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案内されたのは、王立学園の中のとある一室。ずいぶんと居心地がよさそうな空間だ。そしてそこにセットされているソファーに俺を呼び出した人は座っていた。
「やあ、今日は面白い試合を見させてくれてありがとう。
養成校の学生であそこまで魔法を扱える人がいるなんてね」
「い、いえ」
俺を呼び出した相手。それは大会に臨席していた王家の人。狙い通り、か? それともまた別の用? そう言えば、以前ケリーが王太子がどうの、と言っていたな。この人は誰だ……? 王家の人っていうところしか聞いていなかった。
えーっと……、そうだ、確か国王陛下の弟とか言っていた気がする。名前はやっぱり思い出せないが。王太子ではないか。まああの一件はまたいつか考えるとしよう。今はひとまずこれからのことをどうにかしなければ。
「……どこからどう話したら、と思っていたんだが。
単刀直入に聞こう。
君は、何者だ?」
「何者、ですか?
ハール、と申しますが」
そんなあいまいな聞かれ方をされても困る。俺に答えられるのはこれくらいだ。
「ああ、まあそうだろうが。
ここに来るまで一体どこにいた?
どうやって暮らしていた?」
「国のはずれにある孤児院で暮らしていました。
そこを出ていくようにと訪れた司教様に言われ、その先で出会った人と冒険者養成校を目指しました。
それで今、ここにいます」
「孤児院?」
信じられないといった様子の王弟に、俺もうなずくしかない。俺がこの国の孤児院に一定期間いたことは変えようのない事実なのだ。そしてもう一度何か魔法を使ってみてくれないか? と言われた。
何かって一番困るんだが。まあ、周りに被害が及ぼさないように適当にっと。ということで、小さな炎を手のひらに作り出した。
「ああ、やはり。
見間違えでもなんでもなかったんだね」
とうとう頭を抱えだしたこの人に確信を持てた。俺が皇家の直系だとわかったのだと。よかった。さすがに服が破れるどうこうはできなかったのだ。でも自分から言い出すのもまずい。それこそ、なぜお前はここにいるんだという話になるからな。
だから俺が何も言わずにこの人が察してくれたのは本当に助かった。
「君は……アナベルク皇家の人間だね?」
どう、反応したらいいのだろう。あっさり認めていいのか? それとも否定する? どのみち、この人の言葉は疑問形の形をとっているようで確信を持っている。結論は変わらない。だから俺はあえて、気が付かれたくなかったかのように押し黙った。
「本当に、なんでそんな人がこんなところにいるんだよ……。
早急に連絡を取った方がいいな。
あそこ今関わりたくないのに……」
俺が目の前にいるとわかっているのか、わかっていないのか。なんかものすごくぶつぶつと言っている。だが、ひとまず俺が考えた最善の方向に進んでいるようで安心した。
「ああ、とにかく。
君にはこのまま王宮に来てもらおう。
すぐに皇国に人をやるから、それまでは部屋から一歩も出ないでくれ」
わかったな? というこの人に恐る恐るといったていでうなずく。さて、この後は一体どう転んでいくのだろうか。
そこからはまさに腫れ物に触れるような扱いを受けた。丁寧だが関わりたくないといった様子がわかる。俺としても積極的にかかわらなければいけない理由はないし、何より顔を真っ青にして震えられると申し訳なくなる。
ここにきて翌日には寮に置いてきた荷物、そしてお金も手元に来た。だけど、あれ以来リキートにもフェリラにも会えていない。最後に会ったとき、リキートは何か言いたげな顔をしていたけれど一体何だったんだろう。それがずっと頭の中を回っていた。
本当は、ここから先のことを考えなくてはいけないのに。
『ずっと閉じこもって、気がめいっているのでは?』
(そうなのかな?
でも仕方ないよね)
『あなたが納得しているのならばいいのですが。
ほらほら、元気出していきましょう?』
(いや、元気出してもやることない)
『素振りでもしていては?
体はなまりますよ』
(怪しまれない程度に、トレーニングはしているんだけどな。
さすがに素振りしだしたら、よけい怪しまれないか?)
『それは……』
(ま、ありがと)
ここでこんな鬱々としていても仕方ないよな。こうなるとわかっていて、いろいろ行動していたんだから。拷問や絶食とかされていないだけ感謝しないと。
そして、そこから数日。とうとう皇国からお迎えが来たらしい。思ったよりも早かったのか遅かったのか、よくわからないが。とにかく今日、迎えに来た人と会えるらしい。誰が来たのか……。シャリラントがいるからどうにでもなるはずだが、皇国までの道のりでずっと命を狙われ続けるのも正直疲れる。皇帝、皇后の手先だったとしてもどうにか俺に敵意を持たない人だといいなー、とかさすがに望みすぎか。
部屋にノックの音が響く。来た。
どうぞと短く答えると、数人入ってきた。先頭はあの時の王家の人。それと騎士だろう人達も一緒にいる。そういった人たちに紛れて入ってきたのは、予想もしていなかった人物だった。




