12話 なぜ私を知っているのかね?
主人公の前職
ソロモンの世界にやってくる前は、様々な会社を経営していました。全国各地で講演なども行っていたらしいです。会社の業種も多岐にわたり、ゲーム会社、システム開発、学習塾、飲食店などを経営していました。
私の名は、アントワーヌ。ソロモンと呼ばれる異世界に異世界転生し、今は、領主として過ごしている。私は、この異世界に来る前、徴税人と呼ばれる税金を徴収する仕事をしていた。それが原因で民衆から反感を買い、処刑されたのだが、皮肉にもその時のノウハウが、今では役に立っている。
しかし、ここ最近悩みも増えている。私の事をよく思わない人物が現れたのだ。それは、隣の領地を治める領主で、《クラン》と名乗る男だ。彼は、私の領地に冒険者を勝手に送り込み、破壊工作をしていた。
特に、最近整備したばかりの採掘場にモンスターがやたらと出現するようになっていた。そのため、町の町民たちは、採掘が出来ず、冒険者に採掘を依頼するようになった。しかし、その依頼先の冒険者達は、私の知らない非公認の冒険者ばかりだった。これには、私も頭を抱えるばかりであった。そんなある日の事だ。屋敷の使用人が、声を上げて私の元に飛んできたのだ。
「旦那様!! 例の採掘場の件なのですが、モンスターを放っていた犯人が居たようで、その犯人が逮捕されたと報告がありました!!」
「本当か!? その不届き者は、どこにいる!?」
「ええ。牢獄で取調べを受けていると思います」
「そうか! では、その不届き者から話を聞くとしよう」
「ご出立ですね。では、馬車を用意します」
「うむ。頼むぞ」
馬車を走らせること30分、町はずれにある牢獄に到着した。私は、そのまま牢獄で警備をしている兵士に案内され、牢屋で件の輩と対面した。その人物は、見るからに剣士の恰好をしている。おそらく、冒険者と呼ばれる職業の連中だ。彼は、この状況であるにもかかわらず、牢屋の中で足を組みながら偉そうにベッドの上に腰かけている。
「君かね、採掘場にゴブリンを召喚していたという不届き物は?」
私は、剣士にそう尋ねた。その男は、ヘラヘラとした態度で私に言った。
「そうですよ。悪徳貴族さん」
「ほう、ずいぶんと余裕のある態度ではないか。君は、冒険者なのだろう? こんなことが、明るみになったら、もう町では仕事もできないだろうに」
すると、その剣士はとんでもないことを口にする。
「それより、いいんですか? 俺をこのまま投獄させて!」
「どういうことだ?」
剣士は、不穏な笑みを浮かべている。私は、その笑みに嫌な直感がはたらいた。そしてそれは、的中することになる。
「領主様!! 大変です!!」
兵士が、私のもとに駆け寄り、一通の手紙を差し出してきた。その手紙の差出人は、隣の領地の領主だった。私は、その手紙を読み、立ち尽くした。その様子を見て、牢屋の中に居る剣士は言った。
「あれ? どうしたんですか~領主さ~ん」
「貴様……クランに雇われた冒険者か!?」
「そういう事なんで、ここから出してくれません? もう、この町で十分稼がせてもらったし、ひとまずは、出ていきますから。それで勘弁してくださいよ~」
「…………………………………………」
私は、怒りのあまりに、手紙を握りつぶしながら震えていた。
それから、数時間して私は屋敷へと戻った。使用人が私に話しかけた。
「おかえりなさいませ。いかがでしたか、逮捕された不届き者は?」
「………………ああ。釈放したよ」
私は、やる気のない声で言った。使用人は飛ぶように驚き質問する。
「どうしてですか!? 採掘場を散々荒らされたというのに!?」
「領主クランから、釈放するように言われたんだ。条件を飲まなければ、クラン領とのすべての交易を中止すると……。そんなことをされては、資源の少ないこの領地では、ほとんどの者が生活に困窮してしまう……。それだけは、避けなくては……」
「じゃぁ、今回の一件もクランの嫌がらせだということですか?」
「ああ、本当にいいようにやられてしまっているな……クソッ!!!」
私は、悔しさと虚しさで胸がいっぱいになった。自然と目線も下向きになってしまう。そのときだった。私は、使用人の右手に手紙が握られていることに気が付いた。私は、使用人に尋ねる。
「その手紙は何だ?」
使用人は手紙を私に手渡しながら私に言った。
「はい。例の採掘場の一件を解決した者からの手紙だそうです」
「なんだと!? それは本当か?」
私は、急いでその手紙の内容を確認した。その手紙には、採掘場の一件について、何があったのかが事細かく書かれており、最後にはこのような一文が書かれていた。
――領主アントワーヌ様。私は、あなたがどんな人間なのかを知っています。だからこそ、私はあなたの力になれると信じています――
バフェットと名乗る男の手紙を読んだ直後、私は使用人に言った。
「私は、この男に会いに行く。すまないが、急いで馬車の準備をしてくれ」
「え……はい……分かりました」
私は、急いで馬車に乗り、バフェットと名乗る男が居るであろうクラン領に向かった。急いで彼に会わなくてはならない。採掘場の犯人であった例の剣士は、釈放させてしまった。バフェットと名乗る男の言っていることが本当であるならば、例の剣士は、バフェットに復讐するに違いない。そうなる前に、出来ることなら彼を保護したい。そう願いながら、その手紙に書かれている冒険者の宿へと向かった。
しかし……遅かったようだ。
バフェットと名乗る男が身を寄せている宿で話を聞くと、町の牢獄に収監されてしまったとのことだ。しかし、こんなところで諦めるつもりは、毛頭なかった。私は、周辺の牢獄を片っ端から調べまわり、彼を見つけ面会することとなった。
牢獄の兵士に案内され取調室に入ると、そこには小柄な青年が静かに座っていた。この青年が私に手紙に送ったバフェットという男だというのか? 私は、目の前の青年に声をかける。
「君がバフェット君かい? 私は……」
私が、名乗ろうとしたその時だった。その青年が突然口を開いた。
「あなたが、アントワーヌさんですか?」
私は、驚きを隠せなかった。なぜ、出会ったこともないこの青年は、私の顔を知っているのだろうか? 私は、彼に質問する。
「なぜ、君は私のことを知っているのかね?」
その青年は、答えた。
「あなたは、現実世界で有名人ですからね。今の様子で分かりました。アントワーヌさん。あなたは、もしかして私と同じでこの世界に連れてこられた人間なのではないですか?」
彼の返答で、納得がいった。なるほど、私と同じ世界から転移してきた者なのか。私は、彼にさらに質問を続ける。
「そうか……君も私と同じか……。それで、君は元の世界では、何をやっていた人間なのかね?」
「そうですね、その説明は難しいです。なにせ、私は、あなたが生きていた時代の200年先の未来から来たのですから」
「21世紀といったところか? そんな未来の人間がどうして私のことを知っているのかね?」
「それは、あなたが科学の根底を作り出した偉大な人物に他ならないからです」
この男は、私が前の世界で何をしていたのかを知っているとでもいうのか? 確かに私は、徴税人をする傍ら、化学の研究をしていた。その功績は、周囲からも評価されていたのだが、まさか200年先の人間がそのことを知っているなど……さすがにありえない。私は、そう思った。しかし、その青年の次の一言で私は、考えを改めることになった。
「あなたの本当の名前は、《アントワーヌ・ラボアジエ》。徴税人としての仕事をしながら化学の研究を行い、〝質量保存の法則〟を発見した。間違いありませんよね?」
「な……なぜそれを?」
「あなたの発見した法則は、私の時代の科学を支える重要な理論として役立っています。私の国では、すべての国民が、質量保存の法則を学校で学ぶんです。それほど、あなたの功績は偉大なんですよ」
「私の発見が……そんなことになっていたのか……」
私は、思わず涙を流してしまった。私の研究していた内容が、数百年の時を経て受け継がれているなんて……。その時の私の心境は、自身の発見が何年にもわたって評価されていることへの鋭い喜びと、その後の科学がどのように発展していったのかという好奇心でいっぱいだった。もっと、この青年から話を聞いてみたい。なんとしても、この青年を助け出さなくてはならない。私は、話を本題に戻すため、彼に質問した。
「それで、バフェット君。なぜ君は、私に手紙を送ったのかね?」
青年は答えた。
「はい。私は、この世界の謎を解き明かしたいと思っています。そのためには、あなたの力が必要です。もちろん、見返りは用意します」
「ほう……それで、どんな見返りなのかね?」
「あなたが質量保存の法則を発見した後、どのような法則が発見されたのかをお教えします。」
「なるほど……それは興味深い。いいだろう! その話乗ろうではないか。それで、これから私は、何をすればいい?」
「私は、これから領主クランの奴隷として連れていかれるでしょう。なんとか、それを阻止していただきたい。つまり……私を、奴隷として買い取ってください」
「なるほど……お安い御用だ。明日、さっそくクランの所へ行こうではないか」
これが、私とバフェット君との出会いだ。そして、それは領主クランとの闘いの始まりでもあったのだ。
次の日、私はクランの屋敷に訪れた。何か難癖をつけられるのではないかとも思ったが、そんなことは特になくあっさりと通してくれた。私自身、彼の屋敷を訪ねるのは、初めてのことだ。屋敷の広さもそうだが、内装も私の屋敷とは比べ物にならないほど豪華なものだった。長い廊下を歩かされ、その一番奥の部屋に案内された。私が、その部屋に入ると、目の前に豪華な装飾が広がり、その中心には、これまた豪華な椅子がひとつだけ置かれていた。その椅子には、ひとりの男がだらしなく座っていた。私は、その男に声をかけた。
「ご無沙汰しております。領主クラン殿」
「田舎町から遥々よく来たな。ご苦労だった」
クランは、私を小馬鹿にするような顔でそう言った。彼と話すだけで虫唾が走って仕方がない。私は、世間話をすることなく、単刀直入に質問した。
「クラン殿、私の領地内での採掘場での事件は、ご存知でしょう? なぜ、採掘場を荒らした犯人を釈放するように嘆願したのですか?」
「それは、彼が無実だからさ。なので、こちらで真犯人を逮捕させてもらったよ。」
クランは、そう言った。なんてふざけたことを言う奴なのだろうか! 私は、そんな気持ちを飲み込みながら、さらに質問を続けた。
「その真犯人というのが、貴方方が逮捕したと言うバフェットと名乗る男ということですか?」
クランはニヤリと笑いながら口を開く。
「その通りだ。君の領地の揉め事を、こちらで解決してやったのだ。少しは感謝して欲しいね!」
私は、湧き上がる怒りを殺して淡々と話を進める。
「それで……今回はその件でお願いがあります。その、バフェットと名乗る男の身柄を私に引き取らせてはもらえないだろうか?」
ここからが正念場だ。クランが素直にバフェット君を渡してくれるとは考えにくい。そう思っていたのだが……
「ああ。いいだろう。ウチの屋敷で奴隷にしてやろうと思ったが、その権利譲ってやるのもやぶさかではない」
「そうですか。感謝します。それで、いくらですか?」
「そうだな……金貨20枚頂こう」
「そうですか。それでは、彼は頂きますよ」
私はそう言って、クランに金貨20枚を渡し、その場を立ち去ろうとした。その時だった。クランは、私に言った。
「そうだ、アントワーヌ君。一つ教えてやろう」
私が振り向くと、クランは金貨を私の方に見せながら言った。
「金貨や銀貨というのはね、買い物をするためのものじゃ無く、権力の見せつけるためのものなのだよ。選ばれた者がそれを手にする資格がある。アントワーヌ君、君は自分の領地で金貨や銀貨を汚くて愚かな庶民どもにまで流通させているそうじゃないか? ましてや、銀貨にそっくりな銅貨なんて物も作り流通させているそうじゃないか……
穢すのも大概にしたまえ!!!」
私は、何も言わずに屋敷を後にした。
次の日、私はバフェット君を連れ出し馬車に乗せた。その馬車の中で、私はバフェット君に言った。
「これから君の身柄は、私の方で預かる。しばらくは、私の屋敷で身を潜めるといい」
「感謝します」
「それにしても、クランの奴は、なぜ君のことをあっさりと渡してくれたのだろうか? 不気味で仕方がない。」
「理由は簡単ですよ。彼は始めから、僕をあなたのところへ送り込むつもりでしたから」
「どういうことだ?」
「僕は、クランからあなたの街の情報を盗むように命令されているんです。スパイってやつですね。」
「な……なんだと!?」
「安心してください。その気は全くありません。むしろ逆です。クラン領の情報をあなたに提供するつもりですよ。二重スパイってやつです」
「そ……そうか。なら構わないが……君は、大丈夫なのかね?」
「昔、実は、産業スパイという仕事をした事がありまして……この手の仕事には多少の経験があります」
「……君は一体何者なのだ!!?」
「とにかく、これからよろしくお願いします」
「うむ……よろしく頼むよ。ああ……そうだ、忘れていた。君を買い取るのに金貨を20枚使ってしまったのだが、これは君に奴隷として働いて返してもらうよ。」
バフェット君は、ボソッと言った。
「うわ……変に几帳面なのも逸話通りなのか……」
「聞こえているぞ!!! というか、私が几帳面なことも歴史として残っているのかね!!?」
「え? 自覚あったんですか?」
「……死にたい…………」
「もう、一度死んでるじゃないですか」
【バフェット君の経済状況】
1、所持品
なし(逮捕されたため完全リセット)
2、現金
なし(逮捕されたため完全リセット)
3、借金
金貨20枚:500万円分
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