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おいしい食事にお腹がいっぱいになる。そのあとは明日に備えてさっさと寝ようと横になったとき、隣にリヒトがやってきた。
「あの、スーハル皇子……」
「どうかした?」
その様子がなんだか暗い。えっと、どうしたんだ?
「聞いていいのか、迷ったのですが……。
その髪色はどうされたのですか?」
「髪色?」
あ~……、なるほど。そうだよね。久しぶりに再会したら髪色すっかり変わってたんだもの。そっと髪に手を触れる。そこには一度変わったきり戻らない白の髪が。そう言えば、結構伸びてきたな。
「あの?」
おっと、思考が脱線していた。リヒトの顔を改めてみると、ものすごく気づかわしげにこちらを見ている。ごめん、そこまで深い理由はないんだよね。
「うーーん、どうって言われても。
気が付いたら変わっていたんだよね」
「気づいたら、ですか?」
「そう。
皇国からこっちに逃げてきて、そして気が付いたらこうなっていた」
それしか言いようがない。俺の言葉にリヒトは微妙に納得がいかない表情を浮かべる。でもこれ以上説明のしようがない。白い髪も今では見慣れてしまった。
「もう寝ようか」
久しぶりの長距離の馬車移動。自覚はなくても疲れていたのだろう。リヒトと話をしながらもうとうととしてしまう。
「はい、おやすみなさい」
眠りかけながら、うっすらと目を開ける。すると、リヒトがこちらに伸ばしかけた手を戻すのが見えた。リヒト……?
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ゆっくりとサランと話ができたことで、ずっと心の奥に引っかかっていたことが解消できたようだ。考えることが多すぎて、意識の外に追いやっていたけれど、こうして話すことができて本当によかった。それにしても。
「よく寝た……」
昨日寝落ちした後、本当にぐっすりと眠れたようだ。本当に生まれだけはあれなのに、ちゃんと寝れるって長所だわ。ふわぁと一つあくびをする。イシューさんなんかはもう起きているみたいだ。
「おお、早起きだな」
「おはようございます。
イシューさんの方が早起きですね」
「ん?
ああ、いや、さすがに見張りがいないのもまずいだろう」
見張りがいないのも……、え? まさか!?
「寝てないんですか!?」
おう、といい笑顔のイシューさん。いやいやいや、それはまずいだろう。俺、完全に寝こけていたぞ。
「あの、すみません!」
「いや、気にするな。
俺は人よりも体力があるからな、数日寝なくても大丈夫だ」
「でも……」
「お前らは皇国まで行くんだろう?
休めるときはちゃんと休まねえと。
ほら、起きたら顔洗って朝食でも用意してくれ」
「は、はい!」
申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ、確かにイシューさんの言うとおりだとひとまず動くことにする。ひんやりと冷えた水で顔を洗うと、シャキッと目が覚める。夜の番をイシューさんに任せきりはさすがにまずいから、今晩どうするかは要相談だな、と思考を切り替える。
顔を洗って戻ってくると、もう起きている人がほとんどだった。よし、さっさと朝食作っちゃおう。
朝食は簡単に。パンをスライスして、上にハムとチーズをのせる。それを火で軽くあぶれば完成。うん、すっごい簡単。だけど、ハムに塩味があるからか、これが意外とおいしい。これにあと卵があったら……。まあ、持ち運びを考えると難しいか。
そこからみんなで朝食を食べると早速出発することに。旅路は順調に進み、予定通りドベルでイシューさんたちとは別れることに。それまでは夜ごとに俺はサランたちと話した。それは穏やかで、とても楽しい時間だった。
「なあ、なんか変わったな、ハール。
安心したよ」
別れの時、サランは穏やかな笑みを浮かべてそう言った。なんか変わった、安心した。その言葉に明確な心当たりがあるわけではない。でも、そうだ。リキートたちにもそう言われたんだ。
「ありがとう」
なんでかはわからない。でも、その言葉が自然と出てきたんだ。すると、サランが一歩こちらに近づいてきた。
「なあ、ハール。
あの時、俺が変わるのが怖いって言ったこと覚えているな?」
急に何のことを、そう思いつつうなずく。
「でも、そうじゃないんだってわかったよ。
どう変わるのか、それ次第なんだな。
ありがとう、ハール」
また会おう、そういって今度こそサランは去っていった。また会える、うん、そうだよね。
「また会おうな!」
遠くなっていくサランたちに向かって全力で叫ぶ。本当にまた会えるのはわからない。これから皇国でどんなことが待ち受けているのかも。でも、また会いたい。だから約束をするんだ。
「私たちもそろそろ行きましょうか」
「はい」




