寂しさに浸る暇もない
お読み頂き有難うございます。
ギリアムとの出会いを思い出しているチャミラです。
「えっと、あの」
「あっ、ゴメン助けてくれて有り難う!でも、痛えええ!!あっ、俺の蒸気バイクは!?」
蒸気バイク、って確か、前に新聞で見たこと有る。
イキッた若い都会の人がそれで暴走行為をしてるのが問題になってるって、あれかな。
せいぜい三階建ての建物ぐらいしか浮いて走れないから、結構慎重に走らないと駄目なんだって……。
この近隣の山道は舗装もしてないし木も自然のまま伸び放題だから、ゆっくり走らせないと普通にぶつかって落ちる。
……コイツ、バカだ。
上を見ると、変に紫とか黒とかでデコったバイクのフレームらしきものが引っくり返って……1つだけの車輪みたいなのがカラカラと音を立てて回っている。
わー、哀れな迄にぶっ壊れてる。大変。
この顔のいいバカは、山道を走り抜けようとしたバカ……だったみたい。
「俺の天疾る闇黒流星号があああ!」
「アマカケルアンコクリュウセイ……?えっ、ダサ」
最悪なネーミングセンスを叫んだのが、このギリアム。
何処ぞのお偉いさんな感じらしくて、家名が長い。でも忘れたわ……。
「どうしよ!!潰れたら俺、帰れないじゃん!!」
「え、ええー?」
滅茶苦茶怪我してるギリアムを放っておく訳にもいかず……連れて帰ることになってしまった。
取り敢えず大破したバイクを持って帰るって聞かなかったけど、無理だし。そんな怪力無いし。
「チャミラ、その子はどうしたの?」
家に帰ったら、何時もは穏やかなお母さんが……滅茶苦茶怒ってた。
「そ、其処の山道で暴走して滑落してた。怪我、してたから」
「あら危ない。どうして連れてきたの?」
「えっと」
「知らない子を連れてきたらダメでしょ」
「す、すみません……」
あの時は超怒られたな……。
うう、懐かしい。
結局、ギリアムの面倒見てくれたけどさ。
あの、椅子に消毒液と塗り薬並べて……。
「父親の、いやその、親戚になる卵が拐われて……追いかけて来たんです」
「親戚になる卵って何……」
「まあ、貴方、見えないけれど獣人?そもそも卵って、親元にいるものなのに。あ、シチューが焦げそう」
結局夕飯の時間になって、親戚になる卵の話が強制終了したんだっけ……。
あの時のシチュー……若干焦げてたけど……。お母さん、パン以外の料理が上手じゃないから……。
あ、駄目だ。思い出しただけで鼻水が止まらない。
顔でも洗ってこよう。ついでに、埋まったばかりだけどお母さんのお墓の掃除も……。
バケツとタワシと……お花は後で良いか。
「ギリアムー、ちょっと井戸に行きがてらお母さんのお墓の掃除してくる……」
「いや今雨だぞ……汚れるか?会いたいんだろ?変な言い訳しなくていいよ。行ってこい」
……変な奴なんだけど、良い奴なんだよね。ギリアムって。
お母さんが亡くなって、バイクが直ったら……もう行っちゃうんだろうな。その、遠い自分の国へ……。
寂しい……。
「私の妻が亡くなったと!?」
「何を言ってるこの馬鹿者が!!俺の妻だ!!」
しんみりと母の墓参りに出向いたら……変に豪華な服の墓荒らしが2人も居るんだけど。
誰だよ。
よく見たら周りに沢山の人がいるなあ。
おい、余所の墓石をコカすな。お供え踏むな。祟られるから!!
警備騎士って、今日は隣村なんだよなあ。ふたつの村を兼任してるからさあ。……困ったわー。
明らかにやばい奴。
兎に角、足音を立てずに後ずさって……。
バキイ!!
何でこんな所にデカい枝が!?この前の嵐で落ちてきたの!?
「誰だ!?」
「ひっ!?」
茶髪の目茶苦茶ガタイと顔のいいオッサンが振り向いて、ワンテンポ遅れでヒョロいけど顔のいいオッサンがこっちを見た。
眼力強!
じゃなくて、……は、墓荒らしに殺される!?
お母さんのお墓に副葬品なんて入れてないのに!!
ひっ、まさか、あのオッサン達……!
もしかして死人しか愛せないタイプか、死人を食べたいタイプ!?
「まさか……君は俺の娘か!?」
「プリティアと……私の愛の結晶!?」
「初対面です!!」
こちとら、『プリティアちゃんは俺の嫁、だから君は俺の娘』疑惑を何十人とされてるからね。
自称父親をやりこめるお母さんは痛快だったな……。いやそんな場合じゃない!!
おまわりさんこっちですが出来ない田舎です。