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3話 市場ってそんなに必要なんですか?

ミカの能力

レベル3

(ソロモンの最高レベルは128)

属性 闇属性

持っているスキル ダークネイル

 自分の手をかぎ爪状に変形させる。ナイフなどよりも切れ味が良い。



 今日は、特に依頼も来ない一日、要するに休日です。今日は、自分の部屋でゴロゴロしよう……。そう思ったのですが……。


「あ……暑い……。」


 春も終わりに差し掛かり、部屋の気温も暑くなってきました。私は、たまらず起き上がり、1階のフロアに降りました。すると、フロアではバフェットさんが床掃除をしていました。一体この人は何をやっているんだろう? 私は、バフェットさんに声をかけることにしました。


「おはようございます、バフェットさん。いったい何をしているんですか?」


 バフェットさんは、額の汗をぬぐいながら言いました。


「おはよう。これはね、アルバイトだよ」


「アルバイト?」


「昨日、僕が借りている倉庫を見せたでしょ? その家賃を払う代わりに、冒険者の宿の仕事を手伝っているんだ。そうだ、そっちのテーブルに朝食置いてあるからね。」


 私は、朝食の置かれているテーブルを見た。そこには、ベーコンエッグとパン、サラダがビュッフェ形式で並べられていました。とりあえずご飯を食べよう。私は、自分の分の食事をお皿に乗せてテーブルに座った。


「いただきます」


 ベーコンエッグを一口……なんか、いつもと味付けが違う気がする。私は、バフェットさんに尋ねました。


「もしかして、バフェットさんが作ったんですか?」


「そうだよ。今日は、僕が朝食を作ることになってたからね」


「へー。料理もできるんですね」


「簡単なものだし、たいしたことじゃないよ」


「普通においしいですよ」


 そんな会話をしていると、宿の主人がバフェットさんに話しかけてきました。


「バフェット!買い物頼めるか?」


「いいですよ?そういえば、今日は定期市の日でしたね」


「奥の倉庫に小麦粉があるから、それを肉と魚、それから保存用の食品に交換してくれ。」


「わかりました。ところで……」


 バフェットさんは、そう言うと私の方を見て言いました。


「ミカは、暇かい? もしよかったら手伝わない?」


 私は、いかにも嫌そうな顔で言いました。


「え!? 嫌です~」


「今日の夕飯にスイーツつけるよ」


「行きます!!」


 スイーツの誘惑には勝てませんでした。



 私たちは、宿にあったリヤカーに小麦粉を積み込み町の中心部に向かいました。私は、定期市のことをよく知りません。必要のないものだからです。私は、リヤカーを引きながらバフェットさんに聞きました。


「バフェットさん、定期市って一体なんですか?」


「うん。10日に1回、町の人や町の外の人がいろんな商品を持ち寄って、物々交換をする場所だよ。これがないと、僕たちの生活は完全な自給自足になってしまうから絶対に必要な仕組みなんだよ。もし、定期市がなかったら、食事が毎日、パンとくだものだけになってしまう。この町は、小麦と果樹くらいしか生産してないからね」


「え!?それは困ります!!ところで、どうして定期市があるなんて知っていたんですか? 本家ゲーム自体には、定期市なんて仕組みなかったはずなのに」


「この文明レベルだと、確実に定期市があると思ったんだよ」


「どうして、定期的にしか市場を開かないんですか?毎日やればいいのに」


「それは、輸送のインフラ整備がちゃんとしていないからだよ。数日に一回ってのが技術的に限界なんだろうね。ちなみに、その定期市をしていた場所って現実世界でも地名になっていたりするよ。例えば、5日に1回定期市を開く場所が後に五日市と呼ばれたりしているよ。4日に1回だったら四日市、聞いたことある地名でしょ?」


「え!? あれってそういう意味だったんですか!?」


 バフェットさんからいろんなお話を聞きますが、本当にこの人は色々知っています。一体何者なのでしょう? 私は、バフェットさんに教わりながら、一緒にリヤカーを引っ張り続けました。小さめのリヤカーなので、一緒に引っ張るとお互いに体が触れ合います。私は、ちょっとドキドキしながら、市場に小麦を運ぶのでした。



 町の中心部にある広場に行くと、すでに大勢の人たちが物々交換用の食品や製品を並べて交渉をしていました。バフェットさんは、肉を取り扱っている商人さんのもとに向かいました。バフェットさんは、商人さんに向かって言いました。


「こんにちは、精肉と干し肉をこの小麦と交換したいんだけどどうでしょう?」


 その商人さんは、ガタイの良い中年の男性で、いかにもお肉屋さんといったような見た目です。一方のバフェットさんは、小さくて華奢きゃしゃな体格をしています。そのせいもあって、商人さんは、こちらの足元を見るかのように言いました。


「おう、坊主。お使いか? 交換は構わないが、小麦粉1ポンドあたりで精肉なら4オンス、干し肉なら2オンスで交換してやるよ」


※ 1ポンド = 16オンス  1ポンドは約450g


 これは、ぼったくられているのでしょうか?値段で言われていないのでわかりません。そもそも、ポンドとかオンスとか聞いたことはあるけれど……全然わかりません。でも、その商人さんの表情を見る限り、ぼったくっている気がします。するとバフェットさんは言いました。


「もう少し、条件をよくできませんか?その代わり、小麦を多く交換しますよ」


 すると、商人は笑いながら言いました。


「そんなに小麦をたくさんもらっても仕方ないだろう」


 そりゃそうだろ! と思いましたが、バフェットさんはニヤリと笑いながら言いました。


「この町には、銀貨と金貨以外の硬貨はありません。この町での物々交換は、小麦が中心になるはずです。小麦は、たくさんあった方がいいでしょう?今回、小麦を10ポンドづつ小分けにしてありますから交換もしやすいですよ」


 バフェットさんがそう言うと、商人は豪快に高笑いをしながら言いました。


「がっはっは、こいつは一本取られたな! 坊主! お前商売の才能あるな!! いいだろう。どのくらい交換したいんだ?」


「ここに、小麦が200ポンド(90kg)あります。20人で10日分の肉が欲しいので、精肉と干し肉を合わせて200ポンドでどうでしょうか?」


「坊主! そいつはちょっと高くないか!? 小麦粉200ポンドに対して、肉100ポンドまでだな」


 なんだか、怪しげな交渉が始まります。


「そうですね、高いと思います。ですので、おまけもつけます。」


「おまけ?」


「僕たち、冒険者をやっているんです。あなたの装飾品を見る限り、隣の町から来られた方ですよね。そこまで、僕たちが無料で護衛します。小麦粉200ポンドで肉180ポンドでどうですか?」


「護衛か? 別にここら辺は盗賊も出ないし、いらないけどな。小麦粉200ポンドで肉120ポンド」


「護衛だけじゃありません。あなたの町に着いたら、僕らに直接、つまり冒険者の宿を仲介せずにクエストを発注して構いません。仲介料が取られないので安く済みますよ。(あ……これは、宿の人には内緒ですよ?)お肉150ポンドでどうでしょうか?」


 私は、バフェットさんの言葉に思わず突っ込んでしまいました。


「え!? ちょっと!! 何を勝手に!!」


 商人は、再び高笑いをして言いました。


「がっはっは!! 坊主、大したもんだよ! いいだろう交渉成立だ。俺は、明日自分のの町に帰るからよろしく頼むぞ」


「はい! それでは、明日の朝、この広場でお待ちしています。」


 私たちは、持っていた小麦すべてを50ポンド(25kg)の精肉と100ポンド(45kg)のベーコンやソーセージ、干し肉に変えてもらいました。それをリヤカーに積み、少し離れたベンチに移動して休憩することにした。私は、バフェットさんに尋ねます。


「バフェットさん。あんな勝手な交渉をしちゃっていいんですか?」


 バフェットさんは言いました。


「ミカを巻き込んじゃったのは悪かったよ。ごめんね」


「私は、いいんです。それよりも、直接護衛とクエストの約束をしてしまったことです。冒険者の宿を仲介してクエストを受注しなくてはいけないんじゃないですか?」


「護衛については、事前に許可をもらっていたさ。そのおかげで、思ったよりも多く肉も手に入ったしね。クエストについては、内緒だよ。でも、クエストを受けずに素材集めに行っている冒険者もいるんでしょ? 護衛のついでに素材集めてくるっていえばバレないさ。それにそもそも……」


 ニコニコした表情だったバフェットさんは、急に真面目な顔になって言いました。


「そもそも、冒険者の宿を仲介しなきゃいけない決まりって存在するのかい?」


「………………え?」


 確かに、決まりとしては存在していない……。そもそもこの世界に“法律”が存在しているのかも怪しい。でも、それが……


「『当たり前だったから』かい?」


「!?」


 バフェットさんは、私の考えていることなどお見通しでした。彼は、続けて言いました。


「そうだよね。そう思っちゃうのは無理ないと思うよ。でも、僕はそう思わない。ついでに言うけど、一つミカのことで気になることもある」


「え? 私ですか!?」


「モンスターを倒して経験値が得られるってのは、本当かい?」


「どういうことですか!?」


「だって、何年もモンスターを倒し続けたんでしょ?これが、ゲームと同じシステムなら今頃とんでもないレベルになっているはずだよ」


「言われてみれば……でも、ここはゲームの世界だし」


「見れるはずのステータス画面も見れないのに?」


「わたし……あの神様に騙されているの?」


「当たり前を疑わないことがどれほど恐ろしいことかわかったかい?」


 私は、悔しい気持ちでいっぱいになりました。くやしくて、くやしくて……誰かを見返してやりたい!!!すると、バフェットさんは私の頭にそっと手を置いて言いました。


「やっぱり、悔しいよね。だから、これからいっぱい勉強しよう。僕の近くに居る限りは、たくさんのことをミカに伝えてあげるよ、約束」


 その手は、小さいけど暖かくて、なぜか涙が止まりません。ああ……この人が異世界に来てくれてよかった。バフェットさんともっと一緒に居たい。私は、そう思いました。バフェットさんはしばらく私を慰めた後、立ち上がり私に言いました。


「さてと、残りの交換も済ませちゃおう。次は、魚屋さんだよ」


「うん。わかった」


 私は、涙をぬぐって立ち上がった。



【バフェットさんの経済状況】


1、所持品

 ・名刺入れと名刺1式・ボールペン1本・カバン1個・メモ帳15枚

 ・スマートフォン1台・スライムの体液10L・スカスカ草1kg

    

 日本円換算 約38000円


2、損益計算(1ヶ月換算)


収入

 給与:その日の生活費とお手伝い代120000円

支出

 冒険者の宿との契約:80000円

 倉庫レンタル代:40000円

合計

 0円

最後まで読んでいただきありがとうございます。


「面白かった、続きを見たい、俺にも女の子と相合リアカーさせろ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 異世界に転移させても、ろくに能力を与えなければ物語が進まないというのがよくわかりました。悪意ある箱庭のようにも思えますね。 [一言] 出されたものを疑わないと誤った結論に至ってしまうのは、…
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