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 また別の日。初回は訓練場に二人だったけれど、今日は違う。隊員の人たちも訓練をしているのだ。だから、にぎやかな声が聞こえる。初回は初めて魔法を使うということから、警戒してほかの人が休みの日にやっていたらしい。兄上の休みを使わせてしまって申し訳ない……。


「さて、今日はもう少し難しいことをやってみようか。

 初級は使えるみたいだし」


「え、あの、特殊魔法の方はやらないのですか?」


「ああ、特殊魔法は……。

 俺が使えないから教えられないというのもあるんだが、何より使えるか否かをはっきりとさせるのを避けたいんだ」


 使えるかどうかはっきりさせたくない? 教えられない、というのはわかる。でも、はっきりさせたくないというのはどういう意味なんだろう。首をかしげていると、兄上が何とも言えない、申し訳なさそうな、気まずそうな、そんな顔をした。


「うーん、今度説明するよ」


「わかり、ました」


 きっと僕にはわからない事情がいろいろとあるのだろう。というか、僕がわかる事情のほうが少ない。それに、兄上を困らせてまで聞きたいわけではないし。……でも、兄上は僕に隠し事多いよね。確かに『僕』はまだ小さいけど、でも、中身は20歳の『陽斗』の人格も混じっているんだけど? 少しだけもやっとした気持ちを抱えたまま、練習が始まった。



「おー、隊長が魔法使っている」


「お前らは自分の訓練に集中しろ」


「えー、だって魔法って憧れるんです。

 そういや、前に手にした神剣、使わないんですか?」


「おい!」


 まずは兄上の手本から。それは前回と変わらないのだが、前回と違って興味津々の隊員がすぐそばにいるからなかなか進まないな。兄上も無視することは絶対なくて、ちゃんと返しているの少し面白い。


そしてちょっと待ってくれ。今聞き捨てならないことを言っていたよね。神剣。何それ、すごい面白そう。


「兄上、僕も見てみたいです!」


「お、スー皇子も興味ありますか?

 いいですねぇ。

 さすが男の子!

 ほら、スー皇子もそう言っていますし、見せてくださいよ」


「神剣は見せない。

 これ以上余計なことを言ったら……わかっているな」


 ひっと、息がひきつる音がする。は、初めて見た、兄上のこんなに怖い顔。僕が怒られたわけではないのに、怖い……。


「スラン皇子、そこまでにしておきなさい」


 スラン……? あ、兄上のことか。そんな呼び方、する人いたっけ? 声のした方を見るとそこにいたのはリヒト。そっか、リヒトって本当は兄上のことそういう呼び方するんだ。そんなどうでもいいことが頭をよぎる。って、そうじゃなくて、リヒトはどうして怒っているの?


「リヒト」


「スラン皇子、あなたがスーベルハーニ皇子のことを守りたいと思っていることは存じています。

 ですが、この皇宮においては武器にも盾にもなるものをすべて取り上げてどうするつもりなのですか。

 戦うための牙を与えず、あなたはスーベルハーニ皇子に何もできずに死んでいけと?」


「そんなわけないだろう!」


「ですが、私の目にはそう映ります。

 どうして、という疑問すら取り上げ、明確な答えを示さず、それでは彼はどうやって考える力を身に着けるというのです?

 情報を与えずして、どうやって自分の身を守る方法を身に着けるのです。

 まさか、自分がずっとそばで守っていればいいと、そう考えではないですよね?」


「そうでは、ないが……」


「なら!」


 これ、僕のことでけんかしているっていうことだよね? え、っと、なんだか大ごとになっていませんか? 確かにもう少しいろいろと教えてもらえれば兄上の力になれるのではとは思っていた。でも、でも……。


「はー、副長が隊長と言い合う姿を見るのは初めてだ。

 副長、俺らにはいってくることあるけど、基本隊長とは足並みそろえてたし」


 なんだか隣から聞き捨てならない言葉が聞こえてきた気がするのですが。え、え? 初めてのけんかの原因僕ですか? 僕のために争わないで! とか言っている場合ではないですね、はい。


「ここで話していては周りの迷惑ですね。

 中で話しましょう」


「ああ、わかった。

 ……スーハルも来てくれ」


 あ、僕も行かなくてはいけないのですね。逃げられないかなー、と思ったけれど無理らしいです。周りからもなんだか同情の視線を向けられる中、三人で中へと入っていった。


「それで、一体あなたは何を考えているのですか?」


 座席に着くなり、リヒトがいきなり切り出す。お茶を出す間もなく始まったこの話し合いは、初めから重い空気で始まってしまった。き、気まずい……。


「何を、か。

 俺が考えていることは一つだけ、スーハルを守ることだよ。

 この皇族の毒にやられないように」


 皇族の毒。その言葉に、リヒトの言葉が止まる。きっと心当たりがあるのだ。うーん、まったくわからないけれど、でも権力が集まるところにはどろどろとしているイメージある。そして、そこで僕なんかが生き残れる気もしない。


「ですが、皇族である以上ここで暮らしていくのでしょう?

 きれいに、大切に守り続けるだけができることではありませんよ」


「だめだよ、リヒト。

 スーハルだけはここに染めてはいけない」


 寂しそうに微笑む兄上にどんな言葉を掛けたらいいかわからなくなる。どうして、そんな風にほほ笑むの? 僕は兄上さえいてくれれば、ここで頑張れるのに。


「それは、どういう……?」


 不意に兄上が立ちあがる。そして僕の側へやってくると強く抱きしめられた。えっと、本当にどういうこと?


「スーハル、君はね俺たちにとっての救いなんだ。

 俺と、母上にとっての。

 だから、守ると決めた。

 君が生まれた瞬間、俺たちはきっと君を守るためなら生きていていいんだと思えた」


 本当にどういう意味? 全然わからない。リヒトだってぽかんとしているじゃないか。どうして僕が生まれたときに、母上と兄上は救われたんだ? それに、そもそも何から救われた?


「あの、スラン皇子?

 さすがに説明がなさすぎます。

 ちょっとついていけない……」


 代弁してくれて助かります、リヒト。リヒトの言葉に、兄上は大きく息を吐き出す。もう一度ぎゅっと抱きしめた後、兄上が僕から離れていった。


「まあ、その話はまた今度。

 だが、そうだな。

 母上が亡くなったこともあり、守ることだけに少し神経質になりすぎていたかもしれない。

 リヒト、スーハルに特殊属性の説明をお願いしていいか?」


「え、あ、はい。

 それは構いませんが……」


 リヒトが戸惑いながらうなずくのを見ると、兄上はどこかへと行ってしまった。少し兄上の考えが変わったってことかな?

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