2話 投資家って結局なんなんですか?
モンスター図鑑
NO1 スライム
冒険者ならば、攻撃しただけで倒せてしまう。体当たりなどの攻撃をしてくるが、体がブニブニしているため、一般人が攻撃されたとしても無傷で済む。しかし、体液は猛毒で、失明や意識不明などに陥り、場合によっては死亡する。そのため、毒に対する耐性が劣る一般人は、スライムですら危険である。
数日後、私とバフェットさんは近くの平原で薬草を摘むクエストをこなしていました。
「けいけんち~2倍♪2倍♪ 倒すとポイント2倍デ~♪」
私は、そんな鼻歌を歌いながら、バフェットさんに近づくスライムをひたすら倒し、その間にバフェットさんが薬草をひたすら摘んでいます。それを、30分くらい続けると、周辺にスライムは見当たらなくなりました。一帯のスライムは、全滅したみたいです。
「バフェットさん、終わりましたか~?」
「うん、けっこう採れたよ」
バフェットさんは、薬草がいっぱい入った籠を背負いながらそう言いました。私は、そんなバフェットさんの行動を疑問に思っていました。そこで、私はバフェットさんに質問しました。
「バフェットさん。いまやってることって、他の冒険者と大して変わらないですけど、投資家になるんじゃなかったんですか?」
バフェットさんは答えました。
「最初は、こんなもんじゃないかな。それじゃ、ミカに質問。投資家になるために必要なものって何だと思う。」
私は、困ってしまった。もともと高校生だった私に、そんな質問されても答えられません。私は、適当な言葉で返答しました。
「お金ですか?」
私がそう答えると、バフェットさんは少し困り顔で言いました。
「う~ん。じゃぁ、質問を変えようか。投資家は、どうやって利益を得ているか知っているかい?」
「株とかですよね?」
「それ、あったら魅力的だけど。この世界にないよね?」
「……じゃあ、投資家になるの無理じゃないですか」
平原を歩きながら、バフェットさんは言いました。
「投資家は、資産にお金をつぎ込んで、その資産の配当や価値の変動から利益を得るんだよ。資産っていうのは、ミカの言った通り、株などの金融商品、不動産やコモディティー(金やプラチナなどの貴金属)などがあるね。」
もう、わたしの頭はパンクしそうです。バフェットさんは、その様子を見て補足説明をしてくれました。
「例えば、あの畑を見てごらん」
バフェットさんは、小麦畑にむかって指をさして言いました。それは、よくモンスターの駆除を依頼される小麦畑です。でも、なんの変哲もないただの畑です。
「町に住んでる、ファジーさんの畑ですよね?」
「そうだね。みんなそう思ってるよね。でも、実際は違うんだ。町で聞いた話なんだけど、あの畑は、領主が金貨を積んで※開墾して、ファジーさんに貸し与えたものなんだよ。ファジーさんは、収穫量に合わせて、小麦を領主におさめているんだ。領主は、畑という資産を持っているだけで、報酬が手に入るってわけ」
※開墾…土地を耕すなどして、畑などを整備すること。
彼の、あまりにも丁寧な質問に私は、ちょっとムッとしました。
「べ……べつにそのくらい知ってますもん!世界史で似たような仕組みを習いましたもん!荘園とか言ってた気がします」
バフェットさんは、少し感心した顔で言いました。
「なんだ、ちゃんと知ってるんじゃないか。もちろん、これはわかりやすく説明した例だから、実際の投資と比べるとちょっと違うかもだけどね。さて、話を戻そうか。投資家になるために必要なものは何か。それは、投資ができる資産の存在とそれを手に入れるための資金だ」
なんだ、簡単じゃん。そう思った私は、ガッツポーズをして言いました。
「要するに、お金をいっぱい稼いで、この世界の領主に成り上がっちゃえばいいってことですか?土地いっぱい買いましょう!!」
しかし、バフェットさんは浮かれている様子ではありませんでした。
「そういうわけにも、いかないんだよねこれが。まず、どんなにお金があっても、不動産(土地や建物)は購入できないと思う。」
「え!?なんでですか!?」
「多分、領主の特権なんじゃないかな?領主以外はおそらく不動産を入手できない。たぶん、勝手にそんなことしたらつかまっちゃうでしょ?」
「うう……。そんな気がします」
「だから、僕が今やっているのは、こうして生活しながら情報収集をして、新しい資産となりうるものを見つけることなんだ。そうだ、ちょうど見せたいものがあったんだ。」
バフェットさんは、そう言うと近くの小屋に私を案内しました。
そこは、私たちの住んでいる宿の裏にある小さな小屋でした。その小屋をバフェットさんが開くと、そこにはモンスターの死体の一部や平原で拾った石や摘み取った植物などいろんなものが置かれていました。でも、どれもが素材にもならない、取るに足らないゴミでした。私がそのゴミを眺めていると、バフェットさんは言いました。
「この中には、資産となりうるものが存在するかもしれない。だからこうして集めているんだ。」
「本当にこんなゴミがですか?」
「でも、化学的な組成、言えないでしょ?例えば、この瓶に詰めて保管してあるスライムの体液、冒険者はみんな放置しているけど、ちょっとおもしろい性質がある。」
「面白い性質?」
「数日たっても腐らずに、太陽にさらすと蒸発しちゃうんだ」
「それは、魔物の体だから腐らないってだけじゃないですか?」
バフェットさんは、人差し指でこめかみを触りながら言った。
「僕はそう思わない。もしかしたら、この世界でも価値のある元素(金や銀など)が手に入るかもしれないだろ?今は、これを調べている最中なんだ。もし、価値があったのなら、それを大量生産できるように資金をつぎ込めば、資産を作ることができると思わないかい?」
「確かにそうだけど……。そもそも、大量の資金ってどうやって手に入れるんですか?私だってここにきて長いけど、金貨とか手に入れたこと一度もないんですよ。」
バフェットさんは、そう言うと木の棒で、地面に何かを書き始めました。そして、書きながらこう言いました。
「そうだね、資金調達。こればかりは、地道にやっていくしかないね。資産を形成するためには、大きく3つのステップを踏まないといけないんだ」
私は、バフェットさんが地面に書いた図を見ました。そこには、
労働者 → 個人事業主 → ビジネスオーナー → 投資家
と書かれていました。バフェットさんは、労働者の部分に木の棒を指しながら言いました。
「今、僕たちが居る場所はここだよ。冒険者の宿の主人に雇われて生活をしている。だから次に個人事業主を目指すんだ」
「個人事業主?」
「簡単に言うと自営業ね。今の現状でそれを実現するには、画期的なアイデアと最低限の資金が必要になるね。とにかく、今は情報を集めること、それから人脈を広げること。これが先決だ」
バフェットさんは、丁寧に説明してくれているつもりなんでしょうが、やっぱり私には難しいです。でも、一つだけ疑問に思ったことがあります。
「ところで、バフェットさん。この倉庫どうやって手に入れたんですか?」
「ああ、これかい?冒険者の宿の仕事を手伝う代わりに、貸してもらえることになったんだ。」
「え?いつの間にそんな交渉してたんですか?」
彼は、しれっと宿の主人に交渉していたみたいです。もしかして、私の知らないところでいろんなことをしているのかもしれません。もう少し、彼の様子を観察してみたいと思います。
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
・転生時に持っていた高級カバン(異世界では役にたたず) : 小麦粉1ポンド
・名刺入れと名刺: いまのところ価値なし
・ボールペン: いまのところ価値なし
・スマートフォン: いまのところ価値なし
・メモ帳 : 紙15枚分
・スライムの体液10L : いまのところ価値なし
・スカスカ草1kg: いまのところ価値なし
日本円換算 約38000円
2、損益計算(1ヶ月換算)
収入
給与:その日の生活費とお手伝い代120000円
支出
冒険者の宿との契約:80000円
倉庫レンタル代:40000円
合計
0円
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