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「それにしても、お前らの場合、もうパーティを組んで財布が共有になっているから、誰がどれを倒したのか覚えてなくて済んで楽だな」


 職務怠慢じゃないか。ちゃんと働け、と言いたいところだが、一応ちゃんと働いている。俺たちの剣やフェリラの弓についてのアドバイスを、意外にもきちんとしてくれるのだ。それでも、こういう発言でプラスになった感情がまた下がっていくのだが。


 そのあとも俺たちはいたって順調に進んでいく。そのせいで前に出発したグループに合流してしまった。


「ひぃ、こ、来ないで!」


「で、でかすぎるって」


「きゃーーーーー!」


 う、うるさい……。なんでこんなに叫んでいるのか。


「あー、妙に冷めた目で見ているが、普通あんなもんだからな?

 むしろ叫びもしないお前らがおかしいというか……」


「叫ぶのが、普通?」


「だって怖いだろ」


「でも、魔獣自体は身近だったからな~」


「はは、僕も最初はあんな感じだったな。

 でも、叫んでいたら逆に危ないって気が付いたから」


 怖い、怖い、恐怖。リキートも最初は怖かったのか。自分は? 怖く、なかった。それは、シャリラントがいたから? いや、違う。これ以上の恐怖を知っているから。だから、俺は。


「氷よ、その大蛇の身を貫け。

 炎よ、そしてその身を焼き尽くせ」


 ザシュッ、という音の後にゴウゴウと燃え上がる。そう、こんなにも便利なのだ、魔法は。こんなにも強力なのだ、自分は。そしてシャリラントもいる。まだ詳しくはどんな剣なのかわからない、しかし、味方でいてくれるのだ、最強の武器が。


「あ、あの、ハール!

 もういいから、この火、どうにかしてくれないか?」


「あ、ごめんなさい」


 しまった、いつの間にか大蛇の大部分が燃えていた。その周りで悲鳴を上げていた同級生たちもその様子をぽかん、とみている。


「さすがハールだな」


「ほんと」


 そんな風に平然と受け止めているの、二人くらいだぞ。あ、中心に魔石が落ちている。それまで燃やすことにならなくてよかった。


「こんなでかい魔石、早々見ないぞ?

 はぁ、今日の演習はこれで終わりだ。

 養成校、戻るぞ」


「え、でももっとできます」


「元からこの中長倒すのが、最終地点って決まってたんだよ。

 まさか本当に倒しちまうとは思わなかったが」


 せっかくのってきたのだ。もっと進んでみたがったが……、だめと言われるのならば仕方がないか。ここで無理に進まなければいけない理由もない。卒業までにも何度かダンジョンには行くらしいし、どこかのタイミングでは長のところまで行ってみたい。



「それじゃあ、今日はゆっくりと休むように。

 本日の報酬額はまた連絡する」


「はー、終わった!

 今日はゆっくり休みたいね」


「そうだね。

 それにしても、ダンジョンによって出てくる魔獣があんなに違うんだ」


「今日はなんだっけ。

 蛇に蝙蝠に、トカゲにネズミ?

 ネズミって爬虫類だっけ」


「いや、違うと思う」


「……少し外出てくる」


「え、どこに?

 今日はもう休んだ方がいいって」


「すぐ戻る」


 外に出るとはいえ、どこかに買い物に行くわけでもない。ただ、少し整理がしたかった。それ以上説明できる言葉もなく、俺はひとまず寮の近く、人があまり来ないところに向かった。



『なんだかずいぶんとご乱心ですね』


(……一つ、気が付いたことがあったんだ)


『なんでしょう』


(俺はさ、やっぱり魔獣が怖くないんだ。

 俺にとって怖いのは、きっと死ぬことじゃない。

 手に入れた幸せを、失うのが、一番怖いんだ……。

 だから、魔獣と対峙しても怖くなかった。

 だから、俺は、向き合えないんだ)


 泡沫の間で、記憶を開けていくとき。幸せな記憶のはずなのに、それにはいつも痛みがついて回っていた。それがなんでか、ずっとわからなかった。でも、今日。目に見える恐怖におびえる人たちを見て、気が付いてしまった。


 無理に封じて、そうすることで自分を激情から守ってきた。その時は必死すぎて気が付かなかった。まさか、2度も自分を苦しめることになるなんて。


『それで、あなたはどうしたいと?』


(苦しみながらも、少しずつ思い出すようにして。

 いろんな感情が一緒に入ってきた。

 ……なあ、俺は醜いな)


『……?』 


(暖かな思い出に嬉しくなって。

 でも、次の瞬間にはそれがすでに失われたことを思い出す。

 その、憎しみも。

 そして、俺には今、すべてを覆す力があることを思い出すんだ)


『はい』


(こんな目に合わせたあいつらが、のうのうと生きているのが、許せない。

蓋をして、外だけ身綺麗に見せたって、俺の中身はこんなにも醜いんだ。

……だから、願ってしまう。 

 あいつらを苦しませてやりたいと。

 あの時、願ったことの続きを、この手で。

いいのかな、こんな俺で?)


『私は力になります』


 決断するのは自分だ。そう言わてれるんだろう。本当にいいの? 二人はそんなこと望んでいない。こんなことを口にするのすら、大罪を犯しているのではないか、そんな気持ちになる。それでも。


「俺は、自分であいつらに罰を、与える」


 はは、情けない。こんな時に声が震えている。そんなにも怖いか。


「でも、正当な手段で、だ。

 あいつらみたいに、自分が気に入らないから罰するなんてしない」


『それならどうするんですか?』


 っと、口に出していた。さすがに誰かに聞かれたらまずい。


(あいつらがまともに国を統治していると思うか?)


『い、いえ。

 思うか、というか、していません。

 これ以上詳しいことは言いませんが、断言しましょう』


(まさかここで断言されるとは……。

 まあ、いい。

 俺には国を統治する能はない。

 だが、相手は皇帝と皇后、下手に手を出すと国が崩れる。

 それを避けるには、下地を作ってからでないと)


『いいのですよ? 

 殺してすっきりでも。

 あなたにはその権利と力があります』


(言っただろ、あいつらと同じことはしないって。

 それだけは絶対にしない)


『まあ、それがあなたの願いならばいいのです。

 よかった、ようやくあなたは……』


(ひとまずは養成校を卒業しよう。

 あそこでは戦闘の基礎を学べる)


『ええ、それがいいでしょう。

 焦ってはだめです。

 大丈夫、あなたがこれまで我慢した7年よりもずっと短い時間です』


(はは、慰めてくれるんだな。

 ……うん、ありがとう)


 これで、いいよな、何が正解とか、わからないけれど。ああ、でも。リキートとフェリラはどうしよう。なんだかんだ、あの二人といるのは楽しかった。それは本当の気持ちだ。


『私が言うのもおかしいですが、そんなに深く考えなくてもいいのでは?

 あなたはどうも極端だ。

 もっと、楽に生きてほしいのですが……』


(まあ、これは性格だからな)


 本当、損な性格していると思う。でも、これからどうしたらいいのか、流されるままの日々ではなくて少し向かうべき場所ができた。それだけでも、「これから生きていく未来」が見えてきた気がする。

 まあ、具体的な案は一切ないのだが。


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