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第7話 世界一カッコイイ風呂場からの逃走劇

机に広げられた料理をあらかた片付けそのまま風呂へと向かった。

冒険者ギルド近くにある大浴場。様々な冒険者が訪れ憩いの場。などという平和なものじゃない。

地域紹介の新聞じゃあるまいし。

大浴場は戦場だ。主に男の。


「おせーぞハク!お前がいなきゃ始まんないんだよ!」

「悪い。バカ二人が大量に飯を頼んだもんでその処理に追われたんだ」

「ってことは二人はいないのか?」

「いんや。俺にほとんど押し付けたから先に来てるはずだ」

「よし。やるぞ。気配隠蔽を頼む」

「死ぬなよ」

「任せろ」


俺は待ち合わせした男冒険者のカインとアベルに気配隠蔽の魔法を付与した。

気配隠蔽はその名の通り気配を消すもの。術者が使う魔力によってその強度は増す。

強度によっては実体のある透明人間とさほど変わらない。


星がキラキラと輝く夜空の下で作戦は決行された。

男が風呂場で透明人間になってすることと言えば一つ。


「声まで消えてるわけじゃない。絶対に声は出すな。そして触れるな。触れなければ透明人間だ」

「よっしゃ!今日こそやるぞ!」

「やべぇ!緊張してきた!」

「下手に心臓動かすと変態幼女にバレるぞ」

「おっけ。心臓止めるわ」

「行くぞ」


脱衣所を抜け出し壁沿いに女子脱衣所へと向かう。

足音すらも聞かれる可能性がある。

エロオヤジ幼女と言ってもその実体は魔王。魔族の頂点に立ち、全生物の中で最も魔力を持つ幼女だ。

細心の注意をしておくにこしたことはない。


(待て!)

(どうした?)

(糸だ。糸が張られてる)

(うお!マジだ!)


入り口までの廊下。肉眼では見えない程度のほっそい糸が何重にも張り巡らされていた。


(多分防犯機能だろう。暗殺者とかレンジャーは姿を消せるから)

(なるほど。ハクがいてよかったぜ)

(褒めるのはここを無事に抜けてからだ)


俺が先頭となり糸をゆっくりとすり抜けていく。

抜け終わったら女風呂はすぐそこ。

音を出さないようにゆっくりと戸を引いていく。


(緊張してきた)

(ここから先はアイツの領域だ。下手すれば死ぬぞ)

(天国を見た後に死ぬなら悔いはない)


目だけ脱衣所に向けると異様な光景が目に入った。


(誰もいない?)

(そんなバカな。音はするし声もするぞ)


確かに音はするし声もちゃんと聞こえる。

シャワーの流れる音や仲間同士で談笑する声。天国がすぐそこにあるのにそれがどうしてか見えない。


(......っ!今すぐ引き返せ!)

(はぁ!?ここまで来てかよ!)

(死ぬぞ!)

「そうじゃな。死ぬの」


声と共に肌を焼き尽くす程の炎が俺達3人を襲った。

間一髪の所で防御を展開して3人とも焼死体となるのは避けられた。


「見誤った」


魔法戦に置いて魔王に勝つことは出来ない。

俺が使える魔法なら魔王が使えて当然であり質は魔王の方がいいだろう。


「よい。遊ぼうではないか。ここから脱衣所の入り口まで生きて逃げおおせたら見逃そう。ただし手加減も情けもありはせん。本気で滅するのみ」

「全速力で逃げろ!糸は剣で斬るなり燃やすなりしろ!」

「逃げ惑え人間。簡単に死なれては興ざめじゃでな!」


魔王は魔王らしい笑顔を浮かべ魔法を連射した。


「ハク!糸が剣で斬れねぇ!」

「燃えもしないぞ!」

「はぁ?だたの糸じゃないのか!」

「そういえばハクには挨拶がまだじゃったなぁ。妾の可愛いペットじゃ」

「蜘蛛くん!」


魔王の掌にいるのは遺跡で無茶ぶりをされた挙句大事なものを奪われた蜘蛛くんだった。

行く用事がないからもう安全だと思っていたのに!眷属になっていたなんて......すまない蜘蛛くん。俺が不甲斐ないばかりに!俺がちゃんと守ってやれれば......!


「妾の眷属となった蜘蛛の糸はそこらの剣で斬れるわけなかろう。ハクですら怪しいのに」

「バカだな。俺はお前に戦いを挑んだ男だ。お前の攻撃と同等の物を用意できる。あの時出来なかった戦いをしよう。今この場で!」

「よかろう!その糸が斬れるか見物じゃな!しかも妾の攻撃を防ぎながら!はっはっはっはぁ!」


魔王らしくなったじゃないか。

いいぜ。糸切って生き延びてやる!


「2人とも。全魔力を使って攻撃を防いでくれ!俺が退路を作る!」

「分かった」「任せろ!」


2人と交代し剣に魔力を込めて全力で振り下ろす。


「!?斬れない!」

「当たり前じゃろうて!眷属となった者の吐き出す糸を強化するなんて容易いことじゃ!」

「魔王の城に単騎で乗り込んだ男を舐めるな!」


『聖剣よ。その真価を我が身に託せ。王の顕現は今ここに!|王の進軍』


ただの糸相手に使うなんて悔しいが命あってこその人生だ。

剣を振る度に糸がスパスパと斬れていく。入り口付近まで斬撃を飛ばせば道は開かれる。


「2人とも走れ!殿は俺がやる!」

「頼んだ!」「死ぬなよ」

「それこそ。任せろ」


直近から撃たれる魔法の弾丸は着実に俺の体力を奪っていった。



「このまま撃ち殺してやるわ!」

「上等だ。引き際を知るのがハクという男だ。退却の術なんてない!だから!受けきってやる!」


俺は剣を縦に持ち替えると魔法の弾丸を受けきった。

ビリビリと痺れる腕に受けるたびに体力が削られていくのが分かる。

後もう少し......後一発!今だ!


「じゃあな。魔王、ルナ・エルネ!」

「小賢しい小童が!」


魔王の一撃を受けながら空中へと飛べば数えるのも面倒な程の魔法が俺を押していく。

弾丸が治まる頃には魔王が設定した一線は越えていた。


「俺の勝ちだ!」

「生き延びたぜ!」「生きててよかったぁ!」

「やるではないか。姫の体目当ての腰抜けかと思ったのじゃがな」

「やることはやって来てんだよ」

「そうかえ。じゃが、妾の勝ちじゃ」

「は。勝ったのは俺達だが?」

「これを見ても同じことが言えるかや?」


魔王が指を鳴らすと現れたのは女冒険者達。

そうだよな。俺達が逃げて来たのは女風呂の脱衣所からだ。魔王に勝てたとしてもその後ろにはこの大衆浴場を利用する女冒険者達が待っているのだ。


「3人とも。1人づつ拳を受ける準備はいいかえ?」

「悪い。ハク。巻きこんじまった」

「なに言ってんだよ。俺達の仲だろうが。やられるときは一緒だ」

「そろそろ歯を食いしばった方がよさそうだね」

『この変態共が!』


風呂場だからか振り下ろされる拳は骨によくしみる。


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