母との思い出
お読み頂き有り難う御座います。
チャミラのお母さんのエピソードが続きますね。
私達親子のと言うか、母の異常なモテはさっきの異様な葬儀でもお分かり頂けると思うの。
まあ、綺麗というか、上品で可愛い顔はしてた。四十路なのに。
村でモテたのはさっき言ったけど、何年か前から隣街の地主のオッサンがこの前プロポーズに来てたなあ。
「えへっ、私、旦那様に愛を捧げてるので、お断りしまーす」
一般の四十路が顎の下にグーなポーズ込みで『えへっ!』なんて怖気が走るらしいけど、ウチの母の『男を追い返す決め台詞』なので最早慣れた。ドン引かせて追い払う為にやってたらしいけど、大概鼻の下伸ばしてるから逆効果だけどね。
て言うかお花を樽で持って来たの吃驚したよ。何処に置くんだ。
お家をお花で飾りたいってメルヘン思考?。忙しいパン屋が水やりに困るだろうって気が付かない訳?っていちゃもん付けたくなった……。
「いやいやプリティアちゃんってシングルだね?勿論チャミラちゃんも私の娘に」
「お断りでーす。年頃の娘がいるのに、殿方を家に上げられないもの!」
母は一見頭ふわふわユルユルな振る舞いだけど、その実目茶苦茶堅実な女だから。キッチリしてるんだから。
当時横で鼻垂らしてる私、チャミラは母を尊敬していたよ。未だにアレルギー体質なのかな。季節の変わり目には鼻水が止まらんのよね。
母がモテすぎたせいで、用もなくオッサンがウチに集る=ウザイでも怖いとは思ってたけどね。
変に拗れて村八分にされてなくて本当に良かった。これからも気を付けなきゃ。
「えっ、いや、その、プリティアちゃん考え直さない?ほら、支度金は一億」
「要りませーん!愛をお金で解決するタイプはお引き取りくださぁーい」
後で聞いたところによると、あのオッサンが持ってきたお花は上だけで樽にお金が詰まってたらしいよ。
何て所に隠してるんだ、賄賂か。ウチの母を収賄でしょっ引かせたいのか。
それからと言うものの……裏のオッサンが半年前に結婚したばっかりのお嫁さんと別れて再婚したいと持ちかけてきたり、離縁を迫られたお嫁さんを匿ってオッサンを蹴飛ばしたり、何故か遠くのお城から母への呼び出しが来たりと……騒がしい日々だったよ。
お母さんの異常なモテは嫌だったけど、お母さんは誰にも靡かなくて、私との生活をエンジョイしてた。
好きだったけど別れることになっちゃったお父さんを目茶苦茶愛してるらしい。
「チャミラのお父さんはね、頭ちょーいーんだよ!古いお話が大好き!」
お母さんの口調が若干幼いのは、昔にしゃきしゃき喋って酷い目に遭ったから、態とそうしてるんだって。
未だに理由がよく分からない。しゃきしゃきした方がいいのにね。
しかし、お父さんは頭がいいのか……。娘的には顔はカッコいいのか気になる所だ。
「顔は?どんなの?」
「お顔はねえ、眠そう!絵と壁が好き!後、チャミラの花粉のアレルギーとフサフサお耳とフサフサ尻尾はお父さん譲り!」
……狼獣人なのは分かったけどね。具体的にどんな人なんだろ。お母さんからお父さんの話を聞くと、変人としか思えなかった。絵は兎も角壁が好きって何やってた人なのかな。壁職人?
……耳と尻尾は兎も角、アレルギーは要らなかったな……。きっと死んじゃったか別れちゃったかで会えないから、文句言うことも出来ないけど。
でもそれが、日常だった。
お母さんは、毎日パンを焼き、私を愛し、無駄に言い寄るオッサンを蹴散らし、色気付いて寄り付く子供も笑顔で交わし、元気なお母さんらしく振る舞っていた。
急死なんてするような、そんな風には見えなかったのに。
チャミラのお母さんは、旦那さんを愛してたみたいですね。