辻褄の合わない話ばかり
お読み頂き有り難う御座います。
取り敢えずこの面子では直しようがないお墓から帰宅するチャミラ達です。
「と、取り敢えずこんな墓地も何だし……」
「はっ、そうですわね。此方、宿屋さんは無いのでしょうか?」
あ、そういやそうか。もう日暮れ……雨降りだから日は無いけど、遅いもんね。お墓は……明日に村の人達に事情を話して直すの手伝って貰おう。ごめんねお母さん。
「……無いなあ。ウチに来る?」
「え、王女様のお宅に!?」
「そ、その呼び方止めて貰えないかなあ……」
誰が聞いてるやら分からないし、普通に恥ずかしい……。
お母さんはよく「私のお姫様!!」とか言われてたけど……よく平然と出来てたよね……。
「お母さんのベッドで良ければ、寝ていいよ」
「有難いですけれど……」
「いいよ、あなたみたいな綺麗な子、こんな墓地に放置できないし」
「お優しいんですね……。益々王位に相応しい王女様だと確信致しましたわ」
「……この子、物凄く思い込み強いな。チャミラ」
「う、うーん……」
物言いたげなギリアムの視線が痛いなあ……。取り敢えず、家に案内しよう。
「そういやキャリエルって、バッサバサの……キャリエル伯爵家と何か関係ある?」
「はぅ!?か、関係!?有るに決まってますわ!!わたくし、其処の……あ」
「?」
す、凄く焦ってるな……。田舎の道はあんまり慌てると滑るよ……。
「……ええと、も、黙秘致しますわ。ポロポロとプライベートを話すのは淑女らしからぬ振る舞いですもの」
「あ、そうなんだ……」
「いや、目茶苦茶チャミラのプライベートに踏み込んでおいてそりゃないだろ……」
「……そ、それもそうですわね」
え、弱いな。いいの?私のプライベートったって、変なお姫様疑惑とお母さんの地毛と、私が髪と毛皮を染色したかとかしか……あ、結構聞かれてるか。
「わたくし、キャリエル伯爵家の総領娘ですの。訳有って、シャーゴンのとある高貴で素敵で素晴らしい方にお世話になっております」
「……キャリエル伯爵家の、総領娘?え?失礼ながらあの老夫妻に他の卵を作る力が……?」
え、何だかギリアムが混乱してる……。
「老夫妻?貴方、人に見えますが両親をご存じですの?」
「ご存じも何も……」
「わたくし、卵の時に半ば強引に拐われましたから……両親の姿形は知りませんの」
卵?この子、獣人なんだ。……何の獣人なんだろ。
……あれ、何処かで聞いたような話……。
拐われた卵を、追いかけて……空から落ちてきた、ギリアム……。
「拐われ……?だ、誰に」
「?あ、悪しきエセテ公爵家ですわ!あっ、悪しきって言っちゃいましたわ!!」
え、駄目なの?こんな田舎で貴族の悪口言っても誰も気にしないけど。
「エセテ公爵!?……まさか、そんな、間に合わなかったってのか!?」
「???ですけど、貴方、わたくしのおうちの事をご存じだなんて。もう、50年も前の事ですのに」
私とギリアムはギョッとした。
50年!?
だって、私みたいに変な歳の数え方してないギリアムは、最初に会った時、お母さんに15歳だと名乗った。
50年前の話なんて、……知っている、筈がない年齢……。
「わたくしは孵化するのに35年程掛かったそうですから、お若く見える種族ですのね。……生きて会えないものと思っておりましたが、両親は元気でいるのでしょうか」
「え」
……更にショッキングな言葉が、シュラヴィさんの口から放たれた。ど、どういうこと!?
いや、別人、いや別の卵の話だよね?あんまり時間がどーの言わないルーズな村育ちでも、おかしいと分かるよ!!どう考えても、計算が、合わない!!
「……あの、ギリアムさんでした?何だかお顔の色が……あら?何処かで見た気配ですわね」
「そんな、馬鹿な。あの卵は、義父上じゃなくて、結局エセテ公爵家に奪われたって言うのか。じゃあ、義父上は……。何の為に……!?」
「ギ、ギリアム!!」
「そんな、俺は、まさか……越えたのか?越えて、此処に……」
いやどうしたって言うの!?何を!?……じ、尋常じゃない程ギリアムの目が虚ろに……。
「ぐ、具合でもお悪いの!?何だかわたくしに関わるエピソードをお持ちっぽいですけど……そもそも貴方は、一体何方なのです!」
「と、……取り敢えず、話は明日にしようか……」
ギリアムは黙ってしまって……。
ああ、やっと、灰色の煉瓦で補修されたパン屋……ウチが見えてきた……。
私の王女様疑惑だけでも精一杯なのに、何なのこれ。
お母さん……。
貴女も一体、誰だったの……。
ギリアムまで秘密が有ったみたいですね。