13話 なぜ集中出来ないのだろか?
人物紹介
アントワーヌラボアジエ
中学理科で学習する質量保存の法則を発見した人物。
徴税人として働いていたが、最後は処刑されてしまう。一説には、ある人物の論文を査読した時に恨みを持たれ、処刑されるよう仕組まれてしまったとも言われている。
バフェット君を屋敷に連れ帰った次の日、彼の奴隷としての生活が始まった。まず、私は彼を自室に呼び出した。
「バフェット君、それでは奴隷としてきちんと契約を結んでもらうよ」
「分かりました。もちろん契約書は……」
「もちろん、作ってあるよ。これは、きちんとした雇用契約だからね」
私が、バフェット君に契約書を手渡すと、彼はそれをしばらく読み込んだ。ここまで、書類を読み込む人物に出会ったのは、これが初めてだ。その様子を見ていると、バフェット君は私に質問してきた。
「雇用期間が、借金を返済するまでで、その期間は、5年7ヶ月と……これって、返済は繰り越しも可能ですか?」
「もちろんだ。返してくれればそれで構わない。ちなみに、借金額は金貨20枚分、これは銀貨1000枚分に相当する金額だ。1ヶ月働いてくれれば、銀貨30枚分の給与を与えよう。そこから、15枚を借金の返済に、10枚をここでの生活費として天引きさせてもらう。残った銀貨5枚は、君の好きなようにして構わない。借金返済に充ててもよし、好きなものを購入するもよしだ。冒険者としてではなく、奴隷として雇うわけだからな、条件が悪いと思うがこれで納得してもらおう」
バフェット君は、納得したようで契約書にサインし、それを私に手渡し言った。
「これで構いません。というより、クラン領で冒険者をしていた時より条件が遥かに良いので。給与なんて概念なかったですし」
「これより、条件が悪いのかね!? 奴隷でもないのに!!? 一体あの領地は、どうなっているのかね!?……とにかくだ。今日から仕事を覚えてもらおう」
私は、そう言って部屋にある※伝声管に向かって、「すぐに来てくれ」とだけ言った。私はバフェット君に言った。
※伝声管:金属管でできた糸電話の強化版のような装置。金属管の一端から声を発すると、もう一方の管の端に音声が伝わる。よく、船の船内での連絡に用いられる。
「今から、私のメイドがここに来る。彼女から仕事を教えてもらうといい。君の素性は、一応言わないでおいた。君も、念のため普通の奴隷として振る舞った方が良いだろう」
「そうですか。では、今後はそうさせて頂きます。」
バフェット君は言った。その直後だった、部屋の扉をノックする音が聞こえた。私は、扉に向かって、「入りたまえ」とだけ言った。
「失礼します」
「バフェット君、紹介しよう。この屋敷でメイドをしている《マリー》君だ。マリー君、彼が今日から奴隷として雇うことにしたバフェット君だ。彼に仕事を振ってやってくれ」
「かしこまりました、旦那様」
マリー君は、私にそう言った後、バフェット君を部屋の外へ連れて行った。……マリー君、ちゃんと仕事を教えられるだろうか? ……心配だ。彼女は、若いのに仕事も良くできる。おまけに大変博識で、私の研究を手伝ってくれている。
私の屋敷では、執事を雇っていない。それは、彼女が執事の代わりをしてくれているからだ。しかし、彼女は気が強く、不器用な性格なのが心配なのだが……。
いかん! 余計な心配というやつだな。クラン領に行っていた間に溜まってしまった仕事を片付けなければ……。私は、書類の山に手をかけたのだが……
…………気になって集中出来ない!
私は、自室を飛び出し、二人の跡をこっそりつけることにしたのだった。
まず、2人が向かったのは、食糧庫だった。マリー君は、バフェット君に言った。
「私の知る限り、旦那様は奴隷を雇ったことはありません。何故だかわかりますか?」
「そうですね……教養がないからじゃないですか」
「よくわかってるじゃないですか。だから、私はあなたを信用していません」
うわーー!!! マリー君!! 警戒しているよー!!!! 頼むよバフェット君、彼女の警戒心を解いてあげてくれよ!!
「とにかく、僕はご主人様のためにできることをするだけだよ。」
「それはそれは、頑張って下さい。……とは言っても、教養のない貴方には、単純な仕事をしてもらいます。近々、商人の方々をお招きする予定なんです。今日は、この食糧庫から必要な食材を厨房に運んで下さい。厨房では料理人の方々が下拵えをしていますから、必要な食材を聞いて運んで下さい。それが終わったら、ゲストルームの清掃をお願いします。今日は初日ですから、その作業が終わったら自室で休んでもらって結構です。」
「わかったよマリー」
マリー君は、そのまま立ち去ってしまった。相変わらずぶっきらぼうな子だな……。というか、バフェット君に何一つ仕事教えていないではないか! これは……彼女に指摘してやるべきだろうか。
……いや、そんな事をしてしまったら。「何ですか? 見ていたんですか? お仕事も溜まっているというのに!?」なんて、小言を言われてしまう……仕事に戻るか……。
それから2時間くらいたった頃だろうか。結局、バフェット君の事が気がかりで、仕事が進んでいなかった。時刻は、午後の3時になろうとしている。そろそろ、マリー君がお茶を持ってくる時間だ。私は、仕事を中断して椅子に深く腰掛け、一息つくことにした。しばらくして、マリー君がティーセットを持って部屋に入ってきた。私は、彼女の淹れた紅茶を味わいながら、バフェット君のことを聞くことにした。
「マリー君、バフェット君の方はどうかね?」
「はい、今日はゲストルームの掃除と食材の運搬をさせています」
「そうか……それで、彼の働きぶりはどうかね?」
「まだ、確認していません。そろそろ、仕事の様子を見てみようとは思いますが……」
「わかった。それでは、私も見に行くとしよう」
「いけません! 旦那様のお手を煩わせるわけにはいきません」
「いいんだ。私が選んだ奴隷だからな。働きぶりを見てみたい」
「……承知しました」
私は、半ば強引にマリー君と一緒にバフェット君が清掃しているゲストルームに向かったのだが……。そこにバフェット君の姿はなかった。マリー君は、部屋の清掃状況をくまなくチェックするが……。
「完璧ですね……しかし、この部屋一つ掃除するのに時間をかけすぎな気もしますが……それよりも彼はどこに行ったのでしょうか」
「厨房と食糧庫をまだ往復しているのではないだろうか?」
「そうですね……厨房に行ってみましょう」
次に、私とマリー君は、厨房に行くことにした。すると、厨房から賑やかな声が聞こえる。2人で厨房を覗くと、料理人たちが集まって何やら盛り上がっている。そして、その中心では、バフェット君が食器を磨いているようだった。料理人たちが声を揃え言った。
「すげぇな! 坊主! 銀食器がみるみる輝きを取り戻しているぞ!!」
その異様な光景を見て、マリー君が彼らの元に駆け寄った。
「何をしているんです!?」
マリーが料理人に尋ねると、彼らは嬉しそうに言った。
「嬢ちゃんみてくれよ!! 黒ずんだ銀食器があっという間にピカピカになっているんだ! この坊主本当にすげえぞ!!」
マリー君は、それを聞くと、バフェット君の腕を掴んで言った。
「何をやっているのですか!? 頼んでいた仕事が終わっていないでしょう?」
バフェット君は、言った。
「いや、実はとっくに終わってね。時間があったから、銀食器を磨いてたんだよ。これ、一回黒ずんじゃうと、元に戻すの大変なんだよね〜」
「別に、そんなこと頼んでいませんよ。終わったなら、自室に戻って休めばよかったじゃないですか?」
すると、バフェット君は、人差し指で自分のこめかみを触りながら言った。
「僕は、そう思わない。与えられた仕事以上のものを提供するのが僕の流儀だ。もし、迷惑をかけたのなら謝るよ」
「べ……別に困ってはいませんが……。」
マリー君は、少したじろいだ。こんな姿を見るのは初めてかもしれない。それはそうと……バフェット君……
頼むから、あんまり目立たないでくれ!!
その日の夜、私はこっそりバフェット君を呼び出した。私は、バフェット君に質問した。
「バフェット君、今日はご苦労だった。それにしても、給仕の仕事をした事があるのかね? やたらと手慣れているではないか!」
バフェット君は、言った。
「いや、普通にやったつもりなのですが……掃除の仕方だって、学校で習ったやり方そのままだし……僕のいた世界では、みんな割とできると思います」
「み……未来は一体どんな世界なのかね!? ……とにかく、せっかく素性を隠しているのだ。あまり目立たないでくれたまえ!」
「気をつけます」
「……ところで、バフェット君。書類のチェックは、できるかね?」
「物によりますね」
私は、自分の机の上に置いてある書類の束に手を置いて言った。
「クラン領に行っていた間に溜まってしまった書類が一向に片付かないのだ!! 頼む!! 助けてくれ!!」
「なるほど……わかりました! 手伝いましょう!」
その後、私とバフェット君の二人がかりで書類の処理にあたったが、それが終わったのは、次の日の朝だった。
……こんなはずでは。トホホ……
【バフェット君の経済状況】
1、所持品
なし
2、現金
銀貨1枚(徹夜で作業に付き合ったためお小遣いをもらった)
3、借金
金貨20枚
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