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あの日から2週間。毎日頑張った。来る日も来る日も基本俺、たまにリキートが薬草を摘み、たまに洗濯しに行き、何より大変だったのはフェリラの勉強だった。筆記もある、とのことであの日から勉強を開始したのだ。
ただ、フェリラはそもそも一部しか文字が書けない! そこから始まった。2週間で間に合うわけないだろ、というのが正直な感想だった。ただ、そこは宿につられた俺たちの強さを発揮。フェリラの回復魔法を無駄遣いしながら、徹夜しつつ詰め込んだ。だ、大丈夫、だよな……?
「あああ、日の光がまぶしい……」
「久しぶりに外出たもんな」
「うん……」
「でもなんとか詰め込み終わった、はずだ!
本当によく頑張った、僕たち」
二人ともだいぶ消耗しているな。俺はまあ、体力はあるのだろう。そこまで疲れ切ってはいない。こんな状態で果たして大丈夫なのか、こいつら?
「おお、人がいっぱいいる……」
「そりゃそうだよ。
絶好のチャンスなんだもん」
絶好のチャンス、か。正直俺はリキートについてきただけだから、あまりピンとこない。でも、フェルラもここまで真剣な顔をしているのだ。きっと同じ気持ちなのだろう。
「行こう」
三人でパーティとして受付を済ませる。Gランクのうちにパーティを組むのは珍しいが、できないことはない。だから、俺たちはすでにその申請をしていた。リーダーはもちろんリキート。毎日依頼をこなさないと追い出される宿だが、毎日俺かリキートが依頼を3人分達成することで、追い出されずに済んだのだ。そして、冒険者養成校はギルドカードで試験の受付をしているため、自然に三人一緒に受付をすることになった。
さて、最初の試験は筆記。これはわかるものもあれば、まったくもってわからないものもある。ひとまずわかるもの、つまり最低限の知識問題は確実にとる。そして、一番大切なのはこれだろう。
フェリラの勉強を見ているとき、思ったことがある。ここを受けるのは、恐らくフェリラのように文字が書けない人も多いのでは? と。そのうえで筆記試験を取り入れているのだ。そこまでは問題の正解数は重視されていないのではないか。
そう考えてからはひたすら文字をかける、理解できる、最低限の知識を持っている、それを示せるようにした。幸いにも俺もリキートももとの出があれだから、文字は一通りかけるし、最低限の知識もある。この大陸、お金も同じなら、文字も一緒。おかげでフェリラに教えることができた。
そして、そのうえでおそらく最も重要な問題。『あなたにとって冒険者とは?』。こういう明確な答えがない問い、あると思ったんだよね。ここをしっかりと回答する。長々とした回答は必要ない。一つ、大切なことを書けばいい。だぶん筆記はそれでどうにかなるだろう。
「ハールって頭いいよね。
本当に最後に答えのない問題出た」
「ハールのおかげで焦らずに解けた!
ありがとう」
「うん、二人ともどうにかなったみたいでよかった。
次は魔力測定か」
さて、どういう風に魔力測定をするのか。これは数人ずつ呼ばれて測定を行っていくらしい。ここに来る人、魔力持っていない人ばかりだから、そんなに時間かからないとかなんとか……。でもそんなことないな、うん。一人一人結構かかっている。
「ね、二人は最後の質問なんて書いたの?」
「うーん?
僕は……端的に言うなら力」
力……。一人で生きていく力を求めて、家を出てこうして冒険者養成校を受けているのだ。確かにぴったり。
「フェリラは?」
「あたしはね、自由。
……ハールは?」
「俺……?」
どうして、あんなことを書いてしまったんだろう。少し、いやかなり後悔している。でも、ふとその言葉が浮かび上がってしまった。そして書いた瞬間に時間が来てしまったんだよな……。
「あたしはさ、あの村であんたたちに拾ってもらった。
そこからばたばたと毎日過ごして、あまり話す時間なかったろ?
だから、あまり二人のこと知らないなって思ったんだ」
だから、教えてくれたら嬉しい。そういうフェリラは真摯に俺に向き合っていて。何となく、この言葉から逃げたくない、ってそう思った。
「憧れ……」
「え?」
「では次の三人、入ってきて」
「ほら、行こう」
よし、ちょうどいいタイミングで呼びだしが来た。さすがにこれ以上聞かれたくなかったから、危なかった……。
「では一人ずつこちらに座って」
指示に従い席に座る。それぞれの前に担当者と思われる人がいた。そして、俺と担当者の間に置かれているもの。これ、もしかしてずっと前にちらりと聞いた、魔力を測るやつ?
「これを使って、ここに血を垂らして」
それにしてもなんだ? この盤は。まあやってみればわかるだろう。ぴっと切って言われた通り盤の中央に血を垂らす。すると、徐々に盤が光出した。その光は徐々に全体に広がっていく。おお、きれい。少しだけギルドカードのことを思い出した。どうしてこうも血を垂らさせたがるのか。
隣を見ると、盤の光り方はそれぞれ違っていた。俺は盤の大半が割と強く、そして一部が弱く光っているが、隣のフェリラは六分の一の部分が光っている。さらに隣のリキートはもっと多くの場所が割と強く光っている。
「こ、これは……」
あれ、顔を見合わせて皆さん、どうしました?
「あの?
どうだったんですか?」
「あ、ああ……。
君たちはパーティを組んでいるんだったか?」
「はい」
いや、そうか、とか言っていないでちゃんと説明してくれないか? 二人とも不審な目で担当者見ている。やっぱりそういう気持ちになるよな。
「えーっと、ハール君、だったか?
君は、その、全属性持ち、だ。
ただ、光属性と闇属性はあまり強くない。
ほとんど使えないだろう」
「……え?」
ぜんぞくせい? だけど特殊属性があまり使えないと。ああ、はい。了解です。なんか中途半端だな。
「ほかの試験は明後日以降。
本日の試験を通っていたら、また呼び出す。
まあ、君たちは大丈夫だと思っていい」
「ありがとうございました」
結局、フェリラは光属性のみ、リキートは基本属性4つという結果になったみたいだ。ま、俺の属性以外はやっぱりか、という感じか。