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どうしてこうも問題は次々と起こるのか。思わず頭を抱えたくなったのは仕方がないことだと思う。急に人手が足りなくなったとかでとある宮の手入れに駆り出されただけでついていないと思ったのに。普段掃除をしているところから少し離れた、自然に囲まれたところにその宮はあった。
どこか、母と過ごしたところに似ているが違う。あそこは壊されてしまったはずだから……。とにかく、そこは長年放置されていて家の中は埃だらけ。それなのに急にそこでお茶会をやると言い出したのだ、あの皇后は。その一言を受けて俺たちは大いに慌てた。皇后命令とあれば従うしかないが、一体いつもの何倍も手入れに時間がかかるのか……。ただの、いつもと違ったところでお茶会をしたいという思いつきに振り回された結果だ。
これが問題ごと? いや違う。ここまでだったらいつもの皇后のわがままだった。いや、もちろん面倒だが。では何が問題か。
「痛いではないか!」
そうなぜか俺の手の中にいるこの人……。
「ご無事ですか、皇子!?」
会いたいと思ったことは一度もないルックアラン皇子。数年ぶりに見るこの人は特に変わっていないようだ。そんな風に現実逃避してみても現状は変わらない。さて、何でこんなことになっているのか。話は少し前にさかのぼる。
―――――――
「あー……、これは先に上からやるべきか?
いや、でも全部終わるとは思えないから最低限の場所を?」
あまりにもな様子にここに派遣された人たちはそろってもう笑うしかないといった様子。それも理解できるほど、ここの手入れには時間がかかりそうだった。もとはまっさらな壁だったのだろうが、ツタが絡まっているとかさ……。
「もうなるべくこの状態を生かすことにしよう。
各自手分けをして掃除だな」
そうして俺は振り分けられた玄関周辺を三人ほどで掃除することになったのだ。中から埃や砂といったものをまず掃きだす。ここはすぐに外に捨てられるからいいな、とか思っていたら景観的にさすがにそれはまずいらしい。
かき集めて袋に詰めて。それが終ると次は磨き上げて。ようやく任された場所の終わりが見えるようになったのはすでに日は傾き始めていた。陽が高いうちに始めていたはずなんだが……。だがお茶会は明後日。明日一日で設営をすればいいならば、これはなんとか間に合いそうだとほっとする。それにしてもどれだけお茶会を開催してるんだよ、と思わず呆れてしまう。また違う令嬢を招くとか正直知らない。
とりあえずここの掃除を終わらせよう。そう気合を入れなおした時にそいつはやってきた。
「う、うわぁあああああ!!‼‼
だ、誰かとめろぉおおおお」
「皇子、落ち着いてください!」
どどどど、という音共に聞こえてきた男性の叫び声。正直嫌な予感しかしない。だが、視線は自然とその騒音の方を向いていた。
「あれは……、ルックアラン皇子ではないか?」
ぽつり、とその場にいた一人がつぶやく。うわ、まじか。会いたくない、非常に会いたくない。だが、そんなことを考えている余裕なんてあるわけない。そう、例の皇子は暴走しているとしか思えない馬に乗ってこちらに一直線にやってきているのだ。
『どうする?』
「と、止めて!」
どうするって、そんなの考えている余裕ないじゃん! とっさにシャリラントにそう答える。すると目前に迫っていた馬は急に方向転換し、その反動に耐えられなかったのか皇子が俺の手の中にいるという構図に。本当にどうしてこうなった……。
「痛いではないか!」
「あ、その、すみません?」
いや、俺が謝る必要は一切ないと思う。だが、ついそう口走っていた。すぐに無事ですか!? と何人かがこちらへとやってきた。怒った様子でこちらを見上げたルックアラン皇子。その時ピタリと動きを止めてこちらをじっと見つめる。まさか、ばれた……?
たらりと冷や汗が垂れるのがわかる。そのまま動けないでいると不意にその視線が外れた。
「お前、名は?」
そのまま立ち去ってもらえるかと思ったが、そうはいかないらしい。俺の手から立ち上がると服についた汚れをはらいながらそう聞いてくる。さすがにここで嘘を言ってもすぐにばれるだろう。
「ハールと申します」
「ハール、か」
それだけ言うとルックアラン皇子は迎えに来た人たちと共に去っていった。正直もっと絡まれると思ったから、ここまであっさりしているのは意外だ。まあここにやってきたのが例えば皇后陛下だったならこうすんなりと終わらなかったのだろうが。
結局馬も無事に回収できたよう。周りもどうして急に馬が暴走したのか首をかしげていたが、その解明は俺たちの仕事ではない。さっさと掃除を終わらせるべく、再開することにした。




