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26話 また君かね?

バティンとは


バティンは、ソロモン72柱の悪魔で、人などを瞬間移動させる能力があると言われている。この世界では、人だけでなくモンスターも移動させられるようだ。


 私がクランの屋敷に向かった直後、バフェット君は、すぐに行動し始めた。バフェット君はミカ君と一緒にキラーカメリアの発生源付近に向かっていた。そこは、何の変哲もないだだっ広い草原だった。ミカ君は、バフェット君に言った。


「本当に、ここなんですか? 何もなさそうですけど」


「もし、僕の仮説が正しければ、魔法陣か何かがあるはずだよ。草で隠れているんだとおもうよ。探してみよう」


バフェット君の見立ては、見事にあたり、見えないように刻まれている魔法陣を2人は発見した。彼らは、それを発生源だと断定した。ミカ君は、バフェット君に質問する。


「それで、バフェットさん。どうやってこれを食い止めるんですか?」


「これを、動かしている奴がいるはずだよ。おそらくそいつを捕まえれば万事解決だよ」


「でも、キラーカメリアを召喚するレベルなんですよね? そんな奴に勝てるんですか?」


「そうだね。だから、入念な準備が必要だよ。」


バフェット君がそう言った直後だった。遠くから男の声が聞こえてくる。


「おーい!! 坊主!!久しぶりだな!!」


荷台に大量の荷物を載せた馬車を操っていたその男は、以前バフェット君たちに鉱山の調査を依頼した商人だった。彼は、2人に近づくと馬車を止めて言った。


「例のものを持ってきてやったぞ!」


荷台には、大量の硝石や硫黄、木炭が積まれていた。バフェット君は、馬車の積み荷をチェックし、言った。


「ずいぶん、たくさん用意しましたね。それで、いくらですか?」


「ああ。硝石が75ポンドで銀貨25枚、木炭を15ポンドで銀貨1枚、硫黄を10ポンドで銀貨2枚、それから粉末にするための加工料で銀貨5枚、合計で銀貨33枚頂こうか。」


「ずいぶん安く済みましたね。分かりました。どうぞ受け取ってください。」


バフェット君は、そう言って銀貨を商人に手渡した。すると、商人はある提案を持ち掛けてきた。


「なあ坊主。おまえの手伝いをさせちゃくれねーか?」


バフェット君は、笑顔で答える。


「構いませんが……お金は出ませんよ」


「いいんだ。噂で聞いたよ、キラーカメリアを討伐してくれるんだろ? 俺たちも困っていたんだ。少しは協力させてほしい。」


「いいでしょう。これから、穴を掘る予定だったんです。一緒にやりましょう」


 そうして、バフェット君たちは、魔法陣の周囲に穴を掘り始めた。深さは約2mほどで、足止めに使える程度の浅い穴だが、バフェット君はそこに商人から購入した大量の粉末をバラまき、そこに燃えやすい枯れ木や枯れ葉を放り込んでいった。そして、時が過ぎ日が沈むとバフェット君とミカ君は、近くの草むらに身を潜めた。身をひそめながら、ミカ君は言った。


「本当に、犯人は来るんですか?」


「そうだね。多分あの魔法陣は、遠隔操作では動かないものだと思うんだよね。」


「どうしてそう思うんですか?」


「表示されたエラーメッセージには、発生時刻も送られてくるんだ。全部夜に発生していたけど、細かい時刻は微妙に違っていたんだ。だから、手動で動作するんじゃないかって思ったんだよ。もちろん、すべて推測だから何とも言えないんだけどね。」


「バフェット遅くなりました。」


突然、背後からバフェット君は声をかけられた。2人が振り向くと、そこには剣を装備したマリー君が姿勢を低くしていた。バフェット君は言った。


「やっときたね。でも、本当にいいの? 戦闘になることもあるかもしれないよ。」


「いいんです。私も、クランを許せませんから……。そもそも、私はあなたよりも強いですよ。」


バフェット君は、苦笑いしながら言った。


「それはそれは……頼もしい。よろしく頼むよ」



それから、数分後のことだった。人影が魔法陣に向かって移動していることに3人は気が付いた。その人影は、周囲に掘った穴を踏み越え、魔法陣の前まで移動する。3人は、それを確認すると、ランタンに火を付け、その人影を取り囲んだ。ミカ君は言った。


「……あんたは、採掘場の時の!!」


その人影は、採掘場での一件で逮捕された剣士だった。剣士は、ミカ君に向かって言った。


「お前、アントワーヌ領に逃げていたのか? それじゃ、そこにいる男は……」


「やぁ、剣士くん。久しぶりだね。」


「やっぱり、社長さんか。どうして、ここがわかったんだ?」


バフェット君は、スマホの画面を向けながら答えた。


「キラーカメリアを召喚するなんてこと、ゲームじゃできなかっただろ? だから、エラーが出てたんだ。それを解析したにすぎないよ。」


「なるほどね。さすが、このゲームの会社の社長さんだな。……で、どうやって俺を捕まえるつもり? この場でキラーカメリアを大量に召喚して殺すように命令してもいいんだぞ!?」


剣士の脅迫に、バフェット君は全く屈していなかった。


「命令は……できないんじゃないかい?」


「……なに?」


「君のやっていることは、おおかた別の場所に生息しているキラーカメリアを、この場所に移動させるだけなんでしょ?」


「どうしてそう言い切れる?」


「だって、わざわざ戦闘能力のある人間が、魔法陣起動させてるんでしょ? もし、キラーカメリアに命令が出来るんだったら、もっと非力な人間に依頼してもいいだろうしね。そもそも、モンスターを魔法陣で移動させるなんて、人間のできることじゃないよ。そんな魔法は、現実世界ゲームでも実装してなかったしね。だから、思ったんだよ。《悪魔》の力を借りてるんじゃないかってね」


「………………………………。」


「それで、ソロモン72柱の悪魔を調べたら一発だったよ。《バティン》って悪魔は知ってるかい?


「…………。」


「人を瞬間移動させる能力を持っているんだ。こいつの力を借りてるんじゃないかな?」


「なんだ、全部お見通しってわけかよ。でも、関係ねーな!! この広い草原なら、爆薬なんて使っても意味ないしな!!」


剣士は、剣を抜きそう叫んだ。すると、バフェット君は言った。


「それは、量が少なければの話だ!考えなかったのかい? なんで、穴が掘ってあったのか?」


「まさか!!この穴の中に!! てめぇ、一体何キロ用意したんだ!!!?」


「え?50キロだけど」


バフェット君は、火のついたランタンを穴の中に放り込んだ。すると、穴に敷き詰められていた枯れ葉や枯れ木に引火し一気に燃え広がり、そして………………………………。



ドカーン!!!!



凄まじい爆音が辺りを包み、煙で剣士の姿は見えなくなった。しばらくして、その黒煙の中から剣士が姿を現した。さすがにダメージを負っているようだ。しかし、まだまだ戦える様子だった。剣士は、激昂しながら、叫んだ。


「クソがぁ!!! あの野郎ぶっころしてやる!!!!!!」


しかし、爆発が収まるまでの間に、彼らは姿を隠してしまった。おまけに、周囲には、いなかったはずのキラーカメリアがうろついていた。その絶望的な光景に剣士の頭の中はパニックになる。


「そんな馬鹿な!! どこから湧いてきた………………まさか!!!」


剣士は、足元の魔法陣に魔力を込めた。……しかし、何も起こらない。


「クソッ!! この魔法陣!! 偽物じゃねーか!!! 魔法陣の周辺に穴なんて分かりやすい罠があったから、これが本物の魔法陣だと思っちまった。よくよく考えたら、少し場所がずれてるじゃねーか!!! なめたマネしやがって!!!!」


「キェェェェェェェェェェ!!!!!」


 数体のキラーカメリアは、剣士に気付き襲い掛かり始めた。どんな手練れでも、爆発によるダメージを負った状態で、複数の凶悪なモンスターに囲まれては、深手を負うことは避けられない。キラーカメリアを倒した後の剣士の体は、ボロボロになっていた。すべての力を使い果たし、彼は草原の真ん中であおむけに倒れこんだ。その様子を確認してバフェット君たちは、剣士の元に近づいた。剣士は、仰向けになりながら力ない声でバフェット君に言った。


「てめぇ……偽物の魔法陣を作って、その周りに穴を掘りやがったな……。そして、爆発で動けない間に魔法陣を起動させてキラーカメリアを召喚したってか……殺す気まんまんじゃねーか……。」


マリー君は、声を震わせながら言った。


「あんた……私の顔を覚えてる?」


「あ?」


剣士は、マリー君の顔を見ると言った。


「……なんだ、クラン様に気に入られてた女か? なんだ? 家族を殺された復讐か?」


「いえ、ここに来たら、たまたまあんたが居ただけよ。おかげで、会う手間が省けたわ」


「……へっ。そうかい。……俺にとどめを刺せよ。 みじめな俺らしい最後だよ……まったく……」


マリー君は、剣士に近寄りとどめを刺そうとした。バフェット君は叫んだ


「マリー!!!! やめろ!!!!!!!」


その時だった!!




「なんて、言うとでも思ったのかよ!!!!!」




剣士は、そう叫び、マリー君を蹴り飛ばし、素早く起き上がった。そして、近くにいるミカ君とバフェット君を剣で薙ぎ払い、吹き飛ばした。


「わかってたぜ!!!! 瀕死になってるふりをしてれば、近寄ってくるなんてことはな!!!!!」


剣士に蹴とばされ、しりもちをついているマリー君に、剣士はジリジリと歩み寄りながら言った。


「それにしても、ラッキーだぜ! まさか、お前がこんなとこに居るなんてな!! お前をクラン様の所に連れて行けば、喜んでくれるだろうさ!!!! ヒャハハハハハハ!!!!!」


その時の剣士の顔は、かつて、マリー君の家族を手にかけたときと全く同じものだった。マリー君は、その顔を見た途端、恐怖で動くことができなくなってしまった。そして、弱弱しい声で訴える。


「イヤ……あそこには、戻りたくない」


しかし、剣士はそんなことなどお構いなしだった。


「そうだ、足の1本でも切っとくか。逃げれない方がいいだろう」


剣士は、剣を振り上げた。そして……思い切りそれを……振り下ろした。



……メリッ!!!



間一髪のところで、バフェット君が2人の間に入り込んだ。マリー君は無事だったものの、バフェット君が代わりに切られてしまった。幸いなことに、バフェット君は鎧を装備していたため、ダメージは最小限だったものの、切られた傷跡からかなりの出血が見られる。しかし、突然の出来事に剣士も一瞬ひるみ、隙を作ることができた。バフェット君はその一瞬を見逃さない。彼は、右手に持っていたランタンと左手に握られている爆薬を剣士の顔に同時に押し付け……。




ボン!!!!



自分もろとも剣士を吹き飛ばした。それは、決死の自爆特攻だった。



【バフェット君の経済状況】


所持品

コーヒー豆150g 銅の鎧 木の大盾、スマートフォン、モバイル充電器、ビジネスバッグ、黒色火薬50kg



所持金

金貨2枚  500,000円

銀貨7枚   35,000円

銅貨35枚   3,500円

計     538,500円


支出

硝石75ポンド 銀貨25枚 

木炭15ポンド 銀貨1枚

硫黄10ポンド 銀貨2枚

加工料     銀貨5枚

計       銀貨33枚 165,000円


借金

金貨19枚 475万円

銀貨35枚 17万5000円

計     492万5000円


最後まで読んでいただきありがとうございます。


「面白かった、続きを見たい、また君かね」


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