いね! 需要と供給の関係をきちんと理解してるじゃないか!! どこかで勉強したのかい?」
「私も、一応それなりに勉強をしていましたから。元貴族ですし!」
私は、胸をはってそう言いました。
「でもね。はじめからコーヒーの販売を独占する気は、なかったんだよ」
「どういうことですか?」
「もっと、この町にコーヒーが普及した方がいいと思うんだ。 マリーも見たでしょ? コーヒーを飲んで喜んでる冒険者の人たちの顔を。お金を稼ぐこともしたいけど、自分の行動で町が変えることは、自分にとっては、もっとやりたいことなんだよ。」
バフェットの言葉に、私は思わず感銘を受けてしまいました。この人が、貴族だったら、もっとこの国は良くなるかもしれない。そう思わされます。
「ところで、大量に売れ残ったコーヒー粉末は、どうするのかね?」
旦那様がバフェットに質問します。すると、バフェットが不敵な笑みで言います。
「はい……。この大量のコーヒーをクラン領に売りつけたいと思ってます。」
さっきの言葉は訂正します! この男は、一体何を考えているのでしょう。敵の領地に商品を売りつけるなんて……。
しかし、旦那様は、彼の言動に何か意図があるのではないか、そう勘繰っているようでした。
「君の事だ、その行動にも意味があるのだろう?しかしだ、君がクラン領を裏切ったことは、流石にバレているんじゃないか?」
「でしょうね。ですが、文明が発展していないお陰で、その事実は、領地の全てでは、徹底されていないと思われます。辺境の街にでも行って、誤魔化しながら売っていこうと思います。そして、そのためにお願いしたいことがあります。」
「なんだね?」
「自分に休暇を頂けませんか?」
「休暇か……君は私の性格を知っているね。」
「ええ。もちろん。休暇を頂きたい日数は、1週間です。その分は、当然無休で構いませんし、1週間分の借金返済額を支払わせて頂きます。それから、自分の居ない分、他の方を雇う必要が有れば、その分の給金もこちらで払いましょう。もちろん、休暇中は、僕の持つ資産の半分はここに置いておきます。いわゆる担保ってやつです。これでいかがでしょうか?」
旦那様は、ニヤリと笑みを浮かべて言った。
「そうか……それなら許可しよう。それでは、借金返済分で、銀貨3枚、従業員の補填代で銀貨7枚で合計銀貨10枚(5万円)頂こうか。」
「ありがとうございます。それでは、明日から1週間ほどお休みを頂きますね。」
バフェットは、ニコニコしながら部屋を出ていきます。私もいい加減、彼の不気味な笑顔に慣れてきました。私は、旦那様に伺います。
「旦那様……よろしいのですか?」
「構わないさ。理由がない限りは、戻ってくるだろう。それよりも、私たちは私たちで出来ることをやっていこう。マリー君、私はクランに会ってくる。支度をお願いできるね?」
「……承知しました」
数日後、私は、大きな荷物を持ってクランの屋敷に来ていた。クランは、相変わらず、横柄な態度で悪趣味な椅子に腰掛けている。クランは、私の荷物を見て言った。
「アントワーヌ殿、これはまた随分な荷物じゃないか?それは何かね?」
私は、彼に言った。
「手見上げです。私の領地で、新しい飲料を開発した商人がいた者でな。その商人が、こちらの領地でも販売していると聞く。クラン殿には、交易を許可して頂いている恩がある。今回は、その飲料の元をお持ちした。どうかね?味見をしてみては」
「ほう……」
クランは、私が差し出したコーヒー粉末の袋を開けて、匂いを嗅ぎながら、
「香ばしい香りがする……これは、紅茶とはまた違った香りだ。これは、どうやって飲むものなのかね?」
「紅茶と同様の方法で淹れます。」
「そうか……おい、ティーセットを持ってきてくれ。」
クランは、使用人に私が差し出したコーヒー粉末を淹れさせた。そして、何も躊躇うことなく、それを口に流し込んだ。
「ほう……なんと香ばしい。これは、私の領地でも人気になるかもしれない。」
「ありがたきお言葉。」
「また、良い商品を作ったら、私に伝えてほしい。その時は、高値で買い取ろう。」
ずいぶんな余裕だ。今に見ているがいい。私は、腹に抱えているものを隠しながら、屋敷を後にした。
それから1週間という時間が経過したのは、あっという間のことでした。バフェットが屋敷に戻った時には、荷台に積んであった荷物は、どういうわけか増えています。私はバフェットに質問します。
「おかえりなさい。ところで、なんで荷物が増えているのかしら。」
バフェットは、笑顔で答えます。
「ああ、これかい?、これほとんど小麦粉だよ。すごいでしょ。」
「小麦粉?」
「クラン領は、通貨のやりとりができないからね。全部、小麦粉に交換してきたんだ。本当は、馬車3台分あったんだけど、2台分は、この町の商人さんに換金してもらったんだ。だいぶ残っちゃったね。」
「一体、どんな交換条件だったんですか!?」
「ん〜。そうだね……コーヒー豆1ポンドにつき小麦粉20ポンドで交換してたよ。コーヒー豆150ポンドを交換したから、全部で3000ポンド(1.4トン)ってところだね。そのうち、2000ポンドを換金したって感じだね。」
「一体、いくらになったんですか?」
「小麦粉1ポンドで、銅貨3枚(300円)だから、合計で金貨2枚と銀貨20枚(合計60万円)ってところだね。」
「思ったより安いですね。やっぱり、クラン領に売りつけたのは、失敗だったのではないですか?」
「僕はそう思わない。そもそも、儲けるつもりで売りに行っていないんだ。今回売りつけに行ったのは、規模の小さい町ばかりなんだけど、そこでこれだけの量の小麦粉を買い占めたらどうなると思う?」
「バフェット……あなたもしかして!」
「クラン領の主食は、小麦粉だからね。こんなことしてたら、まず生活できなくなるだろうね。」
「それでは、罪のない人たちを巻き込むことになりませんか?」
「そこで私の出番というわけか。ようやく話が読めてきた。」
旦那様が、私たちの会話に突然割り込みます。旦那様は、話について行けなくなった私に、丁寧に説明します。
「実は、バフェット君からクラン領で生活苦になる人たちが出るから、こちらの領地で受け入れて欲しいとお願いされていたのだよ。なぜ、そんなことが起こるのか全く見当がつかなかったが、そういうことか……。」
「ええ。小麦粉が足りなくなった町では、食糧難となり、小麦粉の価値は格段に上がります。しかも、クラン領では、小麦粉を物々交換の道具としても使っているので、さまざまなものの交換に影響が出ます。そうなってしまうと、いよいよ町自体が崩壊してしまいます。」
旦那様とバフェットは、私にもわかるように丁寧に説明してくれました。しかし、わたしには、まだ腑に落ちないことがあります。
「それで、町を潰すことに何の意味があるのですか?」
「今回の目的は、クラン領の人たちをうちの領地に引き入れること。そして、クラン領の資源を奪い取ることにあるんだ。今まで、さんざんやられっぱなしだったからね。ここから反撃開始だよ。」
バフェットさんは、その後も3つの小さな集落に小麦粉とコーヒー豆を交換し続けて小麦粉を回収して行きました。その量は、約5000ポンド(約2.3トン)に及びます。これが、バフェットさんの最初の反撃でした。
【バフェットの経済状況】
商品
コーヒー粉末 300ポンド
小麦粉 6000ポンド
所持金
前話での繰り越し
1,148,500円
収入
250,000円(ラボアジエに販売した分)
600,000円(小麦粉換金分)
支出
50,000円(休暇申請代)
185,000円(物販税)
240,000円(運送費)
108,000円(輸送税)
計
1,415,500円
借金 4,335,000円
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