1話 何で投資家を目指すんですか?
「僕は、戦闘が出来ない。だから、ひとまず投資家を目指そうと思うんだよね」
「え!?投資家!?」
バフェットさんは、私に異世界で投資家を目指すと突然言い放ちました。私が彼と出会ったのは数時間前の出来事です。事の始まりは、前日にさかのぼります。
「ふい~~。今日のお仕事、おっしまーい」
私は、額の汗をぬぐいながら、戦利品をリュックに詰めて、意気揚々と町に戻りました。ここは、《ソロモン》と呼ばれる異世界。私の名前はミカ、数年前にこの世界にやってきました。その理由は、見当がついています。私は、元の世界で、ソロモンというネットゲームをやっていました。きっと、ソロモンのプレイヤーが無作為に選ばれて、ゲームの世界に転移させられたんだと思います。
私以外にも、転移されたプレイヤーがたくさんいるのです。噂によると1000人くらいこの世界に送り込まれたらしいです。誰か一人でも、この世界の脅威から世界を守れた場合は、全員が元の世界に帰れるんだって。でも、この世界に来て数年たつけど、そんなニュースを聞かないな。私は、そんなことを考えながら、森を抜けだし、お世話になっている冒険者の宿に向かいました。
「ただいま戻りました~。依頼通り、果樹園に住み着いたスライムを駆除してきました」
「ああ、ミカちゃんお疲れ様。報酬でたくさんジャガイモもらったからね。今日は、晩御飯にフライドポテトもつけちゃう!」
「え!本当ですか~!?やった~!!」
この世界には、お金という概念がありません。銀貨や金貨は存在するけれど、一部の貴族だけが所持していて、みんなそんなものを使っていないのです。だから、小麦粉を中心とした物々交換が主流になっています。この、冒険者の宿は、町の人からの依頼を受けて、冒険者に様々な依頼を紹介してくれます。依頼が完了すると、冒険者の宿に、依頼主が食料品など(特に小麦が中心)を受け取ります。冒険者の宿は、冒険者への報酬として、食事と宿泊部屋を提供してくれます。
私は、弱いモンスターを討伐する、簡単な依頼を何年もこなしています。報酬は大したことないけれど、ご飯も食べれるし、ゆっくり眠れるし、それなりにこのスローライフを満喫していのです。今日も私は、食事を摂った後に、ベッドに潜ります。
明日も、のんびり幸せな一日になりますように……。
………………………………って
ちがぁぁぁぁぁぁぁぁう!!!!!!!!
私は、この世界を救うために転移してきた一人のはずなのです! それなのに、数年間やってきたことと言えば……。雑魚モンスターを狩り続けたり、素材を集めたり、そんな毎日……。レベルを上げるために、この下積み生活をしてきたというのに……一向に強くなっている気がしません。
「久しぶりに使うか……」
ベッドから起き上がった私は、机の中から水晶玉を取り出し、机の上に置き、念じました。すると、水晶玉が光を放ち、私に話しかけてきます。
「神様コールを使いますか?」
私は、「お願いします!!」と即答。
すると、水晶玉が光がより一層強くなり、私の視界は真っ白になります。私は、静かに目を閉じました。
しばらくして、目を開けると、目の前には和服を着た女性が真っ白な空間で浮かんでいます。私の目の前にいるこの女性は、私をこの世界に送り込んだ神様その人なのです。私には、他のプレイヤーが所持していないチートアイテムがあります。それが先ほどのチートアイテムで、神様コールと呼ばれるものです。 一度使うと、しばらく使えなくなるのが弱点ですが、神様に相談ができる便利な代物なのです。私は、その和服の女性に自分の苦悩を訴えました。
「神様~。聞いてください!全然レベルが上がりません!」
一方の神様は、無表情で無機質に答えました。
「弱いモンスターを倒しても経験値は1しかもらえないですからね」
「それじゃぁ、いつになっても話が進まないじゃないですか!!」
「そうですね。そうなりますね」
神様は、関心なさそうにそう答えました。
「いやいや!そうなりますねじゃないですよ!!どうにかしてください!!」
「う~~ん」
神様は、腕を組んでしばらく考えてから、私に提案してきました。
「じつは、先ほど新しく転移させた人が居るんですけど、その人バグってて戦えないんです。その人を守りながら、モンスターを倒したら、経験値2倍にしてあげましょう。これでどうですか?」
戦えない?どういうこと?ともかく、経験値2倍はおいしいのではないか? 私は、その条件を飲むことにしました。
「わかりました。それでいいでしょう。」
「そのプレイヤーは、町の近くの森に転送しました。明日の朝には転送が完了して目を覚ますと思います。行ってみてください。ちなみに3類の方ですので、この世界のこと、きちんと説明してあげてくださいね。」
「わかりました。」
そうして私は、神様コールを切断しました。
次の日の朝、私は神様のお告げ通り、意気揚々と近くの森へと向かいました。すると、お告げ通り一人の男の子が横たわっています。 外見は、高校生くらいですが……この世界に転移する際に、元の世界と容姿が変わることがほとんどなので、本当は何歳なのかはわかりません。
私は、彼に近づき姿を眺めてみました。着ている洋服は、初期装備のもので、彼の横たわっているすぐ隣には、現実世界で使っていたであろうカバンが無造作に置かれています。
しばらく、彼を観察していると、彼はゆっくりと体を起こしました。そこで、私はすかさず声をかけました。
「あ!やっと目を覚ましたんですね」
彼は、私の方を振り向き、私に質問してきた。
「君は……何者だい?」
異世界に来たばかりで戸惑っている彼に、私は丁寧に自己紹介します。
「私は、ミカっていいます。もちろんプレイヤー名ですけど。神様から、あなたがここに転送されるって連絡があったので駆けつけました」
彼は、さらに質問を重ねます。
「神様?」
「あなたも見たでしょう? 和服を着た、無表情の神様を」
「ええ……まぁ……。(くっそーやっぱり夢じゃない!! いよいよ異世界に転送されてしまったのか!?)ところで、あなたも異世界に転移させられたのですか?」
「はい、そんなところです。この世界には、1000人近くが転送されているみたいですよ。」
彼は、「そうか……」とつぶやき、現状を受け入れたようです。
「そんなに、巻き込まれているのか……。ところで……。」
すると突然、彼は疑いを持った表情で私に質問してきました。
「君は、なぜ僕の所に駆け付けたんだい?」
「もちろん、君とパーティーを組んで冒険するためですよ!!」
「どうして僕なんかとパーティーを組むんだい?神様から聞いていないの?」
「もちろん、神様から。あなたのステータスがバグっていて戦えないことは、聞いていますよ。私は、戦闘ができますけど、一向にレベルが上がらなくて……。それを神様に相談したら、いい条件を持ちかけてくれたんです。」
「いい条件?」
「あなたを守りながら、敵を倒したら、得られる経験値を2倍にしてくれるんだって! 私、ゲーム苦手だから困ってたんです」
「なるほど……あの神様も僕一人では、哀れだと思ったのかな。とにかく、そう言う事情なら助かるよ」
「決まりだね!じゃぁ、一緒にパーティーを組みましょう! 早速、ダンジョンにGOです!!」
私は、さっそく彼をダンジョンに案内しようと声をかけた。経験値2倍ボーナスを早く試してみたい。その気持ちでいっぱいでした。
しかし……
「ちょっと待った!!!」
彼は、私の手をつかみ動きを止めた。私は、彼に言いました。
「どうしたんですか?私が守るから大丈夫ですよ?」
「そうじゃないんだ。まずは、この世界の情報が知りたいんだ。町に案内してくれるかい?」
確かに、いきなりダンジョンに連れて行くのもちょっとかわいそうです。今日のところは、町を案内してあげよう。私は、彼に言いました。
「それもそうですね。町は、ここから一時間くらい歩いたところにあります。さっそく行きましょう!」
私は、彼を連れて町へと向かいました。その道中で私は、この世界のことについて、いろいろと説明します。
まず、1つ目は、全員元の世界に居た頃の容姿とは、別の容姿になっていること。2つ目に、誰かがゲームクリアすれば、全員が元の世界に戻れるということ。3つ目に、この世界に来た異世界の者たちは、その状況に合わせて1類から3類に区分されるらしいということ。
1類は、異世界転生をした者たち。すでに前世で死亡し、この世界に転生をした者たちのことだ。
2類は、ソロモンのゲームプレイヤーたち。つまり、現実世界でソロモンをプレイしそのアカウントを持つ者。そして、どちらにもあてはまらない特別枠である3類。神様が言うには、彼は、3類に分類される……はずです。
2類のものは、現実世界のアカウントのデータが引き継がれており、その点が優遇されています。そのため、1・3類の者たちには、何かしらの特典が付きます。
彼の場合は、転移時に持っていた手荷物が、そのまま持ち込めることが特典だったようです。彼は、私の話を聞きながら、見たことない植物や動物などを見ながら目を輝かせていました。その無邪気な姿に、こっちもホッコリします。町に着いたときには、彼の目の輝きは最も強いものになりました。それは、小説やアニメ、ゲームの世界で描かれるファンタジーな街並みそのものだったからです。確かに、私も初めてこの町に来たときは、感動したと思います。装備屋や宿屋、教会、ギルドなど様々な建物を見ながら、街中を歩いて回わりました。
最後に、私は冒険者の宿に彼を連れて行きます。
「ここが、冒険者の宿だよ。みんなここに登録をしてクエスト(住民からの依頼)をこなすと報酬がもらえるんだよ」
「報酬? この世界には、金銭がなかった気がするけど」
「報酬はね。ご飯と寝る場所をくれることだよ」
私が笑顔で彼に説明すると、彼は顔をしかめて言った。
「……ひどい搾取だ」
搾取? 何を言っているんだろう。私は、ともかく話を進めた。
「とにかく、登録しちゃいなよ。このままだと餓死しちゃいますし」
「しかたないか。よし、登録するとしよう」
彼は、そう言ってカウンターで登録の手続きを済ませます。そして、なにやら宿の主人と交渉をしているようでした。私はその様子を不思議に思いながらも、彼の様子を終始見守ります。交渉が終わり、私の元に彼が戻ると、自分の部屋に彼を案内しました。
「町の案内は、こんなところだよ。どうだった? この世界は?」
「そうだね。とても面白そうだよ」
彼は、さっきとは違い笑顔だった。私も笑顔で彼に言いました。
「それじゃぁ、明日から。ダンジョンに潜りましょう!」
「そうだね。明日からよろしくたのむよ。でもね……」
「でも?」
私は首をかしげる。何を考えているんだろう?彼は、「でもね」の続きを話し始めた。
「僕はね、正攻法でクリアするつもりはないんだよ」
「え!? どういうことですか!?」
私は、わかりやすいくらいに慌てた様子でつい言ってしまった。彼は、冷静に話をつづけた。
「君の話から、察するにこの世界に転移して何年も経過している人もたくさんいるんでしょ?」
「うん。でも、レベルを上げていけば絶対クリアできますって。なんてったって、私は取得経験値2倍ですよ!!」
すると、彼は右手の人差し指で自分の右こめかみを触りながらこう言いました。
「僕は、そう思わない!」
「な!?」
私は思わずひるみました。彼は、話を続けます。
「何年も経過しているのに、誰一人この世界を攻略できていない。そうだよね、誰かが攻略したら、全員が解放されるんでしょ?」
「確かに、誰かひとりクリアできたら全員解放されるはずなのに……」
「何年もやりこんでクリアできないのに、正攻法でクリアしようなんて無理なんだよ。それに、僕は戦えないから、どこかで無理が生じるだろうしね」
「じゃぁ、どうするの?」
「うん。投資家を目指す!」
「え!? 投資家!? この世界で!?」
「そうだよ。もし君がよかったら、手伝ってくれないかな?」
「う~ん。」
私は、腕を組みながら、しばらく考えました。でも、最終的には、彼の意見に賛同することにしました。
「わかった。いいよ。それはそれで面白そうだし!ところで……あなたのことは何て呼べばいいかな?」
「そうだな……」
「神様から言われたんだ、現実世界の名前は、バグっているため使えないって。もしかしたら、自分の名前をもじった名前を名乗ってしまっても、バグってしまうかもしれない。ここは、自分の本名とは、関係のない名前を名乗った方が良さそうだな」
彼は、ぶつぶつ言いながら自分の名前を考えていた。そして、彼が思いついた名前が……
「バフェット……そうだな、バフェットにしよう」
バフェット?え?なんで?私は思わず質問してしまった。
「バフェット?どこからその名前が出てきたの?」
私の質問に彼は即答する。
「有名な投資家の名前だよ。知らないの?」
「ワタシコウコウセイダカラワカラナイ」
「………………高校生だったんだ。でも一応バフェットくらいは知っておいた方がいいよ」
「まぁ、いいや!これからよろしくおねがいしますバフェットさん!」
「ああ。よろしくね、ミカ!」
これが、私とバフェットさんとの出会いです。
後で聞いた話だけど、バフェットは現実世界で有名な投資家の名前なんだそうです。この名前で活動をしていれば、経済や経営の知識をもつ、転移や転生をした者たちともコンタクトが取れるかもしれない。それが、彼がバフェットと名乗った真のねらいみたいです。
かくして、戦闘能力皆無のバフェットさんとの生活が始まったのです。
【バフェットさんの経済状況】
1、所持品
・転生時に持っていた高級カバン(異世界では役にたたず) : 小麦粉1ポンド分の価値
・名刺入れと名刺: いまのところ価値なし
・ボールペン: いまのところ価値なし
・スマートフォン: いまのところ価値なし
・メモ帳 : 紙15枚分
日本円換算 約38000円
2、損益計算(1ヶ月換算)
収入
給与:その日の生活費80000円
支出
冒険者の宿との契約:その日の生活費80000円
合計
0円
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