断片の中で嗅ぎ取ったこと
お読み頂き有り難う御座います。
狼王子の兄弟喧嘩(口論)で御座いますね。
……狼の王子様達が言い争ってしまった。
私に与えられたことは、断片的で……所々分からない。
それにさっきからショックで、混乱して緊張して……頭が上手く働かない。
本当に、私の事なの?
「兄上、私は」
「ユーイン。私の地位を狙うのは良いが、宰相と組んで此処から追い出そうなんて考えていないだろうな?」
「……追い落とされるような後ろめたいものが有るのですか?大体、この前の夜会でも王太子妃ではなく、ネラ嬢をエスコートしていたと聞きました」
「仕方有るまい、妃は踊れないのだから。私が水槽の中で溺れて藻掻けばいいと?」
……す、水槽?え、えーと。デクスター王子様のお妃様は……水槽に住んでるの……?な、何でだろう。魚の獣人なのかな。鮭とか鱒とか。
生態系が違うお妃様との生活って大変そう……。
「……兄上こそ、最近はネラ嬢と随分距離が近しいのですね」
「はは、親戚ではないか」
……この前から、チラチラ出てくるなあ、ネラさん……。ジュランさんの、妹さん、だよね。
「それで?其処のチャミラ嬢を認知するのかな?可愛い弟よ」
「……腑抜けていた私に伝えられなかった事については、理解しています。ですが、……大事だった婚約者との娘です。あの時は本当に世間知らずで傲慢な子供で、苦しい思いをさせてしまいましたが」
「殊勝な事だなあ」
……そ、そんな嘲るような言い方。
ユーイン王子様は、震えているのに。それなのに、私を庇ってくれて……。
「ユーイン、贖罪は叶わないかもしれないぞ」
「……覚悟の上です。兄上。我らは……目を背けて来たことに向き合わないといけません。失ってからでは遅かったでしょう」
「……随分と、知った風に賢しげなことを。……チャミラ嬢とて、無欲でお前の元へ送られた訳でも有るまい。
さて、何を持ち掛けられた?」
……!?
わ、私!?……わ、私の、持ち掛けられたって……まさか、ジュランさんとの会話を知ってるってことなの?
こ、怖い。
何で知ってるの……。
まさか、ギリアムの事を……。
「……頼りないお父様の背中に隠れているか?それも良いが、共倒れしてしまうのではないかな。伯父の方が頼りになると思うがな」
「……兄上こそ、初対面に近い子供を上から脅すような口調は、お止めください。頼りになる伯父とやらで居たいので、有れば」
…………。
口が、ヒリヒリするくらい乾いてきた。
怖い。デクスター王子様は、怖い。
ユーイン王子様が、過去に何をしてきたかは断片的で……イマイチ分からないけど、とっても悔いてるのに……。
どうして兄弟なのに、そんな辛くて、嫌な言い方をするの……。
「デクスター殿下、デクスター殿下。どちらにおいでですか?わがきみ、どちらにおいでですか?」
……鈴を転がすような、可愛い、舌足らずな声が聞こえてきた。小さい女の子……?
「……興が削がれてしまった。では、また会うとしよう。……チャミラ嬢に恨まれないと良いね、可愛い弟よ」
……………………。
……………………行ってしまった。
足音が、戻ってこれないくらい遠ざかるのが聞こえて、行儀が悪いけど、床にへたり込んでしまう。
……目茶苦茶フカフカな絨毯だ。お気に入りだった私の部屋の敷物とは桁が違うんだろうな……。
「……情けないところを見せて、すまない」
「い、いえ」
王子様に手を差し出されちゃったけど……腰が抜けて立てそうにない。
「すみません、立ち上がれそうに無いので、このままで」
「……兄上の前でよく我慢してくれた。……良い性根だ。すまん、少しだけ」
「……きゃん!?」
…………抱き上げられて、凄く綺麗な長椅子に座らせて貰ってしまった。
男の人に抱き上げられるの多分、二回目?でも、……匂いが、嫌じゃない。
……嫌悪感は、無い。
やっぱり、この人は身内……なんだ。
……頭の中グチャグチャな中で、何故かそれだけポカッと……抜けたパズルのピースが填まったみたい。
……何でか、よく分からないけど。
お母さんが言ってた、狼獣人の男の人。
……聞いていたのと、似ているからかな。
「貴方は私のお父さん、なんですか」
「……ああ。そのようだ」
「私は、チャミラです。……お父さんの娘だって証拠は、無いんですが」
……ユーイン王子様、お父さんは首を振った。そして、恐る恐る、私の手を握る。
大きくて、冷たい手。……震えていた。
「何も要らない。……此処に来てくれて有り難う」
来たのは、成り行きで。
しかも、ギリアムの為……もう二度と、別れたくないからいるのに。
産みのお母さんは私をどうして手放したのか。育ててくれたお母さんは誰なのか。何でお父さんは私の事を知らなかったのか。他にも色々。
何も解決はしていない。
でも、何故かな。体の中心から、指先に、ジワジワ温かい。
初めて、お父さんと会えて嬉しいなって気持ちが……子供の頃に諦めていた気持ちが、涌き出てきたの。
お母さん、お父さんと会えたよ。お母さんの好きな人なんだよね?
ギリアムの事……お父さんなら、助けてくれるかな。
一緒に居たいって願いを、話してみても良いのかな。
王太子妃は隣の国産まれの獣人ですね。




