10話 どうして逮捕されるんですか?
この世界での法律の構造
法律には、構造というものが存在します。例えば日本だと、1番の根本に日本国憲法があり、それを元に刑法や民法、教育基本法などのさまざまな法律が存在します。さらに、教育基本法を元にして定められた学校教育法、さらに学校教育法を元にして学校教育法施工規則などが定められています。このように、法律には階層構造が存在します。
一方で、ソロモンの世界では、
教会令→王の勅令→領令
という階層構造が存在しています。
私たちの住んでいる町を目指して3日が経ちました。ようやく、懐かしの町が見えてきます。早く、宿のご飯を食べて布団で眠りたい(>_<)! 私の足取りは徐々に早くなっていきました。ですが、町の近くでバフェットさんは、私を引き留めて言いました。
「ミカ……お願いがあるんだ……」
「なんですか?」
「僕の荷物を預かって欲しいんだ」
バフェットさんの突然のお願いに、私は混乱しっぱなしです。理由が全く分からないからです。私は、バフェットさんに質問します。
「どうして、私が荷物を預かる必要があるんですか?」
バフェットさんは、私に荷物を預ける理由を話してくれました。そして、今後起こるであろう出来事もすべて……。私は、町の外から様子を見守るように言われました。
町の入り口にバフェットさんがたどり着くと、一斉に兵士たちに囲まれてしまいました。そして、その兵士の陰から一人の冒険者が姿を現しました。
「よぉ、社長さん!! 残念だったな! あんたのことは調べがついてる!!」
その冒険者とは、採掘場で戦った剣士でした。逮捕されたんじゃなかったの!? バフェットさんは、剣士に言います。
「3日ぶりだね。それで、何の用かな?」
「もちろん、あんたを※領令違反で逮捕するためだよ!!」
※ 領地内で行われた犯罪行為のこと
バフェットさんが逮捕!? どういうことなのでしょうか? それにしても、動揺している私とは対照的にバフェットさんは、あまりにも冷静です。バフェットさんは剣士に質問しました。
「もちろん、違反内容を説明してくれるんだろ?」
すると、剣士は嫌な笑みを浮かべ、バフェットさんに言いました。
「クラン領、領令3条『領家および領主と提携する機関および組織の利権侵害』に基づきバフェット、あんたを逮捕する」
全くわけがわかりません。私たちは、隣の領であるアントワーヌ領の採掘場で彼らを懲らしめたはずです。それなのに、どうしてアントワーヌ領の領令ではなく、クラン領の領令が適用されるのでしょうか? それに、『領家および領主と提携する機関および組織の利権侵害』ってよくわかりません。一方でバフェットさんは、抵抗することなくお縄につきました。剣士が品のない笑い声をあげながらバフェットさんに罵倒します。
「ギャハハハハハハ! ざまぁみやがれ、社長さんよぉ!! どうせ現実世界でも、社畜から搾取とかしてたんだろ!! 調子に乗りすぎなんだよ、バァァァァァカ!!!!」
私は、怒りで今にも飛び出して殴りかかろうかと思いました。でも、バフェットさんに動かないように言われています。一方のバフェットさんは、いたって冷静で、その剣士にさらに質問をぶつけます。
「搾取か……君から見たらそうなのかもね。だが、そこまで考え方が極端だといつか損するよ。というか、現実世界でそういう目にすでに遭っているんじゃないかな?」
「…………………………………………うるせぇよ。お前みたいな強者には、一生わからないだろうな。どうせ、大学受験も上手くいって、いい大学を出て何にも苦労してないんだろ!! でも関係ねぇ!! この世界での強者は、この俺だ!! さぁ、連れていけ!!」
バフェットさんは、そのまま馬車に乗せられ連れていかれました。私は、その馬車をこっそり追いかけます。これもバフェットさんから頼まれていた事でした。追いかけている間、悔しさと悲しさで涙がとまりません。私は、溢れそうになる声を必死で押し殺しながら、バフェットさんが投獄されている牢獄を突き止めました。
バフェットさんが収監されている牢屋は、独房のようで手の届かない位置に鉄格子付きの小窓が一つだけあります。その日の夜、私は、外壁をよじ登り、小窓にしがみついて声をかけました。
「バフェットさん! 大丈夫ですか?」
すると、バフェットさんは言いました。
「大丈夫だよ。というか、外壁をどうやってよじ登ったの? 足をかける部分ないよね!?」
「《ダークネイル》で自分の爪を強化して、その爪をうまくひっかけながらよじ登りました。」
「ちょっとその絵図おもしろいね。外から見てみたいな」
「もう! そんなこと言ってる場合ですか。というか動揺していないんですか!?」
「人生には、3つのTがつく災難があるんだ。“大病・倒産・逮捕”の3つだね、今回の一件で、3つすべてコンプリートできたよ……ハハ…………貴重な経験だ……………」
めちゃくちゃ動揺してるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!
「それで、バフェットさん。どうやって脱獄するんですか? もちろん逃げるんですよね?」
「そんなつもりは、全くないよ。そもそも、逃げ切れないだろうし」
「それじゃぁ、どうするんですか!!」
「大丈夫、こうなることも考えて手は打っておいたから」
「いつ、そんな時間あったんですか?」
「そもそもね、始めから自首するつもりだったんだよ。冒険者の宿の経営者を敵に回した時点でね」
「どういうことですか?」
「考えてごらんよ。ミカは、冒険者の宿で毎日依頼をこなしていたでしょ? 僕たちの宿に登録されている冒険者は15人、その人たちがミカと同じように依頼をこなしているから、単純計算で一日に15件の依頼をさばいていることになる。ということは、冒険者の宿の収益ってとんでもない額になるでしょ?
それだけ、収益が出ると当然領主に高額の税を納めるよね? それに、冒険者たちがたくさんいるんだ。領主が、戦闘要員として利用することもあるかもしれない。冒険者の宿が領主や領家とズブズブの関係になることは、簡単に想像できたよ。きっとあの剣士、採掘場で一応逮捕はされたけど、すぐに釈放されて、先回りをしたんじゃないかな。
ただ、唯一誤算だったのは、あの剣士が癒着していた領主がアントワーヌじゃなくて、まさか自分たちの住んでいる領地の領主であるクランだったなんてね。これは、想定外だったよ」
「う~~~。……とりあえず、領主を敵に回したってことは、わかりましたけど……。そこまでわかっていたのなら、採掘場の一件、手を引けばよかったじゃないですか~。」
「せっかくの機会だと思ってね。あえて逮捕されてアントワーヌ領主に接触しようと思ったんだよね。だから、採掘場に行く前に、アントワーヌ領主に通報してもらうよう商人さんに頼んでおいたんだ」
「バフェットさん、なに考えているんですか!? アントワーヌって、みんなから税金をむさぼる悪徳貴族じゃないですか!!」
「……………僕は、そう思わない。彼の町に行ってそう確信したよ。確かに、みんなが税金を納めなくてはいけない。でも、銅貨を流通させ町は、活気づいていた。通行税も良心的な値段設定だった。採掘場は、明らかにお金をかけて整備されていた。一方で、僕たちの住んでいたクラン領はどうだったかな?」
「それは……」
「そもそも、アントワーヌって名前でひっかかったんだ……。」
「どういうことですか? バフェットさんは、何か知っているんですか?」
「まあね。とりあえず、明日も取り調べがあるから、そろそろ寝るね。それからミカ、今日の取り調べで分かったんだけど、ミカは罪に問われないらしいから、とりあえず宿に戻って大丈夫だよ。何かあったら連絡するよ。」
「わかりました。信じて待ってますから!!」
バフェットさんの言った通り、私が冒険者の宿に戻っても、特に問題は起こりませんでした。
それから、数日の時が経ちました。私は、また一人で依頼をこなす日々に逆戻りしていました。
「ミカちゃん、今日もお疲れ様。晩御飯用意してあるから食べな。」
「…………はい」
バフェットさんが居なくなった日々は、やっぱりさみしいです。私は、ゆっくりと席に着き、静かにご飯を食べます。今日のご飯はカレーです。夏野菜がたくさん入った私の大好きなカレーです。それなのに……なんでこんなに楽しくないんでしょう……。今日は、デザートにパウンドケーキもついてきました。私は食後に、パウンドケーキをもしゃもしゃと食べます。それは、甘くて……懐かしくて………………………………………
「……うっ。うぐぅぅ………………………………………」
どうしても、涙が止まりませんでした。そんな私に、一人の冒険者が話しかけてきました。
「あなたがミカさんですか?」
「はい……そうですけど……」
その冒険者さんとは、一切面識がありません。この人は誰なんでしょう。その冒険者さんは、一通の手紙を私の目の前に置き言いました。
「私は、あなたにこの手紙を渡すよう、依頼を受けたものです。これが、その手紙になりますので。それじゃ、私は帰りますね」
私は、冒険者さんが去った後に、その手紙を読み始めました。差出人は……
バフェットさん!!!?
私は、その手紙を読んだ後、水を得た魚のように勢いよく立ち上がり、宿の主人さんに言いました。
「あの!しばらく、お出かけしてもいいですか!?」
すると、宿の主人さんは、優しい笑顔で言いました。
「いいよ、行っておいで」
私は、その言葉を聞くと、階段を勢いよく駆け上がり荷物を準備します。そして、その日のうちに、町を出発したのでした。
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
なし(逮捕されたため完全リセット)
2、現金
なし(逮捕されたため完全リセット)
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