28話 失敗の本質とは何かね?
この世界の情勢について
ソロモンの世界では、人々が暮らしている国と、悪魔が暮らしている国の二つがあり、敵対関係にあります。そのため、悪魔の力を借りたり、関係を持つことは、この世界ではタブーとされています。
「ほら! バフェット、口を空けなさい」
両腕が使い物にならなくなった、バフェット君の口に、マリー君が食べ物を運ぶ。バフェット君は、それを頬張ると彼女に言った。
「すまないね。何から何まで」
「いえ、いいんですよ。お互い様です。」
マリー君は、朗らかな顔をしながら彼に言った。剣士と戦ったあの日以来、彼女は、バフェット君を邪険にすることもなくなり、笑顔まで見せるようになっていた。マリー君が食べ物をもう一口、バフェット君の口に運ぼうとすると、勢いよく扉が開いた。
バンッ!!!
勢いよく開いた扉の向こうから、ミカ君が姿を現し、二人の元に駆け寄ってきた。
「なに2人でイチャイチャしているんですか!! ずるいですよ!!」
ミカ君の発言に、マリー君は動揺し顔を赤らめながら言った。
「な……っ……。べ……べつにイチャイチャではありません!! 仕事です……仕事……!!」
ミカ君は、マリー君の持っている食器に手をかけて言った。
「私が、バフェットさんに食べさせます!!」
マリー君は、ミカ君に引っ張られた食器を引き戻して言った。
「いいえ!! あなたは、あくまでもお客様です。そんなことをさせるわけにはいきません!!」
仕方なないことで、2人は喧嘩を始めてしまう。……ミカ君、君は一応、クランに目を付けられているのだから、もう少し屋敷への出入りを控えてもらいたいのだが……。バフェット君は、喧嘩を仲裁しようと話題を変えた。
「それにしても、あの剣士を最後はどうやって倒したんだい? 僕は気絶してたから、何があったか分からないんだよね。」
すると、マリー君が言った。
「ああ、それは、ミ……」
「あー!! あれは、マリーさんと私で頑張ったんですよ!!! いやー!!すごかったなー!! あの時のマリーさん!」
ミカ君は、大きな声を出して、マリー君の発言を遮った。そして、マリー君の手をつかみ、
「マリーさんちょっと……」
そう言って、マリー君を部屋の外に連れて行った。私は、その様子をたまたま見かけ、二人のもとに駆け寄った。ミカ君は、マリー君に言った。
「マリーさん。ごめんなさい。私があの剣士を倒したことは、内緒にしてほしいんです。」
「どうしてですか?」
ミカ君は、右腕の袖をまくって私たちに見せてきた。その腕は、どす黒く変色していた。その様子はまるで腕が壊死でもしているようだった。その腕を見て、マリー君は絶句していた。私は、ミカ君に質問する。
「それが、君が力を使った代償というわけかい?」
「はい……。実は、あの日以降、右腕の感覚がないんです。バフェットさんに心配をかけたくない。だから、黙っていてほしいんです。大丈夫です!症状は、だいぶ改善されているので、放っておけば治ると思います。」
「わかりました。そう言う事であれば秘密にしておきましょう。」
マリー君はミカ君に言った。
「では、私もこの件は心に留めておくとしよう。」
私もミカ君にそう言った。
「ところで、旦那様、どうしてこんなところに?」
「君たちに伝えようと思ってな。先ほど連絡が入ったよ。例の剣士が意識を取り戻したそうだ」
バフェット君は、ミカ君に体を支えられながら、剣士の投獄されている牢獄へと向かった。もちろん、私とマリー君も念のため同行することになった。私が兵士に話を付けると、私たちは剣士が投獄されている牢屋へと案内される。彼は、おとなしく座ってはいるものの、敵意むき出しでこちらを見てきた。
「なんだ……お前ら……何しに来たんだよ?」
「バフェット君が会いたいと言って聞かなくてな。連れてきたのだよ。」
私は、剣士に言った。
「そうかい……。まぁいいや。覚悟してろよ、俺が逮捕されれば、クラン領からまた釈放命令が届く。釈放されたら、もう容赦しねぇ!! 今度こそお前らを全員……。」
「もう君は釈放されないよ」
バフェット君は、剣士にそう言った。あまりにも唐突な発言に彼は思わず聞き返す。
「…………あ?」
「考えてもみなよ。今回は、悪魔の力を借りて、悪さをしていたんでしょ? 領主が悪魔に力を借りるなんてこと、この国で許されるはずがない。自分の地位を脅かすような一大スキャンダルだ。
“切り捨てられたんだよ、君は”」
「そんなのお前の妄想だろ!?」
私は、剣士に向かって言った。
「残念ながら、君に関する手紙は、一切来ていない。」
先程までずいぶんな態度とっていたのとは、打って変わって、弱気な声で彼は言った。
「そんな……そんな馬鹿な話があるかよ!! 俺は、クラン様のために汚れ仕事だって散々やってきたってのに!! 何がいけなかったって言うんだ!!! どうして俺ばかりがこんな目に遭うんだ!!!!」
剣士が悲観的になっていると、今まで何も言わなかったマリー君は、声を震わせながら言った。
「何がいけなかったですって!! 人をたくさん殺めておいて、よくそんなことが言えますね!! 私の家族が、こんなクズに殺されたなんて……。」
私は、マリー君の肩を引き寄せた。どれほど、悲しく、悔しく、憎かったことだろうか。私には、計り知れない。私は、いつも悲しい思いをさせてきた立場の人間だったのだから……。
その日の夜、剣士は牢獄の中で頭を抱えながら絶望していた。その日は、満月が照る特段明るい夜だった。彼にとっては、その月明りすらも鬱陶しく感じていたのかもしれない。彼は、布団の中に小さく丸まり震えていた。しばらくすると、カチャリと牢獄の扉が開く音が聞こえる。剣士がゆっくりと起き上がると、そこにはローブを身にまとった男が立っていた。その男は、剣士に向かって言った。
「クラン様からの命令でここに来た。とにかく、兵士に見つかる前にここを抜け出すぞ。」
剣士は先ほどまで絶望していた事など、まるでなかったかのようにいつもの調子に戻った。
「へっ…………。ざまぁみやがれ!今度こそ、あいつらを……。」
そして、剣士は牢獄から姿を消したのだった。
あっさりと、脱獄に成功した剣士は、ローブの男に案内されるがままに、森の中を進んでいた。まだ、バフェット君たちの戦闘の傷は、癒えていないようで、ゆっくりと移動をつづけた。1時間ほど歩いたころだろうか。剣士は、ローブの男に言った。
「そう言えば、武器は持ってないのか? 兵士が追ってきたときに、武器さえあれば俺も戦えるぞ」
剣士がそう言うと、ローブの男は足を止め、剣士の方に振り向いた。そして懐から小剣をとりだし……
……………剣士の腹部に突き刺した。
「がっ……………な……なにしやがる!!」
ローブの男は、答える。
「人目のつくところで殺すと面倒なのでな」
「てめぇ……口封じ……………か……。」
深手を負い、傷も癒えておらず、おまけに武器も持っていない。彼が、この暗殺者から逃げ切ることはもはや不可能だった。ローブの男が剣士にとどめを刺そうと、小剣をのど元に突き刺そうとする。
その時だった。どこからともなく、冒険者たちが物陰から飛び出し、ローブの男を取り囲んだ。そして、木の陰からバフェット君が姿を現し言った。
「やっぱり、暗殺命令でてたみたいだね。警戒していて正解だったよ」
剣士は、彼の背中を見たのを最後に、意識を失った。
剣士が次に目を覚ましたとき、彼は森の中に居た。目の前では、バフェット君とミカ君が座っていた。バフェット君は彼に声をかける。
「言った通りだったろ? いや、もっと状況としては最悪だといってもいいな。」
剣士は、バフェット君の言葉にとどめを刺され泣きながら言った。
「なんで……………なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねーんだよ!!」
バフェット君は、彼に語り掛ける。
「今更、そう言う事いったもんじゃないよ。君は、さんざん利用され、そして捨てられた。それだけの話さ。なんでこんなことになったかわかるかい?」
「……………あ!?」
「考えることをやめて、他人に依存したからこうなったんだ。君は、どんな汚れ仕事もやってきたって言うけどね。実際のところ、何も考えずに引き受けちゃったんでしょ? それで、おさまりがつかなくなった。」
「……………ちがう。」
「最初は君も重宝されていただろうね。現実世界の知識を持ち込んで、うまく立ち回ったんじゃないかな。でも、すぐにそれは、クランに目を付けられ、さんざん利用された挙句、ぼろ雑巾のように捨てられた。君はそんなことをしたクランから、一体何を学べたんだい?」
「……………やめろ!!!」
「僕も、元々経営者のはしくれだ。経営者やってるとね、ある程度その人がどんな人生を歩んできたのかわかっちゃうんだ。君、現実世界でも、同じだったんじゃない? 誰かがなんとかしてくれる……いや、何もしてくれない、学校や社会や親はクソだ! そんな言葉を吐きながら、就職活動も上手く行かず、社会に不満を抱き、経営者を恨み、愚痴をSNSにこぼし、親に怒られ、劣等感をいだき……………」
「やめろって言ってんだろ!!!!!!!! 仕方ねーだろ!!!!! 俺は、Fラン大学出身だぞ!!! もう人生詰んでんだよ!!! 学歴フィルターでろくな会社に就職できない!! そんな社会間違ってるだろ!! この世界に転生した時は、リセットできるチャンスだって思ったよ!! それなのに、てめぇのせいで……………全部うまくいってたのにお前のせいで!!!!!」
「僕はそう思わない!! 君の最大の失敗は、異世界に来たのに、人や社会に依存する本質がまるで変わらなかったことだ。何事においても、卑屈になり、前を向かない!行動しない!! その本質がついて回ってきたにすぎない!!」
「お前に、何がわかるっていうんだよ!!! どうせ、てめぇは、高学歴で、仕事も困らず、金を稼いできたんだろ!!! お前みたいなやつがいるから、俺たちみたいな貧乏人が増えるんだよ!!! お前らみたいなのがいるから!!!!!!」
「言っておくけど。僕は、君と同じいわゆるFラン大学の出身だよ」
「……………え?」
「高校の偏差値も40ちょっとしかなかった。勉強は全然できなかったね。初めて会社を立ち上げたばかりの時は、借金で首が回らなかったこともある。仕事が見つからなくて、収入がなかった時期もある。それでも僕は……
泥臭く、とにかく泥臭く苦労してきたんだ!! 君は、その過程から目を背けすぎた、それだけだ。」
「…………………………………………。」
「さてと……僕が君に話せるのはここまでだ。これから君は、クランから逃げなくちゃいけない。たぶん、この領地で投獄されたら、命はないだろうね。それもまたよしだけど、このままクランから逃げ続けて、今まで殺めた人たちの贖罪を行うのもいいだろう。僕たちは、君を追いかけたりはしない。好きにすればいい。」
「…………………………………………。」
剣士は、バフェット君の言葉を胸に森の中に姿を消した。ミカ君がバフェット君に質問する。
「バフェットさん……よかったんですか? あいつを逃がして。」
「うん……。彼も……被害者みたいなもんだからね。かといって、この世界で行ってきた悪行を許すことはできない。でも、たぶん、罪と向き合いながら生きていくんじゃないかな。」
「それにしても、バフェットさん高校の偏差値40くらいだったんですか? 勉強苦手だったんですか!?」
「そういうミカはどうだったんだよ?」
「私、これでも偏差値60くらいある高校で勉強してましたよ!!!」
「……うわー。それなのにバフェット知らないんだ…………。」
私は、屋敷に戻ったバフェット君から、剣士が暗殺されかけたこと、そのまま姿を消したことを聞かされた。
「そうか……やはり、暗殺命令が出ていたか。本当に容赦のない男だな、クランというやつは。それにしても、彼を逃がすとは、君も甘いのだな。」
私がバフェット君にそう言うと、彼は言い返した。
「それは、お互い様ですよ。」
「それは、違いないな……。バフェット君、しつこいかもしれないが、今後は無茶をしないでくれたまえよ。」
「…………………………………………。」
「私は、処刑され一度人生を終えた。今、この世界に来て、何に後悔しているか、君に分かるかね?」
「………それは。」
「妻を残して、一人で逝ってしまったことを心の底から後悔したのだ。何度も……何度もだ。だが、きっと、残された方は、より強い悲しみを背負っているに違いない。それは、肝に銘じておきたまえ。君も、それなりに生きてきたのだろう? 大切な人を失った経験もあるはずだ!
だが……彼女を……マリーを命がけで助けてくれたことを心の底から感謝している。ありがとう。
暗い話になってしまったな。さて、バフェット君。本題に入るとしよう。今回の一件、本当に感謝している。君には、報酬を与えなくてはならない。君には、この事件を解決した報酬として、金貨2枚を与えよう。」
「ありがとうございます。それにしても、ずいぶん、奮発しましたね。」
「とはいっても、現物支給はせんよ。借金額から引かせてもらうだけだ。」
「…………………………………ケチ」
「何か、言ったかね?」
「いえ、なんでも……。」
こうして、剣士が起こした一連の騒動は幕を閉じたのだった。きっとこれからも、クランとの確執は深まるばかりなのだろう。しかし、どんなことをされても、私は、市民をそして守りたいと思った者たちを守りたい。それは、化学の研究よりも遥かに大事なことなのだと私は信じている。
【バフェット君の経済状況】
所持品
コーヒー豆150g 銅の鎧 木の大盾、スマートフォン、モバイル充電器、ビジネスバッグ
所持金
金貨1枚 250,000円
銀貨24枚 120,000円
銅貨35枚 3,500円
計 373,500円
収入
金貨2枚 500,000円
→ 事件を解決したことによる特別報酬(ただし、借金を減額するだけ)
銀貨5枚 25,000円
借金
金貨17枚 425万円
銀貨20枚 10万円
計 4,350,000円
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