29話 大量生産をはじめたようです
マリーについて
ラボアジエの使用人として雇われている彼女ですが、元クラン領の貴族です。訳あってラボアジエが匿っています。
もしもの時のために剣術を習得しており、実はバフェットやミカよりも強い。
私の名前は、マリーといいます。かつては、クラン領の貴族でしたが、今はアントワーヌ・ラボアジエ様の使用人です。ここ最近変わったことがありました。それは、旦那様(アントワーヌ様)がバフェットと名乗る奴隷を連れてきたことです。彼は、奴隷にしては礼儀正しく博識でした。そして、かつてはクラン領で冒険者をしていたとのことでした。
クラン領の冒険者には、私的な恨みがあります。なので、私はバフェットに対しても例外なく冷たい態度で接してしまいました。しかし、一方の彼は、そんなことなど構わずに接してくれました。しまいには、自らの命の危険を冒してまで、私を助けようとしたのです。今更ですが、冷たい態度をとっていたことを恥ずかしく思っています。
そんな彼ですが、戦いの傷もようやく完治し、なにかを企んでいるようでした。今日も、旦那様と何かの打ち合わせをしているようです。私は、旦那様に頼まれた書類を持っていきがてら、2人の会話の中に入ろうとしました。旦那様がバフェットに言います。
「バフェット君。ミカ君が君に金貨を4枚送ってきた。先日の剣士が倒したキラーカメリアの目玉を換金したそうだ。」
「ありがとうございます。それではいただきます。」
バフェットは、旦那様から金貨をもらいます。すると、旦那様は私に気が付いたのか、手招きしながら、おっしゃいました。
「マリー君、ちょうどいい。こちらにきたまえ。」
「はい。」
私は、旦那様の元に駆け寄りました。すると、私も旦那様から金貨を4枚頂きました。私は、旦那様に伺います。
「旦那様!これは一体?」
旦那様は、答えます。
「ミカ君が、君の分だと言って渡してきたのだよ。換金した金貨は3人で山分けだとな。律儀な子ではないか」
「そういうことでしたら、ありがたく頂戴します。」
旦那様は、私に質問します。
「せっかくの報酬だ。何か好きなものでも買ったらいい。君もたまには贅沢するべきだ」
私は、きっぱりと旦那様に申し上げます。
「いえ。特に使う用事もないので」
「そうかね……。ちなみに、バフェット君。その金貨の使い道はどうするつもりかね?」
旦那様が、バフェットに質問すると、彼は言います。
「そうですね……ひとまず生産を中止していたコーヒー豆の生産を再開しようと思っています」
「おお……私も、そろそろコーヒーが飲みたいと思っていたところだ」
「ただし……」
バフェットは、そう言ってニヤッと笑った。何か、突拍子もないことを言うような雰囲気です。旦那様が、彼の言葉に聞き返します。
「……ただし、何かね?」
「生産量を増やそうと思います」
「……ほう。しかし、君は週に2日しか休日は、ないだろう? どうやって時間を捻出するのかね?」
「簡単です。人を雇います。」
彼は、奴隷の立場でありながら、人を雇うなどと、とんでもないことを言いだします。そんなこと出来るのでしょうか? バフェットは、旦那様に言いました。
「というわけで、次の休日を使って、人を集めたいと思っています。」
「そうかね……まぁ、私は、コーヒーが飲めればそれで構わないのだがね。好きにしたまえ」
「ありがとうございます! それじゃ! おしごとしてきまーす!!」
そう言って、彼は勢いよく部屋を出て行った。旦那様は、彼が部屋から離れたことを確認すると、私に小声で声をかけます。
「それで……マリー君。君に頼んでいた調査についてだが……市民たちの様子はどうかね?」
「はい……。今回の一件を解決したバフェットをたたえる者が多いようです。しかし、一方で、旦那様が何もしていないと非難の声が上がっています。バフェットが旦那様とつながっていることを知らない者も多いようで……」
「うむ……。」
「バフェットにこのことは、内緒にしていてよいのですか?」
「構わない。彼は、この町の英雄のような存在だ。このまま、英雄であってもらったほうがいい。ひとまず、ニードルワームの大量発生で被害を受けた農家には、援助金を準備するとしよう。」
「それで、沈静化してくれればよいのですが……。」
数日後、私とバフェットは、同時に休暇をとり、2人で町まで向かっていました。バフェットは私に質問します。
「どうしたんだい? 一緒に来たいって?」
私は、彼に答えます。
「命を助けてもらったんです。少しは、あなたのお手伝いをさせていただきます。」
本当は、それだけじゃありません。私は、このときバフェットにちょっとした興味を抱いていたのでした。バフェットは笑顔で私に言います。
「本当に? 助かるよ! よろしくねマリー!」
その時の彼は、屈託のない笑顔でしたが、その顔はどこか私の本心を見抜いていたような……そんな気がしてなりませんでした。
数分後、私とバフェットは、ミカさんのいる冒険者の宿に到着しました。ミカさんは頭にニードルワームを乗せたまま近寄ってきます。どうやら、このニードルワームは人間に慣れきっているようです。ミカさんは微妙な表情で私に言いました。
「マリーさん……どうしたんですか?」
「私も手伝おうと思ってきました。」
「ふ~ん。そうなんですね。……で、バフェットさん!! これから何をするんですか!?」
「うん。まずは交渉だね。」
バフェットは、そう言うと、冒険者の宿の主人に声をかけました。宿の主人は気さくに挨拶をしています。
「おお! ミカちゃんの相方さん!! 今日は何の用だい?」
「依頼をお願いしようと思いまして。」
「ホント!? で、どんな依頼だい?」
バフェットは、1枚の紙を差し出しました。
「ここに、コーヒーの作り方が書いてあります。これを1000ポンド(450kg)ほど生産してください。期限は1週間以内です。」
「え!! それじゃ、時間足りないよ!!」
「足りない分は、他の冒険者の宿に依頼を回すなりしてください。」
「いや!! でもね……1000ポンドでしょ? 1週間でって……」
「金貨5枚(約125万円)出しますよ?」
「やります!!!!」
バフェットは、金貨をちらつかせてとんでもない要求を見事に丸め込ませました。ミカさんは、それから1週間、馬車馬のように働かされたみたいです。
そして、1週間後。バフェットは、1000ポンドにもなる、大量のコーヒー粉末を手に入れたのでした。宿の主人はバフェットに尋ねます。
「それで、またコーヒー豆の生産を依頼してくれるのかい?」
バフェットは答えます。
「残念ですが、そろそろドングリが見られなくなる季節です。今年の依頼は、今回限りですね。……そうだ。良かったら、コーヒー粉末すこし差し上げますよ。冒険者の皆さん喜んでくれると思いますし」
「え?いいのかい? ありがとう。それにしても、いい商売だと思ったのに……残念だ。」
その後、バフェットは町の冒険者の宿を2・3軒回り、粉末1ポンドで銀貨1枚という値段で売りつけ始めました。そうして、冒険者の宿で合計50ポンドほど、それからコーヒーに目を付けた飲食店や商人に合計で150ポンドほど売りつけました。なので、このときの報酬は合計して銀貨200枚(約100万円)にのぼりました。
売れ残りの、コーヒー粉末を屋敷に運ぶ途中、ミカさんがバフェットに質問します。
「バフェットさん……冷静に考えたら、コーヒー1杯飲むのに粉末が10g必要なんですよね?ということは、1杯でだいたい銅貨1枚(100円)必要ということですよね?」
「そうだね。その通りだよ。」
「でも、バフェットさんが手に入れたコーヒー粉末は、1000ポンド。それにかかった費用は金貨6枚要するに125万円……ということは……1杯30円くらいじゃないですか!! 超、ぼったくってるじゃないですか!!」
「あれ?気づいたの? いい商売でしょ? この世界の通貨の最小単位は、銅貨1枚(100円)だからね。それを逆手に取らせてもらったよ。実際、最初のうちは文句を言われないだろうしね。」
「最初のうち?」
「そうだよ。そのうち、この商売を真似する人も出てくるし、さっき商人がコーヒー粉末買ってたでしょ? あれ、たぶん転売されるよ。」
「それじゃ、このコーヒー粉末……売り切れるんじゃ……。」
「そうだね。商売には、使えなくなると思う。だからね……。」
「これは、攻撃材料に使うんだ」
「攻撃材料……?」
このとき、私は、このコーヒー粉末で、あんなことが出来るなんて思いもしませんでした。
【バフェット君の経済状況】
商品
コーヒー粉末 800ポンド
所持金
前話での繰り越し
398,500円
収入
1,000,000円(キラーカメリア討伐報酬)
1,000,000円(コーヒー販売利益)
支出
1,250,000円(コーヒー粉末生産依頼料)
計
1,148,500円
借金 4,350,000円
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