三国志演義・八門金鎖の陣~単福の兵法~
はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
声劇台本:三国志演義・八門金鎖の陣~単福の兵法~
作者:霧夜シオン
所要時間:約90分
必要演者数:最大8人
(7:1:0)
(8:0:0)
◎キャスト割り振り例
徐庶:
劉備:
関羽・司馬徽・曹操軍部将1・曹操軍兵士2:
張飛・曹操:
趙雲・程昱:
徐庶母・曹操軍部将2・曹操軍兵士1:
曹仁・呂曠:
李典・呂翔:
※ナレは、女性演者が兼ねる場合は【徐庶母・曹操軍部将2・曹操軍兵士1】
男性演者が兼ねる場合は【李典・呂翔】
※これより少なくても一応可能です。その際は演者様同士で割り振って下さい。
あくまでツイキャスコラボでできる最大人数に対応させて書いています。
はじめに:この台本は故・横山光輝氏、及び、吉川英治氏の著作した三国志や各種
ゲーム等に、作者の想像を加えた台本となっています。その点を許容で
きる方は是非演じてみていただければ幸いです。
なお、人名・地名に漢字がない(UNIコード関連に引っかかって打てな
い)場合、遺憾ながらカタカナ表記とさせていただいております。何卒
ご了承ください<m(__)m>
なお、上演の際は漢字チェックをしっかりとお願いします。
また、金銭の絡まない上演方法でお願いします。
ある程度はルビを振っていますが、一度振ったルビは同じ、または他の
キャラのセリフに同じのが登場しても打ってない場合がありますので、
注意してください。
●登場人物
徐庶・♂:字は元直。
義理堅い人物で、六韜の兵法を修めている。故郷で人に頼まれて仇討ち
に参加した為、単福の偽名を名乗る。水鏡先生こと司馬徽の門下生とな
り、諸葛孔明やホウ統子元らと親しく交わっていたが、良き主を求めて
いた折に劉備と出会う。
正史では徐庶の庶は晩年に名乗った名前であり、本来は徐福という名前
だが、当台本は演義準拠なので徐庶と単福のままで通させていただきま
す。なお、古代日本に渡ってきた徐福とは無関係である。
劉備・♂:字は玄徳。
中山靖王・劉勝の末孫。曹操に追われ追われて荊州へ辿り着き、太
守の劉表を頼る。彼からは我が義弟と信頼を得るが、後妻とその兄で
ある蔡瑁らに疎まれ、命を狙われる。四十七歳。
趙雲・♂:字は子龍。
関羽千里行の後、劉備に仕える。智勇に優れた人物で、たびたび劉備自
身やその家族の護衛を務めるほど信頼されている。
関羽・♂:字は雲長。
劉備の義弟にして立派なあご髭を蓄えた、時の帝に美髯公とあだ名され
る、義に厚く知勇に優れた人物。目下の者には優しいが、義兄弟を除く
目上の者や同僚には不遜な態度を取る事が多い。青龍偃月刀を自在に使
いこなす。
張飛・♂:字は翼徳。
劉備義兄弟の末弟。一丈八尺の蛇矛を棒きれのように振り回し、酒をこ
よなく愛する。目上に敬意を払うが部下には横暴な態度をとることも。
虎髭が特徴の気性の荒い男。
曹操・♂:字は孟徳。
時の帝を擁し、自ら丞相の位につき、従わぬ者を朝敵の名のもとに
次々と滅ぼしていく。人材収集癖があり、有能な人材を愛する事、女性
を愛するかの如くである。徐庶の素性を知り、かつその知謀に惚れ込み
、配下の程昱の献策に従い、彼の老母を利用して都へ誘き寄せる。
程昱・♂:字は仲徳。
当時としては珍しい、190cmという非常に高身長の人物であったと
伝わる。元の名前は程立だったが、日輪を捧げ持つ夢を見た事を曹操が
知り、以後、程昱と改めるよう命じられる。知謀に優れ、数々の献策を
行う。正史では強情な性格で人と衝突することも多かったが、知謀のみ
ならず将軍としての能力も高く、曹操からの信頼は絶大だったという。
ただし、今作のように徐庶の母親の偽手紙の策を進言しているせいか、
他の作品では陰湿なイメージで描かれることが多い。
司馬徽・♂:字は徳操。
道号を水鏡先生。荊州に久しく住んでおり、荊州に集った賢者達と親し
く交わっている人物。日頃事の良し悪しに関わらず、「よしよし」と言
う口癖を持つ。劉備に、臥龍・鳳雛とあだ名される二人の賢人の存在を
教示する。五十代。
曹仁・♂:字は子孝。
一族の曹操が旗揚げした時から付き従う古参の将軍。曹操に南方攻略の
先駆けを命じられ、樊城に李典を副将とし、配下に呂曠、呂翔を
従え、三万の兵を率いて駐屯している。
徐庶の母親・♀:【以降、徐母と記載する】徐庶の年老いた老母。
故郷で息子が志を遂げるのを楽しみに生きていたが、曹操に都に連れて
こられる。息子の徐庶を呼び寄せるよう説得されるが応じず、かえって
死を覚悟で曹操を挑発し、激怒させる。
李典・♂:字は曼成。
思慮深い性格で、その時々補佐している人物のブレーキ役を果たしてい
る。今回は曹仁の副将として樊城に駐屯している。呂曠、呂翔が劉備
軍に討ち取られて激昂する曹仁を諌めるが、聞き入れられなかった。
呂曠・♂:字は伝わっていない。
もと袁紹の三男、袁尚の配下。現在は曹仁配下として弟の呂翔と共
に、樊城に駐屯している。
呂翔・♂:字は伝わっていない。
呂曠の弟。もと袁紹の三男、袁尚の配下だったが、兄と共に曹操に
降伏。南方攻略の先駆けとして、兄と共に曹仁から五千の兵を授けられ
新野の劉備を攻撃する。
曹操軍部将1・不問:曹操配下の名もなき部将その1。
曹操軍部将2・不問:曹操配下の名もなき部将その2。
曹操軍兵士1・不問:曹操配下の名もなき兵士その1。
曹操軍兵士2・不問:上記その2。決して説明が面倒になったわけではない。
ナレーション・不問:雰囲気を大事に。
※演者数が少ない状態で上演する際は、被らないように兼ね役でお願いします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ナレ:古代中国、後漢末期。
数多の英雄達が、燦然と煌きながら己の夢、野望、大志を叶えんと躍動した
時代。
その中に一人の男がいた。
徐庶、字を元直。
頴川、現在の河南省出身で、義侠心に篤く、親孝行として知られていた
。
ある夜、彼は大陸中央の荊州へ旅立つべく、母に暇を告げていた。
徐庶:母上、後の事は弟の徐康に頼んであります。親不孝な元直を、どうかお許し
ください・・・!
徐母:元直、友の仇討ちに手を貸して追われる身となったのは辛かろうが、これも
一つの転機と思いなさい。
徐庶:は・・・はい、母上。
徐母:荊州では学問に励み、良き主君に巡り合うのですよ。
母の事は気にせず、男子の本懐を遂げなさい。
徐庶:【声を詰まらせる】
うっ、うう・・・お心遣い、感謝いたします・・・!
徐母:さ、夜明けと共に追手が掛かろう。早くお行きなさい。
徐庶:【涙ぐむ】
っ・・・母上も、母上もどうか、お元気で・・・っ!
【三拍】
ああ、故郷の町がもうあんなに小さく・・・生きているうち、戻ることは
もはや無いかもしれぬ。
だが決めたのだ・・・たった一人の敵を倒す剣ではなく、万人を相手にする
兵法を学ぶと・・・!
ナレ:これ以後、徐庶は、役人から逃れる為に名を単福と変え、やがて荊州へ辿り
着くと、一軒の家の門を叩いた。
徐庶:たしか、一番有名な人物は水鏡先生こと、司馬徽という人物であったはず
・・・。
御免! 司馬徽先生はおられますか?
司馬徽:? むぅ・・・これは、若き才能ある者が来たるか・・・。
【二拍】
・・・どなたかな? 今しがた弾いておった琴の音が、にわかに
躍動する旋律に変わった。察するに大志を抱く身と見える。
徐庶:はい! 高名な司馬徽先生の門下にしていただきたく、頴川の地から
参りました、じょ・・・いえ、単福と申します!
司馬徽:・・・ははは、よしよし。志高き者は拒まず。
さ、中へお入りなされ。
ナレ:司馬徽に弟子入りすると徐庶はすぐに頭角を現し、兵法だけでなく政治にも
才能を伸ばし、後の臥龍・諸葛亮孔明をはじめ、鳳雛・ホウ統子元ら優れた
人物と親しく交わり、自身を成長させていった。
その後しばらくして、徐庶は近頃の名君だと人から聞いた荊州の太守
・劉表に仕官する。
しかし、彼を待っていたのは深い後悔であった。
【二拍】
徐庶:【机を叩く】
ッ! 名君だというから期待して仕官したのに・・・なんだあれは!?
ただの病み疲れた老人ではないか!
自分の領土さえ無事平和であればよいなどと・・・天下に大志を抱く人
物ではない!
それに後継ぎを巡って家臣同士の醜い争い・・・見るに耐えん・・・!
ああ・・・それがしは、仕えるべき君主を見誤った・・・。
ナレ:徐庶は辞職する旨の置手紙を残し、与えられた屋敷を飛び出した。
既に日は暮れていたが、彼は頓着することなく通い慣れた場所へ向かっ
ていた。
徐庶:・・・水鏡先生の家が近いか・・・そうだ、久しぶりに立ち寄って行こう。
御免、水鏡先生はおられますか?
司馬徽:【二拍】
おぉ徐庶ではないか。しばらく顔を見せなんだが、元気であったか。
徐庶:はい、先生もますますご健勝のようで何よりです。
司馬徽:うむ、相変わらずと言ったところじゃ。まあ入るがよい。
【二拍】
それで、こんな夜更けにどうしたのだ?
徐庶:いや先生、実は劉表に仕えていました。ある者から近頃の名君と
聞いて仕官したのですが、いやはや、聞くと見るとは大違いでした。
司馬徽:なに、劉表じゃと?
徐庶:はい、あまりに保守的でこの激動の時代についていける人間ではありませ
ぬ。
ましてや、自分の後継ぎの問題すら満足に解決できぬようでは・・・。
司馬徽:劉表は昔から優柔不断で事なかれ主義じゃ。汝がそれを知らぬはずは
ないと思うておったが・・・一応聞くが、それでどうしたのじゃ。
徐庶:それですぐに嫌になって、置手紙を残して立ち退いてきました。
まぁ、夜逃げですな・・・はははは。
司馬徽:笑うところではないぞ、元直。
なんというバカなことをしたのだ。今の時代は珠も瓦も一緒くたに
混ぜられておる。
汝は王を補佐するほどの才を持ちながら劉表ごときに仕え、
しかもそれを途中で放り出して夜逃げするとは何事か!
どう見ても褒められたことではない。もう少し、己を大事にせよ。
徐庶:! は・・・先生のおっしゃる通りです。
それがしの軽率に間違いありません。
司馬徽:それでよい。その目をよく見開いてみよ、英雄は手の届くところにおるで
はないか。
徐庶:はい。よく見極め、自重いたします。
司馬徽:うむ・・・時に、最近は孔明や士元に会うておるかの?
徐庶:いえ、ここしばらくは・・・また折を見て訪ねてみようかと思っておりま
す。
司馬徽:そうか。あれらも王を補佐する程の器量を持ちながら、未だに世に出ず、
良き君主にも恵まれぬ。惜しいかな・・・。
徐庶:いや先生。必ず立ち上がる時が来ます。彼らが俗世から離れていようとして
も、世間が、時代がそのままにはしておきませぬ。
司馬徽:確かに・・・そうじゃの。
徐庶:・・・では先生、そろそろ失礼いたします。
司馬徽:うむ、体をいとうのじゃぞ、元直。
ナレ:同じ頃、曹操に追われて荊州の劉表に身を寄せていた劉備は、劉表の妻の
兄、蔡瑁に疎まれ、命を狙われていた。
彼は国の豊作を祝う「襄陽の会」を名目に暗殺計画を立てるが、すんでの
ところで劉備は難を逃れる。後に真実を知った劉表から遣わされた謝罪の
使者を見送ってきた帰り道。
劉備:軍師が・・・全軍を指揮できて、この混迷の時代を見通す目を持った人材が
欲しい・・・!!
どこかにいないものか・・・!
【二拍】
うん? あの浪人は・・・何か歌っているな・・・。
徐庶:【適当に節をつけても可】
山や谷に賢者ありて名君に仕えんとする。
名君は賢者を求めるも、かえって我を知らず。
【声を落として】
(水鏡先生に言われた目の前にいる英雄とは、もしかしたらこの新野の地
を治める、劉備玄徳という人物では・・・?)
劉備:(歌か・・・それにしても、まるで今の自分の身を歌われているような気
がする・・・もしや・・・?)
・・・あいや、ご浪人。
徐庶:? 何でしょうか? それがしを呼び止められたので?
劉備:そうです。いや、突然で申し訳ないが、何となく今の歌が心を捉えまして
な。
徐庶:ほほう、それがしの歌にご興味を持たれましたか。
劉備:ええ。何と言いますか、貴殿とわたくしはこのまますれ違ってしまう間柄
ではないような気がしまして。
徐庶:ははあ・・・?
劉備:いかがでしょう。わたくしと共に一献酌み交わして、錆のあるその歌を更
に聞かせていただきたいと存じますが。
徐庶:ははは、それがしの歌などお耳汚しでしかありませんが、すれ違
ってしまう間柄でない気がするとおっしゃって下さった事に感謝
いたします。お供しましょう。
【三拍】
あいや、お待ち下され。ここは城ではありませんか?
劉備:そうです。いや、これは申し遅れました。わたくしは劉備、字を玄徳。
この新野の地を劉表殿よりお預かりしている者です。
徐庶:なんと、新野のご領主であられたとは・・・!
最前からのご無礼、どうかお許し願いたい。
劉備:なんの、お気になさらず。さあ、こちらへ。
【二拍】
ところで、貴殿の素性をお聞かせ願えますか?
徐庶:これは申し遅れました。
それがしは単福と申し、いささか兵法を学び、諸国を巡り歩いて
いる一介の浪人者に過ぎませぬ。
ところで、先ほど乗っておられた馬をもう一度見せていただけま
せぬか?
劉備:お安いこと。しばしお待ちあれ。
【二拍】
これが我が愛馬、的盧でござる。
徐庶:ううむ・・・・・、これは千里を駆ける俊足ではありますが、必
ず主に祟りをなす馬です。よく今まで何事もございませんでした
な。
劉備:確かに他からも注意を受けましたが、つい先日、急流で有名な檀渓
を渡って九死に一生を得られたのは、この馬のおかげでした。
徐庶:それは主を救ったとも言えますが、同時に馬が自身に迫る危険から逃れる為
に取った行動とも言えますな。
劉備:ふうむ、そういうものでしょうか。
徐庶:ええ、それゆえ一度は必ず飼い主に祟りをなすでしょう。
・・・ですが、それを未然に防ぐ方法がございます。
劉備:おお、それはいかなる方法であろうか。ぜひ教えていただきたい。
徐庶:よろしいですか、この馬をしばらくの間家臣に貸しておき、その者
が祟りを受けた後、再びお乗りあればまずもって心配ありませぬ。
劉備:ッ!? な、何という事を言われるか!
貴殿を客としてここへ迎えたのは、志の高い人物と見たからだ。
今の言葉を聞いた以上、到底礼を持って接する事は出来ない。
早々に帰られよ!!
徐庶:はっはははは・・・・・!!
劉備:なにがおかしいのだ!
徐庶:なるほど、噂にたがわぬ御方だ。
いや、お怒りを鎮めてください。実はわざと、心にもない事を申
してその心を試してみた次第です。どうか、お許し下され。
劉備:おお、そうでしたか・・・いや、それなら喜ばしい限りです。
どうか、わたくしにお力を貸していただきたい。
徐庶:この地の百姓達はあなた様の事を非常に褒めていました。
それゆえこのお方ならばと思い、わざと近づいたのです。
もしお用い下さるならば、それがしが些か学び得たものを
あなた様のお役に立てたく思います。
劉備:ありがたい! 喜んでお迎えします!
先ほど貴殿は兵法を学んだと言われた。
貴殿にわたくしの兵を預けましょう。軍師として、思うままに指揮を
取って下され。
徐庶:いきなり軍師に任じていただけるとは・・・微力ながら、お力添えさせて
いただきます・・・!
ナレ:徐庶は軍師に就任すると、すぐに兵馬を鍛えだした。
その結果、劉備軍は兵数こそ少ないものの、まるで手足のごとく自
在に動くようになっていった。
その頃、北方を完全に支配下に置いた曹操は、次に南方攻略を目論んでい
た。
一族の曹仁に三万の兵を与え、李典、呂曠、呂翔を添えて樊城に駐屯させ
、荊州へ侵攻する機をうかがっていたのである。
呂曠:曹仁将軍、今、荊州の新野では、劉備がだいぶ兵馬を鍛えているようで
す。
呂翔:捨ておいては後日の災いになることは確実ですし、どのみち荊州侵攻の
際は障害となります。
呂曠:まず劉備を叩き潰しておくのはいかがでしょうか? 報告によれば、新野
の軍勢はわずか二千人程度とのことです。
呂翔:我ら兄弟に五千の兵をお貸しくだされば、一息に攻め滅ぼして参りましょ
う。
曹仁:ふうむ、確かに南方攻略の際には新野は目障りだ。よし、両名に五千の兵
を与える。見事、新野を攻め取って参れ!!
呂翔:ははっ、かしこまりました!!
呂曠:直ちに出陣します!
ナレ:呂曠、呂翔の二人は兵五千を率いて新野へ侵攻を開始。
一方、劉備は報告を受けると、すぐに徐庶を呼んだ。
徐庶:お呼びでございますか、我が君。単福、只今参りました。
劉備:おお軍師、曹操軍がこの新野へ攻め寄せてきた。
我が軍は軍師の訓練のおかげで士気は高いが・・・まだ到底曹操軍に
勝てるとは思えぬ。
徐庶:ご心配には及びません。お味方を全て集めれば二千はございます。
敵軍は五千と聞きますゆえ、これは手頃な演習として丁度良い
相手でございます。
劉備:なッ、二千の兵で五千の敵に戦いを挑むというのに、演習と同じに
考えてよいのか・・・?
徐庶:戦にも法というものがあります。数が少なければ、少ないなりの
戦い方を用いるのでございます。
関羽:なるほど・・・、ああ言われるからには、軍師にきっと策があるのだろう。
趙雲:それに日々の訓練を経て、我が軍の士気は上がっています。
張飛:けどよ、そんな簡単に考えて大丈夫なのか・・・?
関羽:軍師。我々はどう動けばよろしいのですか?
徐庶:まずは諸将とも、これまでの訓練を思い起こしていただきたい。
初めに敵を味方の陣の中深く誘い込み、しだいに分散させ、そし
て各個撃破するのです。
関羽:おお、それならばこちらの兵力が少なくとも、十分対抗できますな。
趙雲:確かに戦は兵の数では決まらない・・・ようは兵の士気だ!
張飛:へへ、そうと決まれば早速出陣だ! 腕が鳴るぜ!!
徐庶:我が君には後詰めとして悠々、戦況をご覧遊ばしませ。
【二拍】
最後に一つ。
諸将よ、戦というものは偶然や奇跡で勝てるものではありません。
学問、兵法からなる、法をもって初めて勝つ事が出来ます。
今、我が君をいただき、そして天下にその名を轟かせた豪傑が三
人も我が軍にいます。
これで勝てぬ方が不思議というもの。いざ、参りましょうぞ!
劉備:うむ。皆の者、出陣だ!
関羽・張飛・趙雲役:おおっ!!
ナレ:劉備軍は勇んで城を出ると陣を展開。一方、曹操軍の呂曠、呂翔は早くも
新野城外に迫っていた。
呂曠:ほほう、荊州にも骨のあるやつがいるようだなァ。健気にも城から打って
出てきたか。
呂翔:しかし兄上、こちらは敵に倍する兵数だ。ひねり潰してくれよう!
全軍かかれ!
呂翔・趙雲役以外:【喚声】
趙雲:ふふふ、現れたな曹操軍め。
よし、かねてからの指図通り動け! 敵を陣の奥深く誘い込むのだ!
関羽:皆、敵を引き付けよ! ぎりぎりまで近づかせて一気に分断するのだ!
張飛:お前ら、抜かるなよッ! まずは誘き寄せろ! 料理はその後だ!!
呂曠:突っ込め! 押して押しまくれ!
呂翔:兵の数で押せば勝てる! 者共、進め、進めえ!!
趙雲:曹操軍め、侮ったな! こうもたやすく掛かるとは・・・よし、一気に分断
し、殲滅せよ!
関羽:今だ! 反転して敵を包み込め!
張飛:ようしお前ら、よく我慢した! 今から反撃だ! ぬうおおおおおお!!
ナレ:この戦いはあっという間に勝敗が決した。呂曠、呂翔はまんまと誘い込ま
れた上、小部隊ごとに分断されてあっけなく壊滅、兵の半数を討
たれてさんざんに敗走した。
趙雲:者共、追え、追えッ! 敵を逃がすなッ!!
・・・それにしてもあの狼狽えぶりはどうだ! こうまで打ちのめされると
は、夢にも思わなかっただろう。
ましてや逃げる先には・・・!
呂曠:退け、退けぇ! 急いで樊城へ退却するのだ!
こんな・・・こんなバカな! 敵に倍するはずの我が軍が、こうもあっけ
なく・・・!?
呂翔:くっ・・・曹仁様に何と申し開きすればよいのだ・・・・・うっ! あれ
は!?
関羽:待ちかねたぞ、曹操軍の残党ども! ここを通りたくば、関雲長の刃を味
わってからにせよ! はああッ!!
張飛:おっと、この張飛様の蛇矛も忘れてもらっちゃあ困るぜ!
うおおおッ!!
呂曠:げえっ、ま、まさか伏兵!?
呂翔:い、いつの間に!? い、いかん兄上、この狭い山道では・・・!
関羽:我らを弱小と侮ったのが運の尽きだったな、覚悟ォッ!!
呂曠:ぐぎゃああッ!!
張飛:そうら、兄弟仲良くあの世へ逝けェッ!!!
呂翔:ぐぼッ!! がッ・・・・。
曹操軍兵士1:ひ、ひいい、御大将達がやられた!!
曹操軍兵士2:うわあああもうダメだあああ!! 逃げろおお!
ナレ:生き残った曹操軍の兵達は命からがら樊城へ逃げ戻ると、曹仁へ口々に
敗戦の始末を訴えた。事の意外な展開に曹仁は内心焦り、激怒した。
曹仁:ぬうう、何てことだ! 呂曠も呂翔も討たれた挙句、五千の兵も半数を失
うとは・・・!!
許せん! 全軍出陣し、劉備共を踏み潰して二人の恨みを晴らせ!
李典:お待ちください、将軍!
曹仁:なんだ李典、汝は反対なのか!?
李典:敵は城も小さく少数と侮った為、呂曠も呂翔も惨敗し、命を落
とす羽目になったのです。
将軍も彼らの二の舞をなさるおつもりですか!
曹仁:李典、まさかこのわしが負けるとでも思っているのか?
李典:劉備は一筋縄ではいかぬ人物、軽々しく見るのは間違いの元です。
曹仁:必勝の気持ち無くして戦には勝てん! 汝は戦わぬうちから臆病風に吹か
れているな!
李典:「敵ヲ知リ、己ヲ知ル者ハ百戦危ウカラズ」、と孫子の兵法にもあるでは
ありませぬか。恐れるべき敵を恐れるのは決して臆病ではございま
せぬ!
ただちに都の曹丞相に報告し、大軍を要請して充分軍略を練って掛かる
べきと存じます。
曹仁:馬鹿なッ! 相手はたった二千だぞ!?
鶏をさばくのに牛を切る刀は必要ない!!
丞相に援軍を願うなどしたら、汝らは藁人形かと逆に叱られるわ!
李典:あくまでこのまま新野を攻めると仰せられるなら、将軍だけでお進みあれ
。それがしは樊城に残って留守を守ります。
曹仁:・・・さては、敵に内通でもしているのか?
李典:な・・・それがしが裏切ると申されるのですか!?
・・・・・やむを得ませぬ。そこまでお疑いとあればそれがしも参戦致し
ます。
曹仁:よし、出陣だ!! 小癪な劉備共を叩き潰してくれるわ!
ナレ:かくして曹仁、李典の全軍二万五千は樊城を出ると、まっしぐらに新野へ
進撃した。祝杯を挙げる暇もなく、更なる敵軍侵攻の防備に劉備軍諸将が
追われている中、徐庶は劉備と会っていた。
徐庶:呂曠、呂翔が敗れれば次に曹仁が攻め寄せるのは必定、慌てるに
は及びません。偵察によれば既に白河の河を渡り、新野にむけて
進軍中との事。速やかに迎撃態勢を取りましょう。
劉備:しかし、今度は二万五千の大軍だ。先の戦いとはわけが違う。しかも率い
ているのは曹操軍歴戦の将、曹仁に副将の李典がこれを助けている。
果たして勝てるのか・・・?
徐庶:勝てます。
それに二万五千といえば、おそらく樊城を空にして出てきている
ものと思われます。これを奪うのは実に容易い事です。
劉備:な・・・この少ない兵力で新野を守りきれるかも疑わしいのに、どうして
樊城を落とせるというのか?
徐庶:戦略や用兵の面白さは、勝てないと思われるものを勝ち、不可能
を可能にするところにあります。
まず、必ず勝つと信念をお持ちなされませ。下手な策で自滅を急ぐ妄信
とは、違う種類のものです。
我が君、お耳を・・・。
劉備:・・・・・ふむ、・・・・・ふむふむ。
おお・・・! よし、軍師にお任せする。やってみてくれ。
徐庶:ははっ。ではただちに諸将に策を授け、出陣いたしましょう。
【三拍】
関羽:おお軍師! 今度は曹仁自ら攻めてきましたぞ!
張飛:それがしは二万五千ごときの軍を恐れないが、さすがに部下たちは
動揺している。
趙雲:軍師、いかがいたしましょうか。
徐庶:諸将よ、立ち騒ぐなかれ! 既にこの事は予見できていたゆえ、
それがしに策あり!
まず先鋒を趙雲将軍、そなたに命じる!
敵先鋒に当たり、率いる将を見つけたらこれを蹴散らすのだ!
趙雲:ははっ、お任せを!
徐庶:関羽、張飛両将軍は左右に展開し、趙雲を助けるのだ!
関羽:承知しました。ただちに準備にかかります!
張飛:おう! 今回は趙雲に先鋒を譲ってやるぜ!
ナレ:劉備軍が城を出て布陣を終えると間もなく、曹操軍が殺到してきた。
先鋒を率いているのは李典、たちまち趙雲の部隊とぶつかり、多数の
死者が出た。
趙雲:敵将李典、どこにいる! この趙子龍の槍を受けてみよ!
李典:おお、相手にとって不足はない。李曼成、参る! おおおッ!
趙雲:はああッ! うりゃあッッ!! どうした、この程度か!!
李典:ぐっ、ぬうううッ!! う、噂以上の武勇だ・・・!
い、いかん、このままでは・・・
趙雲:【↑の語尾に被せて】
おおおおりゃあああああッッ!!!
李典:!!ッううっ、しまった! 槍が!!
趙雲:その命、もらったァァ!!
李典:くっ、とても歯が立たん! 勝負はまた後日!
趙雲:あっ、待てッ! 逃げるな李典!! その首を置いていけィ!!
ナレ:趙雲は執拗に追い回し、李典は生きた心地もなく味方の陣を逃げ惑った。
この為、先鋒の軍は混乱の上敗走し、曹仁のいる本隊まで動揺する有様だ
った。
曹仁:なにい、李典が敗走しただと!? おのれ、ここへ引っ張って来い!!
【二拍】
李典:・・・申し訳ありませぬ、将軍。
曹仁:黙れッ! 汝に戦う気が無いからこんな醜態を晒すのだ!
李典を斬れッッ!!
陣門に首を掛け、士気を上げねばならん!!
曹操軍部将2:お、お待ちください将軍! 戦はまだ始まったばかりです。
それなのに味方の将を斬れば、敵は手を打って喜ぶでしょう。
我が軍にとって不利です!
曹仁:ぬっ、ぬうううう・・・・!
曹操軍部将2:ここは罪をお許しになって、陣形を立て直すべきです。
今日の所は兵を休め、明日、再び攻めましょう!
曹仁:・・・分かった。李典の罪は不問に付す!
明日、八門金鎖の陣を敷け! わしは中央、李典は後方を固めろ!
李典:はっ・・・心得ました。
曹仁:劉備め・・・わしの力を見せてくれるわ・・・!
ナレ:次の日、曹仁は根本的に布陣を変えた。前日敗れた李典と自分は違うの
だと言わんばかりに気負い立って見えた。徐庶は劉備と共にその陣容を
眺めつつ、解説していた。
徐庶:ふふふ・・・実にものものしい。我が君、敵将曹仁の敷いた陣を
なんと言うかご存知ですか?
劉備:いや、知らぬな。あれは一体、どのような備えなのだ?
徐庶:兵法に曰く。彼の陣は八門金鎖の陣と言います。
休、生、傷、杜、景、死、驚、開、の八つの陣門を持ち、生門、
景門、開門から入る時は吉なれど、傷門、休門、驚門から入る時
は必ず痛手を負い、杜門、死門へ入れば必ず滅亡すると言われる
陣形でございます。
劉備:むうう、では打つ手はないのではないか?
徐庶:いえ、中軍、すなわち本隊の部分に重みがなく、曹仁一人のみで
李典は後方に控えている様子。これこそ我らが乗じるべき隙でご
ざいます。
劉備:なるほど、ならばどう攻めかかれば良いか?
徐庶:まず生門より突入し、西の景門へ向かうのです。さすれば、敵の
全軍は糸を抜かれて綻ぶ着物のごとしです。
劉備:兵法とは、そこまで見抜いて策を立てるものなのか・・・。
軍師の言葉は、まさに百万の味方に等しい!
徐庶:趙雲将軍! これへ!
【二拍】
またひと働きしてもらいたい。
趙雲:ははッ! 喜んで!
徐庶:良いか、五百の兵を率いて東南の生門から突撃し、ひたすら西
へ向けて敵を蹴散らすのだ。西へ辿り着いたらもとの突入して
きた東南へまっしぐらに引き返すのだ。決して他の方角へ行っ
てはならぬ。
趙雲:心得ました!
【二拍】
者共、我に続けえッ!! 大軍だからと恐れるな! 軍師の必勝の策に従
って突撃せよ!!
趙雲・曹仁役以外:【喚声】
曹仁:来たな、劉備軍の野良犬共が!! この陣の恐ろしさをとくと味わえ!!
・・・ん? 攻めかかってきたのは・・・生門だと!?
ま、まさか!?
趙雲:さあ、西へ向けてひたすら駆け抜けろ!! 遮る敵は蹴散らせ!!
他の方角へ行ってはならん!!
おおおおぉ雑魚共どけええええい!!
曹仁:彼奴等、この陣を知っているというのか!?
趙雲:よし、後はもと来た道を、まっすぐ引っ返せ!!
趙雲・曹仁役以外:【喚声】
曹仁:馬鹿な・・・バカなバカなバカなッッ!!
劉備軍ごときにこのわしが・・・八門金鎖の陣が、敗れるというのか!?
趙雲:む、あれは・・・敵将・曹仁!
・・・・・今日のところはその命、預けておくぞ!
はあッ!
徐庶:我が君、今です! 総攻撃の合図を!
劉備:うむっ! 全軍、突撃せよーーッッ!!!
劉備・李典役以外:【喚声】
李典:曹仁将軍! ひとまずここは退くべきです! それがしが殿を務めます!
曹仁:ぐっ・・・全軍 退けぇい!!
ナレ:徐庶の兵法の前に八門金鎖の陣は脆くも壊滅、ほとんど何の役にも立たな
かった。
無様なのは曹仁である。莫大な損害を被り、味方の李典に少しも会わせる
顔がない立場だったが、まだ痩せ意地を張っていた。
曹仁:おのれええぇ、もう許せん!!
夜襲だ、夜襲を掛けて皆殺しにしてくれる!!
李典:将軍、もうおやめなされませ。
八門金鎖の陣すら見事に破ってのける敵ですぞ。
察するに、劉備軍には必ず有能な軍師がいて指揮しているに違いありま
せん。
曹仁:李典ッ! 汝のようにいちいち疑ったり恐れたりするくらいなら、武将な
ど辞めたらどうだ!
李典:それがしが恐れるのは、敵が背後に回って空き家同然の樊城を乗っ取る事
です。
曹仁:ええい何も言うな!! 夜襲の準備をせよ!!
李典:【溜息】
諫めきれぬとは・・・やむを得ぬ、か・・・。
この上は敵が油断している事を願うばかりだ・・・。
曹仁:急げ! 日没までに準備を整えィ!!
ナレ:何にしても曹仁は焦っていた。まさか自軍の十分の一程度の軍勢にこうま
で徹底的に叩きのめされようとは想像もしていなかったからである。
曹操軍は敗残の兵をまとめて夜襲の準備を進めていたが、既にその動きは
徐庶に読まれていた。
関羽:いや、まさかあの大軍にこの少数で、これ程胸のすくような勝ち方ができ
るとは!
張飛:だけど、ちいっとばかし趙雲ばかり活躍しすぎじゃねえか?
軍師!次はそれがしに命じてくれ!
徐庶:ははは、そう逸られますな。
察するに曹仁の事、何とかして汚名を返上せんと今頃夜襲の準備
を進めていましょう。
関羽:なんと! ではこちらも早急に迎撃せねばなりますまい!
徐庶:お案じなさいますな。この城外の陣を使って、罠を仕掛けます。
関羽将軍、張飛将軍にはそれぞれ重要な役割をお任せしたい。
張飛:おおっ、ついにそれがしの出番だな! 待ちくたびれたぜ!
徐庶:よろしいですか。敵がこの陣に突撃して来た際、それがしと趙雲
将軍で敵を火計にて焼き払います。曹仁は必ず白河まで逃げてく
るでしょう。
張飛将軍は兵五百と共に白河の辺りに伏せ、敵が逃げ延びてきた
ら一斉に襲い掛かって撃滅するのです。
張飛:心得た! よぅし者共、出陣だ!! ははははは、曹操軍に目にもの見
せてやるぜ!
徐庶:関羽将軍は同じく兵五百を率いて、敵に気づかれぬよう迂回して
白河を渡っていただきます。
そして無人に等しい樊城を攻め落とし、曹仁が落ちのびて来たと
ころを更に叩き潰すのです。
関羽:命からがら逃げ戻った城は既に敵のもの・・・ふふふ、流石は軍師殿、鮮
やかだ・・・! 承知仕った、直ちに出陣いたす!
劉備:この士気の高さ・・・まるでこちらが大軍のようだ。軍師、水鏡先生に言
われた事が今、身をもって思い知らされたように思う。
見事な兵法である!
徐庶:いやいや、今宵の戦いがまだ残っております。
いざ、我が君はそれがしや趙雲と共に火計の準備に入りましょう。
ナレ:日が暮れて、双方がその思惑通りに支度を終えた。曹仁は敗北続きで士気
の振るわない味方を鼓舞していた。
曹仁:よいか、今夜こそ劉備軍を全滅させるのだ! 敵は勝利に酔って油断して
いるはずだ!必ず勝てる!!
曹操軍兵士1:(ほんとかよ・・・あんなに自信満々だった八門金鎖の陣もあっ
さり破られてるじゃないか・・・。)
曹操軍兵士2:(なんか、嫌な予感がするなぁ・・・大人しくこのまま樊城に引
き返した方が・・・。)
曹仁:見ろ、かがり火も消えている。疲れて眠っている証拠だ。
突っ込めィ!
【三拍】
ッおかしい・・・敵兵が見当たらん・・・ま、まさか・・・
李典:【↑の語尾に被せて】
将軍、あれを!!
趙雲:敵は我が軍師の策に落ちたぞ。火を放てッ!!
曹仁:し、しまった、火が・・・! 火計とは、おのれまたしても・・・誘い込ま
れたのか!!
徐庶:よし、弓兵、矢を射よッ! 曹操軍を残らず射貫くのだ!!
李典:くっ、兵達が・・・! 将軍、これでお分かりになられたはず。
敵には新たに知謀の将が加わったのです! 早く樊城へ!
曹仁:ぐうう、退け、退けっ!!
【三拍】
ハァ、ハァ・・・やっと、白河まで辿り着いたか・・・。
うっ、あ、あれは!?
張飛:待っていたぞ、曹仁! この張飛様が相手をしてやる!
それッ、誰一人として敵兵に川を渡らせるな!!
曹仁:ば、馬鹿な・・・あらかじめ兵を伏せていたというのか・・・!?
李典:将軍! 早く川を渡るのです!
張飛:待てィ、曹仁! その首もらった!!
李典:ぬうう防げッ! かかれッ!
張飛:ええい邪魔するな!! ぬうりゃあ!
李典:くっ、なんて馬鹿力だ! 兵達が木の葉のように・・・!
曹仁:ぐっ・・・・おのれ、おのれおのれえええ! こんなはずでは・・・!
ナレ:白河のほとりで残り少ない味方を更に討ち減らされた曹仁達は、満身創痍
で樊城へと帰り着いた。
しかし城に近づくや、金・太鼓の音と共に門を開いて出てきたのは、
味方ではなかった。
関羽:いざ入られよ、曹仁! 劉皇叔が家臣、関雲長が手厚くおもてなし致す!
曹仁:げえぇっ、か、関羽!?
李典:や、やはり背後に回られていたか・・・、将軍、もはやこれまでです。
樊城を捨てて都へ退却しましょう。
曹仁:くっ・・・この恨み、忘れんぞ・・・!
退けぇ!
関羽:待たれよ曹仁! 一合も矛を交えずに逃げる法はあるまい!
李典:ええい、防げ、防げぇッ!
関羽:ぬううッ、待てェい曹仁!! 者ども、逃がすな!!
ナレ:こうして曹仁・李典は完全敗北し、山に隠れ、川を泳ぎ、裸に近い姿で
都・許昌に逃げ帰った。世の人は皆これを、「見苦しい有様なり」と笑った
という。
劉備は樊城へいったんは入ったが、徐庶の助言に従って趙雲に守備を任せ
、自身は新野へ戻った。その前日の夜。
張飛:うわっはははは! 愉快じゃ! わずか二千の兵で十倍以上はある二万五千
の敵を叩きのめしてやったわ!! 兄者、呑め呑め!!
関羽:おう、呑んでいるぞ! しかし、流石は軍師殿だ! それがしもいささか
兵法の心得はあるが、これほど鮮やかな軍略は初めて見た!
趙雲:単福殿がおれば、たとえ十万の敵が来ようとも恐れるに足りませんな!
徐庶:いやいや、それがしは小さな策を進言しただけです。これを正確に遂行して
くださる将軍たちのお働きなくば、ここまでの戦果を挙げることはできなか
ったでしょう。それがしの方こそ、厚く礼を述べたい。
関羽:奥ゆかしきかな、軍師殿。ささ、それがしの杯も受けてくだされ。
徐庶:こ、これはかたじけない・・・関羽将軍。
張飛:おおっ、良い飲みっぷりだぜ軍師殿!
趙雲:うむ、まるで先の曹操軍のごとしですな!
関羽・張飛・趙雲:はっはははははは!
徐庶:ああ、本当に・・・仕官してよかった・・・それがしは今、この上ない生き
甲斐を感じております・・・!
劉備:軍師、余からも礼を言わせてくれ。そしてこれからもその力を貸してほしい
。
徐庶:!! も、もったいなきお言葉・・・!
ありがたき幸せ・・・!【泣く】
劉備:さあ、今日は無礼講だ! 皆、心ゆくまで飲んで、食べてくれ!
ナレ:劉備軍が軍師を得て活気づく一方、許昌の都では
曹仁ら敗残の諸将の話題が、街や城中を問わず賑わせていた。
曹操軍部将1:お聞きになられたか? 呂曠、呂翔の二将軍は討死にしたそうな。
曹操軍部将2:三万の兵が残りわずかになるまで叩き潰されたらしいぞ。あまり
に惨めな敗北ではないか。
曹操軍部将1:曹丞相の御威光を汚す二人の首を斬って、城門にさらすべきだ。
曹操軍部将2:しっ、丞相閣下のお成りだ。
曹操:・・・両名とも、此度の敗戦の実情を詳しく聞かせよ。
曹仁:はっ・・・まず呂曠と呂翔が南方攻略の先駆けとして新野を攻めるよう進
言しこれを許可、五千の兵を与えました。しかし両名とも敵陣深く誘い込
まれ、いずれも戦死を遂げました。
李典:次に我ら両名が総勢二万五千の軍を率いて新野へ攻め込みました。
しかし敵軍に単福と名乗る軍師が新たに味方していた為か、敵兵の一人に
至るまで動きがまるで違っていました。
曹仁:加えてそれがしが八門金鎖の陣を敷くも弱点を見破られ、更に夜襲を
掛けましたがそれも読まれており、火計にあってほぼ壊滅に近い状態に追
い込まれました。
李典:途中の白河でも敵将張飛の伏兵に襲われ、辿り着いた城は既に敵将関羽に
落とされておりました。
かくなる上はやむを得ず、樊城を捨てて退却した次第であります。
曹仁:丞相閣下に会わせる顔もございませぬが、しかるべきご裁断を仰ぐ為、恥
を忍んで我ら両名戻ってまいりました。
李典:軍法に服し、いかなる罰をもお受けいたします・・・!
曹操:そうか・・・・・よい!
戦は勝つこともあれば負けることもある。下がって疲れを癒すがよい。
曹仁:は・・・!?
李典:丞相閣下、いまなんと・・・?
曹操:下がって休めと申したのだ。此度の敗戦の屈辱は、次の機会に晴らせばよ
い。
曹仁・李典:は、ははーーっ!
曹操軍部将1:なんと、罪を責められぬとは・・・!
曹操軍部将2:これが丞相閣下の優れたところよ。それゆえ、我らはいっそうの
忠誠を誓うのだ。
曹操:ふうむ・・・しかし、腑に落ちぬ。曹仁程の戦巧者な大将の戦術を、鮮や
かに裏をかいて撃砕してみせるとは・・・いつもの劉備軍とは違うと
申しておったが。
曹操軍部将1:されば、新たに軍師が加わったとか・・・。
曹操軍部将2:単福、とか申しておりましたな。
曹操:うむ・・・世の中に知恵者は多いが、余はまだ単福なる人物を知らぬ。
一体、何者であるのか・・・?
【三拍】
程昱:ふっ、ふっふっふ、はっはっは・・・!
曹操:? 知っておるのか、程昱?
程昱:は、とてもよく。それがしと同郷の出身でございますから。
本名は徐庶、字を元直と言い、故郷を追われた際に、単福と名を変えたの
でございます。
徐庶ならば知る者も多いですが、単福ではまず誰も知らぬでしょう。
曹操:そうであったか・・・して、程昱よ、そちと徐庶を比べたらいずれが優れて
いるか?
程昱:それがしなど彼の足元にも及びません。
徐庶の人物、才能、修行を合わせて十とするなら、それがしはその二くらい
にしかなりません。
曹操:ぬうう、それほどの人物か。余が知っておれば、破格の待遇で召し抱えたも
のを・・・曹仁、李典が敗れて帰ってきたのは当然の結果であったか。
軍師として劉備に召し抱えられたとなれば、後の大きな災いとなろう。
程昱:丞相、諦めるのはまだ早いかと存じます。実は徐庶には年老いた母親
が一人おります。これを丁重に招き、徐庶をこちらに呼び寄せてしまうの
です。
曹操:ほう、まだ余の配下とする手段が残っていると申すか。
程昱:は。徐庶は親孝行な人物としても名が通っていますから、母親から呼び寄せ
られれば一も二もなく駆けつけてくることでしょう。
曹操:よし! 直ちにここへ連れてくるのだ!
ナレ:曹操の持ち前の人材収集癖に火が付き、さっそく徐庶の母親が呼び寄せら
れた。
彼はまるで自分の母親に対するかのように接し、いよいよ本題の徐庶を都・
許昌へ呼び寄せるよう説得にかかった。
曹操:おっ母さん、今息子の徐庶は朝廷にたてつく不逞の輩、劉備に仕えているそ
うだ。その優れた才能を無駄に捨てさせないよう、この許昌に徐庶を呼び寄
せる手紙を書いてくれぬか?
ここへ呼び戻したらおっ母さんは広い屋敷に大勢の召使、息子も出世する。
良い事づくめではないか?
徐母:はて・・・わたくしが聞いている話とはずいぶん違いますのう・・・。
劉玄徳様は漢王朝の景帝の玄孫におわし、徳の高いお方じゃと。
そこらにいる木こりや百姓もそう噂しておりまする。
曹操:ははははは、それはみな、劉備にだまされているにすぎん。世間を欺く芝居
でしかない。のう、悪い事は言わぬ。この漢王朝の丞相たる余に征伐され
ぬうちに、逆臣である劉備の元から呼び戻したがよい。
さ、紙も筆もそこにある。息子の徐庶の為、ひいてはおっ母さんの老後の為
に手紙を書くのだ。
徐母:いいえ・・・いいえ書けませぬ!
いかにこの田舎者の婆でも、何が正しくて何が間違っているかくらいわかり
ます。
漢王朝の逆臣は劉玄徳様ではなく、丞相様、あなた自身ではございませぬ
か。なんで我が子を名君の元から去らせて、誤った道に進めなどと言えます
か!
曹操:な、なに!? 余を逆臣と言うか、婆ァ!
徐母:申しました。
たとえ貧しい浪人の母親として日々を細々と生きて行こうとも、
あなたのごとき悪逆の人に我が息子を仕えさせるなど、断じてなりませぬ!
ッ!!
曹操:うっ、この婆ァ・・・硯を投げつけおったな!
ええい者共、斬れッ、斬れッ! この糞婆ァの首をねじ切って捨てろッ!!
程昱:お待ちください、丞相!
ひとまずこちらへ・・・。
【二拍】
丞相、大人気ないではありませぬか。
曹操:何を言うか! あの婆ァ、余を逆臣とぬかしたのだぞ!
程昱:あの態度をごらんなさいませ。
・・・あまりに落ち着き払っているではありませぬか。
丞相を罵ったのは、死を覚悟でわざと怒らせたのです。
曹操;な、なにぃ・・・まさか・・・いや、確かによく見れば
その通りか・・・!
程昱:もしここで殺せば徐庶は、我が母の仇といよいよ劉備の為に忠誠を誓うでし
ょうし、丞相はかよわき老人を殺したと世間の信用を失いますぞ。
曹操:あの老婆、そこまで計算していたというのか・・・?
程昱:田舎者の老婆と侮ってはなりませぬ。
さすがにあの徐庶の母親だけあって、それを見抜いたうえで無礼な振る舞い
をしたのです。
曹操:ぬうう・・・あの息子にしてこの母親ありか・・・。
では、どうする?
程昱:ここは大切に養っておくのです。それを知れば徐庶も、身は劉備に仕えてい
ても、心は母親を案じて丞相へ思うように刃向かえますまい。
曹操:むむ・・・・・分かった。この一件、汝に任せる。
良いようにはからえ。
程昱:ははっ。なお別にそれがしに策がございますが、それはまた後程・・・。
【二拍】
いや、先ほどは我が主が失礼しました、母君。
それがしは程昱と申し、母君のお世話を言いつかりました。
これからお住まいになる屋敷へご案内します。
徐母:は、はい・・・。
【三拍】
程昱:昔、徐庶殿とそれがしは兄弟のようにしていたものです。
偶然とはいえ、今日その母君のあなた様を家に迎えて、何だか自分の母親
が帰ってきたような気がします。
徐母:そうでございますか。どうぞ、お気遣いなさいませぬよう・・・。
程昱:いえいえ、我が息子と思って、何なりとお申し付けください。
さ、こちらの部屋でゆっくりとお過ごしくだされ。
ナレ:それからというもの、程昱は珍しい食べ物や衣類をたびたび徐庶の母に持た
せてやっていた。初めは頑なであった徐庶の母も、やがてその親切にほださ
れ、何度か礼状を書くまでになっていた。
程昱:ふむ、今回も手紙を返してきたか。
こちらの思惑通りだな・・・どれ。
【三拍】
ここのハネはこうして・・・、ここはこうして止める・・・。
ふう・・・これでだいぶ字の癖は掴めたか。
そろそろ次の段階だな。
まずは丞相へ進捗をご報告せねば・・・。
【二拍】
曹操:ふむ・・・北方は落ち着いた。そろそろ本腰を入れて南方へ
足を延ばすべきか・・・?
程昱:丞相閣下、失礼いたします。
曹操:む、程昱か。あの老婆の様子はどうだ。
程昱:は、当初は警戒しておりましたが、時間をかけて解きほぐしてございます。
今では何か持たせてやると、必ず礼状を返してよこすようになりました。
曹操:ほう、そこまで手なづけたか。
・・・して、そちが以前申していた策とは、いかなるものなのだ?
程昱:それがしがあの母親から引き出したかったものが手に入りましたので、
そろそろ次の手を打つべくご報告に上がった次第です。
曹操:引き出したかったもの?・・・それは何だ。
程昱:筆跡、でございます。おそらくいかなる言葉や餌をもってしても、徐庶の
母親の心は動きはしますまい。
であれば、筆跡を真似て偽手紙を書き、徐庶を許昌へ誘き寄せるのが良い
かと心得ます。
曹操:なるほど、偽りの手紙か・・・! これは上手くいくやもしれぬな。
よし、早速内容を吟味しよう。
程昱:はっ。
ナレ:曹操と程昱は、親孝行者の急所を突くような言葉をふんだんに用いて巧妙
な偽手紙を書き上げると、さっそく徐庶の元へと遣わした。
徐庶:なに、手紙?
・・・誰からだろうか・・・・・ッッ!? こ、これは、母上からではな
いか!
徐母:元直、元直や、元気に過ごしておるか?
今は母も元気にしているが、弟の康は亡くなってしもうたし、日々寂しく
過ごしている。
そこへまた、曹丞相の命令で許昌へ連れてこられた。元直が逆臣に仕え
ているという罪で母にも類が及んでしもうた。
さいわい、程昱どのの命乞いによって助けられたが、どうか、そなたも一
日も早く母のそばに来ておくれ。母に顔を見せておくれ・・・。
徐庶:【徐々に泣きながら】
は、母上・・・・・! しまった・・・なんという迂闊であっただろう。
自分が名をあげれば必ずこうなるのは目に見えていたはずであるのに、
日々軍師としての実務にとらわれて母上の事を・・・。
ああ・・・どうすれば良いのだ・・・・・!
ナレ:徐庶は手紙を偽物とは見抜けず、夜もすがら泣き明かすと翌日、一番に城
へ赴いて劉備に会った。
劉備:おお、軍師、今日はまたずいぶん早い出仕ではないか。
?
どうされた? 顔色がすぐれないようだが・・・。
徐庶:我が君・・・実は今日、我が君にお詫びをせねばならぬ事が出来ました。
それがしは本名を徐庶、字を元直と申し、故郷の難を逃れる際に単福と
名乗っていたものです。
荊州では水鏡先生の門下としていささか兵法や政治を学び、
劉表に一時仕えました。
劉備:そうであったのか・・・。
徐庶:ですが、そのあまりの無能さに嫌気がさし、すぐに立ち退きました。
これにはあとで水鏡先生にお叱りを受けましたが・・・。
劉備:?・・・もしや、檀渓を渡った夜、水鏡先生の庵を訪ねたのは・・・?
徐庶:そうです。 なんと・・・あの時、近くにおられたとは・・・。
その後、それがしはどうにかして我が君に近付きたいと思い、新野の城下を唄って
彷徨っていたのです。
そして、ついに縁あって我が君に仕官する事が出来ました。
劉備:うむ、あの歌は余の人材を求める気持ちに強く響いた。軍を統率し、先を見
る目を持った人物を欲してやまなかったのだ・・・。
徐庶:素性を明かさぬそれがしを深くお信じいただいた上、いきなり軍師をお任せ
下さるなど、過分なご恩は死しても忘れませぬ。
劉備:いやいや、二度にわたる曹操軍の撃退、そして日々の実務・・・、軍師とい
う存在がどれほど重要なものか、あらためて身にしみて分った。
徐庶:ところが・・・昨日、母からの手紙が届きました。事もあろうに許昌の
曹操の元へ差し立てられたと・・・。
劉備:な、なんと・・・曹操にご母堂が捕らわれているというのか!?
徐庶:はい・・・それがしは幼いころから親不孝を重ねてきました。
我が君! どうか一時のお暇をくださいませ! 許昌へ向かい、母上の身の安全
を得た上できっと帰って参ります!
劉備:【唸る】
【二拍】
・・・分った! 十分にご母堂に孝養を尽くしてやるがよい。
徐庶:ありがとうございます・・・・・!!
【二拍】
そうだ、我が君。それがしのいない間、それがし以上の人物を推挙いたし
ます。
ここから程近い、隆中というところに一人の大賢人がおります。
諸葛亮、字を孔明と言い、道号を臥龍先生と言います。
劉備:な、何!? 臥龍と言えば、かつて水鏡先生に教えていただいた大賢人の
一人ではないか!?
徐庶:そうです。
その才能は前漢の張良子房、周の太公望呂尚にも匹敵する人物です。
ぜひこの人の庵をお訪ねあって、天下の事をお計りください。
これがそれがしの置き土産です。
劉備:わかった・・・! 肝に銘じよう!
徐庶:では・・・おさらばです、我が君・・・!
ナレ:こうして徐庶は劉備に別れを告げると一路、許昌へ急いだ。
曹操は徐庶が到着したとの知らせを受けると、荀イク、程昱の二人をして
丁重に迎えさせた。
曹操:そちが徐庶元直か。老母は息災であるゆえ、まずは安心するがよい。
徐庶:は・・・感謝いたします。して、母はいずこにおりましょうか。
願わくば一刻も早く対面をお許し下さい。
曹操:うむ、そちの老母は程昱に面倒を見させ、不自由なく過ごさせておる。
今日、そちがこれへ参るとのことで奥の部屋に案内させてある。
行って、会ってやるがよい。
徐庶:ありがとうございます・・・!
程昱:徐庶殿、こちらへ。それがしが案内いたそう。
【二拍】
ご母堂はあの部屋におられる。ゆるりとお会いなされ。
徐庶:程昱殿、許昌に来てからの母への世話、かたじけない。
程昱:いやいや、礼には及び申さぬ。では・・・。
徐庶:ああ、母上にお会いするのも何年ぶりであろうか・・・!
【二拍】
母上! 元直です! 元直が参りました!
徐母:!? 元直!? なぜそなたがここにいるのじゃ!?
近頃、新野の劉玄徳様にお仕えしていると聞いて陰ながら喜んでいた
ものを・・・なんでここへ参ったのか!?
徐庶:えっ? 母上からのお手紙をいただき、主君よりお暇をいただいて
急ぎこれへ駆けつけて参りましたものを?!
徐母:何をうろたえておるのじゃ! この母から生まれ、年三十を越えてい
ながらまだ母がそのような手紙を書くかどうかも分らぬのですか!
徐庶:で、では・・・、この、手紙は・・・!?
【手紙を開く】
うっ、よ、よく見れば無理に真似たような部分がいくつも・・・!!
徐母:このような偽手紙を受けて、その真偽も確かめず、大事な主君を捨て
てくるとは何事ですか!
劉玄徳様は漢王朝の皇叔、民百姓はみなお慕いしておる。そのような
お方に召抱えられ、この母も身の誉れとしていたものを・・・!!
徐庶:母上・・・申し訳ありません・・・! 我が身の不覚でした・・・、
お許し下さい・・・!
徐母:情けない・・・成長したと思っていたのは親の欲目だったのですか・
・・!【すすり泣く】
徐庶:母上・・・。
ナレ:徐庶の老母はしばらく泣いていたが、やがて黙って奥の部屋へ隠れて
しまった。
徐庶:くっ・・・・・、悔いても足りぬ・・・母上の事をまったく分かって
いなかったとは・・・!
・・・ッッ!?
徐母:【↑の語尾に被せて断末魔の呻き】
徐庶:母上!?
ッッ母上ッ!! 母上ーーーーーッッ!!
程昱:どうされた、徐庶殿!? うっ、こ、これは・・・!
徐庶:うわあああああッッッ!!! 母上ぇぇぇぇええッッ!!!
【泣き崩れる】
ナレ:徐庶の母は失望の余り、奥の部屋で自害して果てていた。
母の亡骸を抱いて徐庶は気を失うほど悲しんだが、すべてあとの祭り
であった。
以後、彼は曹操に仕え、二度と劉備と会う事はなかったが、決して劉
備の為にならないような献策を曹操にしない、と心に誓う。
一方、劉備は徐庶の言い残した、臥龍こと諸葛亮孔明を訪ねようとし
ていた。
いよいよ、歴史にその名を残す名宰相・諸葛亮が、史上名高い三顧の
礼を受けて世に出る時が近づいていたのである。
END
はいはいはいおはこんばんちわー、作者であります。
個人的に八門金鎖の辺りの話も好きなので書いてみました(;^ω^)
徐庶は個人的に好きなキャラの一人なんですな。
例によって、間違いなく初心者向けの台本ではないですね、ええ(;´Д`)
もしツイキャスやスカイプ、ディスコードで上演の際は良ければ声をかけていた
だければ聞きに参ります。録画はぜひ残していただければ幸いです。
ではでは!