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瑠香さんと永野さんの過去


 月も見えない深夜三時。

 高橋マネージャーは瑠香さんを連れて喫茶店に来た。


「初めまして、瑠香と申します。夜遅くに申し訳ないです……」

 瑠香さんはショートボブでマスクをした状態で来た。真っ黒な服を着ていて顔色が悪い。

 会見の時より憔悴してるように見えた。

 永野さんは喫茶店に来て15分くらいで眠ってしまい、そのあと4時間起きてない。

 それを高橋マネージャーに伝えたら「!! 眠らせてあげてください」と声を潜めた。

 ここ10日間はベッドに横になることもあきらめて、ずっと座っている状態だったらしく、心配していたと安堵していた。


 兄貴に促されて、和室から一番遠い席に座る。

 瑠香さんと高橋マネージャー、そして俺が座る。少し離れた厨房に兄貴は座った。

 高橋マネージャーは「はあ……」とため息をついて話し始めた。


「ご迷惑をおかけします。瑠香がバカな男に動画流されてドロンですよ。ねえ、本当に居場所知らないの?」

 高橋マネージャーに言われて、瑠香さんはマスクを外して呟く。

「知らないわよ。もう全部やだ。もう全部消して消えたい。明日から海外行く」

「引き受けた仕事は終わらせないと、違約金瑠香が払える金額じゃないわよ」

「……もうスタジオ入りたくない。みんなの目が辛いの」

「自分のせいでしょーが。徳永とくながは止めろってずっと言ってたよね?!」

 高橋マネージャーは声を荒らげた。

 瑠香さんは兄貴が出してくれたお茶を、ずず……と一口飲んで口を開いた。

「……だから悪かったって言ってるじゃない。もう別れたから」

「当たり前でしょう」

「徳永と別れようとしたら動画流されたのよ?! 私だって! もう罰を受けた!! もう一生あの動画がネットから消える事はない。もういいでしょ……」

 瑠香さんはうな垂れた。

「徳永を絶対に探し出すから待ってて。ね?」


 俺はただ聞いているだけだったが、なんとなく話の筋は分かった。

 徳永という人との別れに失敗して、プライベートな動画を流されたようだ。

 そして徳永という人は姿を消した……。

 でもそれと永野さんが、どう関係してるんだろう。

 瑠香さんが口を開く。


「聖空には悪い事したから……謝ったらもう帰る。聖空も私の顔なんて見たくないだろうから」

「そんなことないわ」


 振り向くと、和室の障子が開いて永野さんが立っていた。

 どうやら起きたようだ。

 永野さんは毛布を置いて、こっちに歩いてきた。

 俺は席から離れたほうがいいだろう……と立ち上がったら、永野さんに服を握られた。

 目を見ると真っすぐで、服を握る手は強い。俺は同じ席に座りなおした。

 瑠香さんは永野さんが座るとすぐに高橋マネージャーに向かって言った。


「マネージャー、あのね……里奈も美月も徳永に写真撮られてるの。話を聞いてあげて」

「え?!」

 瑠香さんが言うと、高橋マネージャーはザーッと青ざめて、席を立って出て行った。

「あの子たち、中学生じゃない……」

 永野さんは辛そうに目を伏せて言った。

 高橋マネージャーが出て行ったことを確認して、目の前の瑠香さんが身体を机に寄せて、俺を見た。





「……ねえ、聖空。この男の子、信頼できる?」

「え……?」





 突然瑠香さんの話し方が変わったので、俺も永野さんも驚く。

 永野さんは「信頼できる」と頷いた。

「じゃあ言うけど。今までのは全て演技。ここからが本題。マネージャーが戻ってくるまでに話すわよ」

「え?」


 俺と永野さんは完全にキャラが切り替わった瑠香さんの言葉になんとかついて行く。

 瑠香さんは小さな声で話し始めた。


「あのね、聖空。今すぐマンション出たほうが良い。あのマンション長谷部専務に盗撮されてるわ」

「え……」

 永野さんが絶句した。

「私、徳永とエッチしてる動画流されたけど……流したのは徳永じゃない。長谷部専務よ。これ、事務所が借りてるあのマンションの部屋よ。わかる?」

 瑠香さんが見せてきた動画は、まあエッチしてたけど……かなり遠くから撮ったように見える。

 瑠香さんは続ける。

「里奈も美月も事務所も調べたら、そこら中から隠しカメラと盗聴器が見つかったの。たぶん、聖空の部屋にもあるわ」

「っ……!!」

「連絡したかったけどスマホ解約してるでしょ? 何よりそこら中で盗撮されてる気がするし、現時点ではマネージャーも信用できない。今日は出てるって聞いて直接来たの。今日このままマンション出たほうが良い」

「分かった……」


 永野さんは顔面蒼白の状態でコクンと頷いた。

 長谷部専務って確か、前に高橋マネージャーが「良い人なのに」って言ってた人だ。

 でも永野さん一人が嫌ってた人……。


「長谷部は合併に反対してる社長を追い出すためにネタを常に集めてた。でも社長もマネも私も、みんな、長谷部を信頼してた。疑ってたのは聖空だけよ。何か知ってたの?」

「ううん……ただ、近くにいるとゾワゾワするだけ」

「なにそれ、意味わかんない。でも正解だったのよ、結局」

 

 瑠香さんは苦笑した。

 高橋マネージャーが言っていた永野さんのカンは、本当に当たるようだ。

 永野さんは口元に手を当てて考えながら言葉を出す。


「徳永が私と社長の写真も流したんだと思ってた……」

「……実はそうなの。徳永は最初、長谷部に雇われて動いてたの。一番人気がある私たちを退かして琴音ミュージックで選んだ人間を入れるために。最初に聖空をスキャンダルで落として、次は私を。でも徳永は私を好きになってくれて事務所から離れたの。そしたら盗撮動画がUPされたってわけ」

 

 長谷部専務って人が、徳永って人と瑠香さんを同時に切り落とすために流したのか。

 瑠香さんは深く頭を下げた。


「それに……聖空のホテルの写真を撮ったのは私よ。徳永にセンターに戻れるって言われたの……間違ってた……私……」

 泣きはじめた瑠香さんの手を、永野さんが包んだ。

「もういいわ。こうして警告に来てくれたじゃない。それに動画なんて流されて……罰を受けたじゃない」

「聖空……絶対あきらめないから。みんな徳永と私が本当の恋人だって知らない。みんなが徳永追ってる間に、長谷部周辺を洗ってる。盗撮動画があるなら、絶対消すから。私……ずっと謝りたくて……だから消すから。こんなことで許して貰えないと思うけど……消すから」

「大丈夫なの? 無理しないで……」


 二人は再び連絡先を交換、そして直前まで誰が信用できそうか話し合った。

 階段をのぼる音が聞こえてくると、瑠香さんは突然声をあげて泣き出した。

 演技だ。女優さんってすげぇ……。

 戻ってきた高橋マネージャーは「なんなのこれ?!」と絶句した。

 そして収拾付かないから……と瑠香さんを連れて帰って行った。

 部屋を出る時、ちらりと瑠香さんがこっちを見た。

 永野さんは深く頷いた。




 俺と兄貴は話を整頓するように話し始めた。


「永野さんが事務所を辞めるキッカケになった写真は……これか」


 兄貴がスマホに画像を表示させる。

 それは車に乗っている社長さんと永野さんの写真だった。

 そしてもう一枚……ホテルのベッドで眠っている永野さん……少し胸元のボタンが外れていた。

 永野さんが口を開く。


「……この頃、私、強い睡眠薬飲んでて、着替えもせずに寝ちゃったの。写真は……瑠香が同室だったから……きっと瑠香なんだろうなって思った。でも車の写真とセットで見たら、アウトよね。なにより、瑠香に裏切られたのが辛かった。もう何も誰も信用できなくなったの……」


 永野さんはうつむく。

 この車の写真を撮ったのが徳永という人。

 徳永は長谷部専務に雇われて、永野さんをまず落とした。

 でもその後、瑠香さんを落とす前に……好きになってしまったのか。

 そしてすべてを知っている徳永を消すために、長谷部専務は盗撮画像を流した……。

 兄貴は口を開く。


「徳永って人は、今、時間稼ぎに逃げてるのか。あんな女の子ひとりで事務所に一人残って証拠探しなんて……出来るのかな」

 兄貴は顔をしかめた。

 確かに難しそうだ……。

「……でも一番つらいのは、全てにただ巻き込まれた永野さんだ」


 俺はそう言って、横にすわる永野さんの肩を抱いた。

 泣きつかれた永野さんは椅子から動けない。

 俺は後ろから抱っこして立たせて、和室に戻った。

 そして再び毛布で包む。

 すると永野さんがポロポロと再び泣きだした。


「……怖い、どこで何を撮られてるのか、何も分からない……」


 俺は膝の上の永野さんを抱きしめながら言った。

 永野さんがあのマンションで不眠になったのは、何か感じていたからかも知れない。


「一回うちに来ないか。客間は空いてる。うちはさすがに盗撮されてないと思うけど」

「……そんなの……」

「母さんは話せばわかってくれる。それに兄貴も」


 見ると兄貴も深く頷いて、すぐに家に電話してくれた。

 永野さんは俺の胸元の服を掴んで小さくなって泣き続けた。

 もう朝6時。外は完全に明るくなっていた。

 俺は永野さんを連れて家に帰った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 待て待て、この状態を写真撮られたらそれこそダメでしょ 避難するなら女の子の家じゃないと ・・・あっ、察したわ
[一言] 高橋さんは味方っぽいけど、、さて。 あと、徳永さんもまだ怪しい。
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