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「まずはよく使うところから。

 俺が任されるのは荷運び、掃除が主だな。

 俺が指導係ってことは、ハールにももちろんやってもらう、が……」


 まだ気慣れない仕着せに身をつつみ、グルーさんの後ろをついていく。そして、振り返ったかと思ったら俺の体を上から下にじっと見つめる。あ、これ荷運びできないって思われてそうだな……。


 これでも剣振り回せる程度には筋肉あるんだが。まあ、魔法を使った方がもちろん楽なのだが、下手なことをするわけにはいかないし。


「うん、無理のないようにな」


「ありがとうございます」


 うん、気にしない。そのままグルーさんの説明は続いていく。


「掃除の場所は都度変わるから、その時でいいか。

 まずは厨房。

 そこからに馬車が付くところまで行こう」


 


「ここに外からの荷物が運ばれる。

 んで、このルートをたどって……」


 ちらちらとこちらの様子を伺いながら進んでくれるグルーさん。しっかりとついていけています。今もちょうど荷物が届いたようで俺たちと同じ格好をした男性たちが何人か構えていた。


「おー、グルーじゃないか! 

 お前も今日は荷運びか?」


「いや、今日は新入りの案内だ。

 頑張れよ」


 なんだ、と答えるその人の目が今度はこちらに向いた。面白がるような視線がいくつか向けられる。話していた男性だけではない、この場の全員の視線がこちらに向いたのだ。さすがに居心地が悪かったが、ここで引くわけにはいかない。


「初めまして、ハールと申します。

 これからよろしくお願いします」


 丁寧に見られるように意識をする。ここで敵対するのは避けたい。頭を下げたままじっと待つ。そしてあまり時間が経たないうちに肩を叩かれた。


「来たばっかで緊張しているのかもしれないが、そんなかしこまらなくても大丈夫だ。 

 ほら、顔上げて」


 グルーさんの言葉に素直に顔を上げると、なんだかぽかんとしている。どうしたら、と見ていると少しして誰かが笑い声をあげた。


「お前、俺たちにまでそんなかしこまっていたら、ずっと頭下げてることになるぞ。

 もっと気楽にな。

 いやー、お偉いさんの紹介で人がくるってんでどんな奴かと思ってたら」


 男性の言葉に同意するようにうんうんとうなずく人多数。まあ、確かに。全員に頭を下げていたら、ずっと頭を下げ続けることになってしまう。それにしてもそんな面白そうにこっちを見ないでくれ……。


「それにしてもほそっこいなぁ。

 本当に荷運びできるのか?」


「ああ、もうわかったから。

 お前らはさっさとそれを運んじまえ。

 また遅いって怒られんぞ」


 グルーさんの言葉にやべっ、と声を上げると慌てて荷物を手に取る。意外と気がいい人が多いみたいで安心した……。皇国が相当疲弊しているという話を聞いていたから、結構警戒していたんだけど。


「すまないな、あいつらも久々の新入りに興味があるんだろ」


「久々、ですか?」


「ああ。

 とりあえず、ここに馬車が付くから。

 ここから厨房や衣裳部屋、貯蔵庫などに運んでいく」


 次は貯蔵庫に行こう、そうグルーさんが言ったときに周りがにわかに騒がしくなった。先ほどまでは人通りもそこまで多くなかったのだが、急に急ぎ足の人が増えてきたのだ。どうしたのかとグルーさんの方を見ると苦い顔をしている。


「あの、何かあったのですか?」


「ああ、いや。

 きっとまた皇后陛下が急に茶会でも開くと言い出したんだろうな。

 明後日には夜会もあるっていうのに」


「茶会に夜会、ですか?

 今この時に?」


 それってまず間違いなくかなりお金かかっているよね。皇女が炊き出しなどを行うことで聖女と呼ばれるほど民が疲弊しているこの時に、そんなに頻繁に開いているのか? 思わず嫌な顔をしてしまったのだろう。グルーさんは軽く笑いながら、そういう発言はここでは控えたほうがいいと言った。


「ここのやつらは賛成派が多数だ。

 にらまれるのも嫌だろう」


 グルーさんも苦い顔していたよね、とはさすがに言えずにいるとそんなことを言われる。賛成派が多数?


「どうしてですか? 

 他にいくらでもお金の使い道はあるでしょうに」


「ここにいればおこぼれにあずかれるからな。

 お貴族様が残した豪華な食事を片付けるときにつまみ食いしたって誰も怒らない。

 他にもいろいろとな」


 ……なるほど。確かにこの場限りの利益を求めるなら、皇后には贅沢をしてもらった方がいいのか。納得はできないが。


「さて、さっさと案内して休もう。 

 ハールももう疲れているだろう」


 空気を変えるようにグルーさんが明るい声を出す。確かにここで話していても何もできない。早く休みたいのは確かだったし、ひとまず歩き出すことにした。


「あ、グルー!

 ちょうどいいところに」


 廊下を歩いていると急に話しかけてきたのはグルーさんと同じ年くらいの男性だった。手には何かの紙を持って慌てている様子だ。


「どうした、レード」


「皇后陛下が明日の昼過ぎに茶会を開くと仰せでな。

 茶葉の在庫が心もとないから、買い付けに行ってもらいたいんだ。

 最近物流も不安だからこういうのは早く行った方がいい」


 頼む、とレードと呼ばれた男性はグルーさんに手に持っていた紙を渡す。あれ、買い物リストだったのか。グルーさんはそこで俺の方を振り返った。


「今日じゃないとまずいのか?

 新入りの案内をしていて、終わったらそのまま休んでいいと言われたんだが」


「新入り?」


 男性はそこで初めて俺に気が付いたようだった。不意に目があい、何に驚いたのか軽く目を見張る。だが、俺に何かを言うことは特になく、グルーさんに今日行くように頼むとあわただしくどこかへ消えてしまった。



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