16話 どうしてこんなに残酷なのかね?
領主と冒険者との癒着
ソロモンの世界では、戦闘能力を持つ者の大半が《冒険者》か《騎士》のどちらかになります。《騎士》は、国に雇われているので、領主が好き勝手できません。一方で、《冒険者》は、異世界転生者(つまり身元がよくわからない人たち)が多いので、領主が汚れ仕事を依頼することが多いのです。
マリー君は、怒りに満ちた表情で私の部屋を出て行った。私は、バフェット君に声をかける。
「バフェット君……申し訳ないね……マリー君は……」
すると、バフェット君は言った。
「おおかた、クラン領の冒険者に何かされたのでしょう?」
「ああ……そうなんだよ。少し、彼女の話をしてもいいかな?」
「ええ……構いませんよ」
あまり、他人の身の上話をするのは、好みではないのだが、これ以上黙っているのも彼に悪い。そう思った私は、マリー君の過去を語ることにした。
彼女は、もともとクラン領の貴族だった。クラン領には、何人か貴族がいるらしく、彼女も名前のある貴族のご令嬢だった。彼女は、貴族として不自由なく生活していた。そんなある日のことだった。彼女が15の誕生日を迎えた日に、クランが開いた社交界に参加することになった。貴族としての階段を一つ上ったというわけだ。そこで、彼女はクランに気にいられ、彼の屋敷に個人的に呼ばれるようになった。
「クラン様、こんな素敵なお食事をご馳走になってよろしかったのでしょうか?」
「構わないよ。好きなだけ食べなさい」
「ありがとうございます!!」
彼女は、無邪気な笑顔で答えた。当時の彼女は世間をしらない箱入り娘だ。まだクランが、どういう人間か知るはずもない。無邪気にクランとの食事を楽しんでいたそうだ。そんなやりとりを何回かしたある日のことだった。マリー君の屋敷にクランがやってきたのだ。クランは、マリー君とその両親の前で言ったんだ……
「マリーを妻として迎えたい」
とな。
両親は、それはそれは喜んでいた。自分の娘が、領主の妻となるのだから。マリー君本人もまんざらではなかったのだろう。クランとの結婚の話は、順調に進んでいた……はずだった。
ある日のことだ。クランが剣士に金貨を渡しているところをマリー君は目撃した。マリー君は、クランに質問した。
「クラン様、あの剣士は何者なのですか?」
クランは答えた。
「あれは、冒険者といってな。報酬を渡すとどんな依頼も引き受けてくれる者たちなのだよ」
「そんな方たちがいるんですね」
このとき、彼女は初めて冒険者というものを知った。まだまだ、好奇心旺盛な年齢だ、彼女はその足で冒険者の宿を見つけ出し、様子を見に行った。そこで、彼女は現実を知ることになった。その冒険者たちの会話を聞いたのだ。
「今回はどんな依頼だった?」
「ああ、近くの農園が税を納めてないんだと。だから、取り立てて来いってさ」
「取り立てるっていっても、不作だったんだろ? とれるものないだろ!?」
「だから、呼ばれたんだよ。あそこの農家、子供が3人くらい居るだろ? 奪って来いってさ。子供の奴隷は金になるんだとよ。両親が抵抗したら、やっちまっていいってよ」
「ははは……領主様、鬼だな」
彼女は、そこで貴族の裏の顔を目の当たりにした。ここから、彼女は、冒険者へ不信感を抱くようになった。しばらくして、彼女がクランの屋敷に呼ばれたある日のことだ。クランが彼女に言った。
「どうした? マリー? 食欲がないのか?」
「いえ……ちょっと考え事をしていました」
「そうか、ならいいのだが……。すまないが、この後客人が来る。部屋を用意したからしばらく待っていてほしい。何かあったら使用人を呼んでくれ。」
そう言って、クランは部屋を出て行った。マリー君は、クランや冒険者への疑念から、彼の後をこっそりつけた。クランが大広間に入ると、マリー君は扉の隙間から部屋の様子をうかがった。部屋の中には、クランと先日出会った剣士、そして若い学者らしき人物が話をしていた。その学者は言った。
「最近できたアントワーヌ領が行っている政策は、画期的です。銅貨が流通したことで、商業も発展していますし、民衆にも教育が行き届いています。公共設備も整っています。うちの領地もあの領地を見習えばもっと栄えると思います!! ぜひ、やりましょう!!」
「そうか……」
クランは、興味なさそうに返事をして、天井を数秒間見つめた。そして、そのまま剣士に向かって言った。
「……おい」
すると、剣士は、剣を抜き学者に向かって切りかかった! その学者は不意打ちに対応できず、致命傷を負ってしまった。部屋中に血の匂いが充満する。血まみれになった学者は言った。
「どう……して……………。」
クランは言った。
「うちの領地に頭のいい民衆は必要ない。ましてや、お前のような知識人はもっと必要ない」
「そん……………な……………。」
学者は、そう言い残し絶命した。その様子を見たマリー君は、動揺し尻もちをついてしまった。そして、その音で剣士に気付かれてしまったのだ。剣士とクランは、ゆっくりとマリー君の元に近づいた。マリー君は、恐怖のあまり逃げ出すこともできなかった。そして、腰を抜かしているマリー君の目の前に彼らは立ちふさがって言った。
「見てしまったね。安心していい。見たからと言って、君をどうこうするつもりはない。こういうのは、はじめてかね?」
マリー君は、泣きながら首を縦に振った。しかし、恐怖のあまり声を出すことはできなかった。
「政治というのは、こういうものだ。」
クランは、親指で学者の死体を指さして、話をつづける。
「平民というものは、ああいう生き物だ。価値もないくせに私たちに要求をしてくる。こんなことは、日常茶飯事なのだよ……。さぁ、用事も済んだ。この後、出かける約束だっただろう? さあ、マリー行こうじゃないか」
クランは、マリー君に手を差し伸べた。マリー君は、思わずその手を払いのけてしまった。
「嫌!!!!」
「……………。」
彼女は、叫んだ!
「無理!! 無理です!! こんなの! 耐えられないです!! 私が頂いてきた食事も、必死に生きている平民の人たちから奪ったものだったんですか!?」
「奪ったなんて、人聞きの悪いことを言う。もともと、領地に住ませてやっているんだ。彼らのものは、すべて私のものだ。さぁ、マリー来るんだ!」
「嫌です!! クラン様!! やっぱり結婚も無理です!!!」
すると、今まで穏やかだったクランの表情が一気に曇った。クランは、低い声で彼女に言った。
「さっきも言ったはずだ。この領地に住んでいるものは、すべて私のものだと。それは、お前も例外ではない。お前の態度次第では………これ以上は言わなくてもわかるだろう?」
「最低です!! あなたなんか大嫌いです!!! 私を家に帰して!!」
「…………………………そうか。まあ、突然の出来事だ。混乱しているのだろう。今日のところは家に帰るといい。屋敷の外に馬車を待たせている。それに乗るといい」
彼女は、クランをにらみながら屋敷の外に飛び出していった。その様子を、クランと剣士は、ただ見ていた。
剣士は、クランに尋ねる。
「……………クラン様。あいつ、どうしますか?」
クランは、剣士の問にこたえる。
「……………見せしめは、必要だろう。頼んだ」
「了解でーす。んじゃ、報酬は後日ってことで」
数時間、馬車に揺られマリー君は、家族のいる屋敷に戻った。しばらくクランの屋敷に滞在していたため、両親に会うのも久しぶりだ。とにかく、両親にあって落ち着きたい。きっとマリー君は、そう思ったに違いない。
彼女が屋敷に着いたのは、夕方になってからだった。真っ赤な夕日が屋敷全体を照らしている。彼女は、見慣れた屋敷を見て、少し安らいだ。しかし、それも一時のことに過ぎなかった。屋敷に入ってすぐに気が付いのだ、先ほどクランの屋敷で初めて嗅いだ“血の匂い”が、この屋敷にも充満していることに……
マリー君は、大慌てで両親の部屋に駆け込んだ! しかし、彼女はそこで最悪の光景を見てしまう。それは、倒れている両親に何度も剣を振り下ろす剣士の姿だった。窓からは、夕日が差し込み、部屋全体が真っ赤に照らされている。
「嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
マリー君は、叫び声をあげた。するとその剣士は、笑顔で彼女に近づき言った。
「君も馬鹿だよな~。こうなることぐらいわからなかったの?」
「そんな……………」
「さてと、君を連れ帰るって依頼だからね……。一緒に帰ろうか? クラン様の屋敷に!」
「嫌!! 来ないで!!!!」
彼女は、走って逃げだした。一方の剣士は、逃げられることはないと思っているのだろう、ゆっくり歩きながら彼女に近づいた。逃げるあてもなく、走り回る。屋敷の使用人たちも、倒れこんでいる。あの剣士にやられてしまったようだった。そして、厨房に逃げ込むと、生き残った使用人が彼女に言った。
「マリー様…………裏口からお逃げください。ここは、私がなんとか時間を稼ぎますから!!」
「でも……あなたは……………」
「いいから、お逃げください!! それが、旦那様からの最後のご命令ですから」
マリー君は、必死に逃げた。何日も何日も、あてもなく森の中をただ一直線に逃げ続けた。使用人がうまく足止め出来たようで、剣士は追ってこなかった。しかし、彼女には行くあてなど当然ない、そして、森を抜け、草原に出たところで、ついに力尽き……倒れこんでしまった。
私は、馬車で移動しているときに、偶然にも彼女を見つけ保護した。彼女がクランの屋敷を出入りしていたことは、知っていたし、社交界でも何回か会っていたからだ。私は、彼女を屋敷に連れ帰り、彼女から何があったのかを聞かされた。そして、彼女を保護することに決めたのだ。
「マリー君。話は分かった。安心したまえ。君をクランに渡したりはしない。それに、私は、あの男とは違う。それは、この領地の平民たちを見てくれれば、すぐにわかるだろう。ともかく、君は、社交界にもあまり出ていない。クランの関係者に会わなければ見つかることは、まずないだろう。君を、養子として迎え入れようじゃないか」
マリー君は、か細い声で言った。
「あの……アントワーヌ様、そのことで一つお願いがあります……………。」
「なんだね? 要望には出来る限り答えようしゃないか」
「私を、使用人にしていただけませんか?」
「使用人だと? 一体どうして?」
「もう……貴族は……たくさんです……………」
彼女は、そう言いながらボロボロと涙を流した。彼女の涙を見たのは、これが最後だ……………。
「これが、マリー君がうちの屋敷に来た経緯だ。きっと彼女は、君のことを受け入れるには、時間がかかるだろう。だが、彼女を責めないでくれたまえ。」
「そうでしたか……………。」
「社交界で出会ったときの、彼女は笑顔のまぶしい無邪気な子だった。でも、君がマリー君に抱いた印象は、違うだろう? 無機質で不愛想な印象を抱いたはずだ。本来は、明るく笑顔のまぶしい子なんだ。きっとまだ、あの日のことを引きずっているんだろう」
「まぁ………トラウマものですね」
「すまない……………暗い話をしてしまった」
「いえ、話していただきありがとうございました。おかげで当面の目標ができましたよ」
「当面の目標?」
「クランを……………没落させます!!」
バフェット君の経済状況
所持金
銀貨2枚 10000円
借金
金貨20枚 500万円
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