王子様とお城の庭で
お読み頂き有り難う御座います。
この国の王子様はアラサーからアラフォーです。
ごとごと、ごとりごとり。
石畳の上を、馬車が走っていく。
「……」
馬車が、来て。
今度はひとりで乗ることになった。
窓は……外から鍵が掛かるタイプ、みたい。
……着くまでに、結論をって言われたけど……。
もし、バックれたいですって決めたら……誰に言えば良いのかな。
言う機会無かったってことは、私を『王子様』の娘にする気しか無いみたいだ。
そりゃそうだよね……。これだけ沢山の人を使って、お金も多分沢山遣って……きっと、返せない位に……。
……強引に進められてるのは分かる。嫌悪感も無いではない。
でも、あの、嘘みたいに都合の良い話が本当なら……。
何処かへ行ってしまいかねないギリアムを、此処に留められるなら……早くした方が良いのは分かる。
それと、お母さんの……ことも。
外は見えないけど、上空を何かが飛んでる音や、お店の呼び込みみたいな声、色んな音が聞こえる……。
お母さんも、昔此処に居たことが有るのかな。
……少し、揺られてウトウトとしてたら、カタン、と小さな音を立てて馬車が止まった。
……扉を開ける音がする。
ジュランさんかな……。扉越しの匂いが、彼だ。……先に着いてたのかな。
「ようこそ!チャミラ姫!!良く来てくれたね!」
「……今日、は?」
……沢山の剣を持った人に囲まれた……ジュランさん?が朗々とした声で私に挨拶してくれた。
ううん?……あれ、違う人だ。
目茶苦茶イケメンさんで……ジュランさんと似てる、けど。灰色の目の色が違うし、……話し方が目茶苦茶違う……。おでこの角?も無いみたい。
何より、坊主頭じゃない……。そんなすぐに髪の毛伸びないよね?
でも……目茶苦茶、匂いが似てる……。ご親戚かな。
「態々御足労を掛けてすまないね!私はコンラッド!宰相さ!」
「あ、チャミラです……。…………?宰相様!?」
さ、宰相様って、目茶苦茶偉い人なんじゃないの!?
えっ!?ええ!?
な、何でそんな方が私の前に!?あっ、王女様疑惑を見に来たとか!?
「えっ、あのっ、ええ!?さ、宰相様って、あの!?」
「良いリアクションだね!だが、私も吃驚だ。此処まで激似だとは……。他人の空似なら給料を出せるレベルで似ているではないか!!」
「え……」
……寧ろ、他人の空似……で有って欲しかったんだけど、な。
ギリアムの事……他の事で解決出来ないかな……。色々、考えた、けど。
……何だか、ジュランさんもそうだけど……お芝居がかったオーバーリアクション気味、みたい。
「では、殿下!感動の初対面を!!」
「…………」
気が付かなかった。
後ろに、大柄な人影が音もなく忍び寄っていた事に。
「あの時の……プリシテ、との娘……」
「プリシテ……?」
低い、鼻声が聞こえて。
振り向いたら、確かに……朝、身繕いを整える時に見る鏡の中の私とよく似た……大柄な狼の獣人が、其処に居た。
……初対面、なのに。
…………目茶苦茶、馴染みの有る匂いがする。
プリシテ、って。
お母さんは、偽名を使っていたの?
どうして、貴方から離れたんですか?
「プリシテ、と言うのは、お母さんの名前ですか?」
「……」
大柄な男の人の目からホロホロと流れ落ちた雫が、高そうなシャツの襟元に滴り落ちていく。
「ユーイン殿下」
「声が、プリシテに似ている。だが、やはり……マリエット・ヤシエが……」
「……マリエット?」
その名前……前に聞いた気がする。
誰の事だったかな。
「すまない。私が弱いから。お前の母親を不幸にして、亡くした」
「あの、お母さんが亡くなったのは、流行り病で……すから」
あまりにも息苦しそうに、泣くから。つい。
そりゃ、お母さんが亡くなって……辛かったけど。
お父さんが居なくて、寂しかったけど。
「……何故、奪わせた……。いや、私が……」
「ユーイン殿下、どうか落ち着かれてください。……この王子共の土壇場に弱すぎるヘタレさはどうにかならんのかね面倒な」
「え」
い、今……目茶苦茶小さい声で……わ、悪口が……。
え、宰相様が仰ったの?あんな、素敵な笑顔で……?き、聞き間違い?
「……コンラッド・リオネス……?」
「……悪態は聞き逃さない、その高性能なお耳はお嬢様も健在のようですよ!めでたいですね!!」
「……お前は本当に、性格が良くないようだ」
「ハッハッハ!政に携わる若輩者ですので!!少し背伸びをしているだけなのですよ!!」
……よ、よく分からないなあ。
「……チャミラ、と呼んで良いだろうか」
「は、はい」
「私は、ユーイン・ガウ。……君の父親であり、君を産んだ母親を……大事にしていたつもりが、悲しませて逃げられた者だ」
……私のお父さん、と言い切って差しのべられたその手は、大きくて少し汗ばんでいた。
お母さんを、悲しませて逃げられた……。
……一体、何が。
「どうして、私が娘だと分かるんですか?」
普通、証拠だとか……何も持っていないのに。
お話とかだと、形見のアクセサリーだとか、紋章の入ったおくるみだとか……そんなの、何もないのに。
……私の顔だけで、分かるものなの?
「……それは、少し長くなる」
……眉根を寄せて、苦々しい表情ながらも……ゆっくりと、ユーイン王子様……私のお父さんと名乗るひとは、話し出してくれた。
生き別れの身内であることを証明するアイテムって、扱いが大変そうですよね。




