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 翌日、もう体調は大丈夫だったが休めとベッドに押し込まれてしまった。ここに来てからあまり休みがなかったのも確かなので、結局言葉に甘えて今日も休ませてもらうことになった。それにしてもどうしよう。一日はさすがに寝れないし、かといってこの状況で外で体を動かすのも気が引ける。


『ハール、大丈夫ですか?』


 おわっ、びっくりした……。さあどうするか、と考えていたら急にシャリラントが現れたよ。なんだか久しぶりに見かけた気がする。


「ずっとそばにいたのですが、出ていくタイミングもありませんでしたからね」


 周りを確認すると、ふわりと実体化する。相変わらずの見た目ですね、はい。


「それで、大丈夫ですか?」


「大丈夫って……。

 ああ、うん、大丈夫」


 何をそんなに心配しているのかと首をひねりたくなるほど、シャリラントの目は真剣だった。俺、そんなにだめそうだったかな。


「まあ、大丈夫ならよいのですが」


「心配してくれてありがとう」


 素直にお礼を言うと皆さんに任されてしまいましたから、と言い訳がましく言っている。皆さんって、思い当たる人数人。いつの間に交流をはかっていたのかも気になるが、まさかシャリラントに俺を任せていたとは。確かにこの場において一緒にいられるのはシャリラントだけだけどさ。


「そういえば、シャリラントは外の状況を知っているのか?」


 俺がいないところでリキートたちと交流をはかっていたシャリラントだ。きっと俺がいないところでもほかの人と会えるはず。今は俺がリキートたちと連絡をとるのは難しいが、どうしているのかは知りたい。


「知ろうと思えばいくらでも。

 視覚共有でもしましょうか?」


「え、そんなこともできたのか……?」


 ここにきてまさかの能力が。え、今までそんな話したことないよな。どういうことだ、とシャリラントを見るがまあ言ったことありませんから、と笑う。いや、まあ今まで必要になっていなかったからだろうけど。一体他には何ができるのかいっそ怖いよ。


 とはいえ暇なのは確か。せっかくなので視覚共有をして久しぶりに外を見ることにした。


「こうやって外行くときシャリラントどんな状況なんだ?」


『実体化はしていないのでほかの人には見えていない状況ですね』


 いきなり人型のものが空を飛んでいたら驚いてしまうだろう。見えないということで安心して見ることに。


「あ、そこ……」


 リキートとフェリラのところに。その言葉を聞いてシャリラントはどこかをまっすぐ目指していた。部屋を出たところから視界を共有していた関係で、多少酔ってしまったわけですが。その目的地は見覚えのある、ひどく懐かしいもの。

 暮らしていたのはあまり長くない時間だったけれど、それでもかけがえのない思い出も、どうでもいい思い出もいろんなものが詰まっている場所。


「変わってないなぁ」


『ハール?』


「なんでもない。

 二人ともそこにいるのか?」


『ええ』 


 そういうとシャリラントは建物の中に入っていく。今は朝の訓練を終えて朝食を食べているところだったらしい。食堂に人が集まっていた。あ、レッツ……。まだそこにいたんだね。騎士団にいたころ、よく俺に剣を教えてくれた俺の師匠。時がたって髪は白髪が増えたし、しわも増えた。でも、その気楽な笑みは変わらない。


 そんなレッツのすぐそばに二人はいた。レッツさんが何かを言って、それを受けて二人が楽しそうに笑う。その様子に無理はなくて。二人がこの騎士団でちゃんと居場所を得ていることの証に見えた。


「声は、聞こえないんだな」


『今はまだ、ですね』

 

 食事を終えた面々はそれぞれの業務へと移っていく。訓練を始める人が居れば、書類仕事をする人もいる。リキートは書類仕事、フェリラは訓練に行くみたいだ。俺に対して気を使ったのか、それを確認した後シャリラントは建物の中やその周辺をくるくると回ってくれた。懐かしい宿舎も。


「ハール、起きてるか?」


 ノックとともに優しく声をかけてくれるグルーさんがやってくるまで、内緒の騎士団見学は続いた。途中泣きそうになったが、ぐっとこらえてみて回った騎士団内部は俺がいたころと大して変わったいた様子はない。……、ここは俺の帰る場所になってくれるのかな、なんてあり得ないことを考えてしまったほど。最後まで俺の部屋にも兄上の部屋にも行けなかったが、そこが変わらず暖かい場所であることはよくわかった。


 すべてが終ったら、そこにも一度足を運びたい。きっと実際に目で見るのはまた違った感覚だろうから。でも、今は俺のやるべきことをやらないと。朝とは違って、今を見ることができたような、そんな気持ちになった。



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