聞きたいことも聞かれずに
お読み頂き有り難う御座います。
アポ無し訪問みたいですね。
「チャミラ嬢を出してくれ」
「は?朝っぱらから約束も無しに押し掛けて何言ってんだ。断る」
……も、モメてるなあ。
ギリアムが……有り難いけど……でもこれ、あのチンチラ獣人?の人、丸っこくてコミカルな感じだけど……が、頑固だな。簡単には諦めなさそう……。
「私は彼女の身内だ!彼女は義理の姪だ!」
いや、知らないよ……。全く見たこともないし知らない人だよ……。義理の姪だって……どういう関係なの?それ、血縁じゃなくない……?
何で昨日から『自称身内』がバンバン来るの……。そんなにお母さんとの繋がりを得たいの……?もう亡くなってるのに……。死んでからもモテるなんて……何だか、おかしいよ。
「……そもそも、ココホレハマレにチャミラの身内が居るなんて聞いたこと無い」
「義理の姉から、先月まできちんと報告は受けている!」
……誰それ。本人だけど、ココホレハマレに身内が居るなんて初耳だよ。シュラヴィさんがこっち見て小さい声でホントか聞いてきたけど、首を振って否定した。
「彼女は訳有ってココホレハマレに母上と移られ、母上は私の父と再婚された。その後、チャミラ嬢を産まれて数々の縁談を拒まれ、訳有ってこの村に移り住まれたのだ!」
……訳、多くない?その訳、本当なのかな。
「……や、やっぱり金糸雀色のプリシテでしたのね……」
「……プリティアなんだけど……」
て言うか、何でお母さんが亡くなってからわんさと来るの。
生きてる時に来るもんじゃないの……?
「だったら、おばさんが生きてる時に顔出せよ!」
「パン屋が盛況過ぎて、訪問が不可能だったと聞いている」
うっ!
確かに開けてる時はお母さん狙いのお客で溢れて、閉めてる時はお母さん狙いの人が虎視眈々と狙ってた!!
……あの行列が、来訪者を拒んで……いたかな。
「兎に角、チャミラ嬢を……彼女を保護しないと」
「いやだから!」
「大体君は何なんだ。チャミラ嬢とはどういう関係なんだ」
「大家と店子」
……うっ、そうなんだけど。
何だか胸がチクッとした……。
「……いや、この、独特の顔に匂い。そうか、君は異世界種だな」
「!?」
な、何それ。異世界、種?
また知らない単語……。
「……ええ!?っ!えええええええ!?」
「シュラヴィさん声大きい!」
「其処に居るのかチャミラ嬢!私は君の祖母君が再婚したポリポール伯爵の長男クルーガーだ!」
あ、あー。聞き耳立ててたのバレちゃった……。
「……チンチラ獣人は気配にお敏いですから、私達が聞いてるのは多分バレてたと思いますわ」
「で、出てかないとダメ?」
「出てきてくれ!祖母である義母も心配している!!」
「……おい勝手に家の中に入んな!」
そ、そう言われても……。ああ、丸っこいおじさんとギリアムが押し合いへし合いに!!
「いえいえいえ!!ダメですわよ!!ココホレハマレにシャーゴン王族ガウ家の王女様を取られたら戦争に……小競り合いが激化するって言われてますもの!!」
「え、ええ?」
せ、戦争!?
て言うか、シャーゴンとココホレハマレって戦争になるような感じだったの!?こんなに、境界線は平和なのに!?
「……後から行くから、逃げろ!!」
「このっ!」
そ、そんな!!こ、此処にギリアムを置いて!?
「参りましょうチャミラ様!!貴女様からしたらわたくしも怪しいでしょうが、シャーゴン王都迄来てください!!」
「……」
何時の間にか旅装を整えたシュラヴィさんは、私の右手を引っ張った。
どうしたら。
「チャミラ!グズグズすんな!取り敢えず行け!!」
バタン、とあのチンチラ獣人のおじさんを閉め出したギリアムが扉を押さえながら叫んでいる。
……お母さん……。お母さん!!
「わ、分かった」
上着を引っ張り出して、シュラヴィさんと、裏のギリアムの小屋へ逃げ込む。
「ああもう!飛べないのが腹立たしゅう御座いますわ!!」
「……飛べるんだ……」
ほうほうの体で、私達は村から走り出した。
ギリアム……追い付くよね!?
これだけ昨日の夜から騒いでいるのに、村の人達がノーリアクション……。




