第5話 出会って5秒で即去勢とか可哀そうだからやめたげて
「キリ、アルフレット家ってのはどんな家だ」
「長い歴史を持つ貴族騎士。護衛専門の家柄よ。アルフレット家自体も位の高い貴族だし。女王陛下の護衛をするって話ね」
「なんじゃ。なにかひっかかるのかえ?」
「いや別に。純粋な疑問だ。貴族ってのは結構家業で変わったりするからな」
伝統だとかなんだとかを尊重する。
そしてなにより頭が堅い。
「そのアルフレットってのはどんな男じゃ。女好きなら股間に一撃いれねばならん」
「出会って5秒で即去勢とか可哀そうだからやめたげてよ」
聞いただけで痛々しい。
「アルフレットの当主は当然男だけど子供は娘しかいないと思うわよ。白銀の甲冑で声もまともに聞いたことないけど」
「よし。急ぐぞ二人とも!一刻も早く姿を見たい!カッコイイ姿を見たい!」
「落ち着けよ。急に訪ねても入れてもらえるわけないだろ」
「そこは任せなさい!わたしを誰だと思ってるの!勇者よ勇者!入れて貰えるに決まってるじゃない!」
その自信は以下略。
街に戻ってアルフレット家を訪ねた。
最上級貴族というわりには警備が薄く豪華さはない。玄関らしき扉を叩くと執事服の男性が出て来た。
「申し訳ございません。事前に通達無き来訪は無視せよとのお達しなのです」
「わ、わたしは勇者よ!?女神ガルドに選ばれた勇者よ!」
「申し訳ございません」
キリが元気よく勇者と名乗っても執事は首を縦には振らなかった。
「勇者がなんだって?」
「違うの!まだ有名な活躍とかしてないしわたしという存在を知らない人が多すぎるの!勇者の名前を知らない異端人が多すぎる!」
「異端人が一般の人を異端人呼ばわりしてる」
「事前に通達があればいいって話じゃ。通達を出しに行こうとするかの」
「どこに?」
「知らないのかよ......取り敢えずギルドで聞いてみるしかないな」
このたらい回し感。
「アルフレット家の通達ってどうすればいいの?追い返されたんだけど!」
「八つ当たりするなよ。受付嬢さんは悪くない」
「通達でしたら彼に言っていただければ」
紹介されたのはずっと冒険者ギルドに居座る男だった。
いつ来ても居てホームレスなのかと思った。
ただその眼光は敵意に満ち溢れていた。
「ねぇ。アルフレット家に通達を出して欲しいんだけど」
殺意の眼光に怯まず行けるのは凄いと思う。
多分殺意とか伝わってないんだろうけど。
「オレは通達人のオニス。オレが先に用件を聞こう。通達はそれからだ」
「本人に直接伝えたいの!」
「旦那様を危険な目に合わせるわけにはいかない。用件が言えないなら通達はしない!」
「なにこいつ!」
「殺すかえ?この男ならもう射程範囲内じゃが」
「命をもっと大切に。俺の連れがすまない。アルフレット家の宝石である紫の宝石が付いた装飾品が見つかったんでな。その報告に来た」
「どこでそれを?宝石が付いているということは家宝並の重要物だ。そんなものを無くしたなんて話は聞いたことないぞ。もしその話が本当なら今すぐにでも報告すべきなんだが」
中々疑い深い男だ。
まあ、これくらい警戒されなきゃ拍子抜け過ぎる。
「お嬢様も帰ったとの情報が入った。通達を入れ直ぐに案内されるだろう。くれぐれもお嬢様の剣が抜かれることがないようにな」
「ハク。出番じゃ」
「なんでそう抜かれる前提で話を進めるんだよ。抑えろ」
「善処しよう」
出来ることなら完全拘束状態にしたいが、この街には魔王を拘束出来る物はないようだ。
残念。
オニスの後に付いていき屋敷前まで来るとさっきまでなかった馬車が止まっていた。
馬車の扉が開いたかと思うと中から長い金髪を後ろで結んだ女性が出て来た。
「姫......様?」
「バカを申すな。姫の方がおっぱいあるわい」
「......それで納得できるのなんか嫌だな。ただ似てるな」
「そうじゃな」
俺と魔王が話しているとオニスが腰を折って挨拶をした。
「お帰りなさいませ。リンカお嬢様」
「ああ。ただいま。オニスもご苦労」
凛とした声に部下にも笑いかけるその姿はなんとも凛々しい。騎士の鑑のようだ。
おかげで走り出そうとするエロオヤジを止めるのが大変だ。