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しかし、ここにきてまだあまり時間はたっていないはずだが、もうずいぶんと居座った気がしてくる。まあ、いろいろイレギュラーなことが起こり続けたからな。
ダンジョンから魔獣が大量に出たり、ダンジョンの長を倒したり、シャリラントに名前を教えたり、挙句の果てに強盗まがいのこともされた。いや、あれまがいじゃなくて、まぎれもない強盗だ。本当にいろいろ、いろいろあったな。
さっさと支度を終わらせて村を出る。まあ、支度なんてほぼなかったけれど。持ち物は何も取られなかったようだし、それだけで良しとしよう。ちなみにシャリラントはというと、小さく形を変えて俺の懐に収まっていた。
さて、またリキートと二人、王都を目指して歩きますかー。王都に着いたらまずは……。
「あの、ちょっと待って!」
あれ? あの子は……。
「何か用?」
「あ、あたしも連れて行って!」
……へ? なんで急にそんな話に?
「いや、どういうこと?
君、俺のことすごくにらんでいたし、憎いんじゃないのか?」
あ、視線そらされた。まさかそれに気が付いていないとでも思っていたのか? リキートもそんなどうしたらいいの、という感じにこっち見ないで。俺にもわからない。
「にく、憎くはないわ。
ただチェシャを、弟を助けられなかった自分が許せなかっただけで……。
……はぁー。
とにかく、あたしを連れていくとあなたたちにとっても好都合なはずよ。
あたしは光魔法を使えるから」
「別に一緒に行かなくていいんだけど。
どうして、村を出たがる?」
やっぱりあれは光魔法だったか、そんなことを思いながら答える。あれ、そういえばこの子、呪文言っていたっけ?
「え、光魔法!?」
そしてリキートは今更驚きすぎ、ってそっか。少女が治癒しているとき、気を失っていたのか。光魔法って希少っていう話だったし。
「チェシャがいないなら、こんなところいたくないの……」
こんなところ、か。まあ、別に一緒に来てほしいとは思わないが、絶対に拒絶する必要もない。どうする、とリキートの方を見る。もともとリキートが始めた旅だ。彼が決めればいい。
「あれ、ハール光魔法のところ無視?
え、驚いている僕がおかしいの?」
ほら、ぶつぶつ言っていないではやく返事してあげないとかわいそうだよ。俺も少女も何も答えないとわかると、リキートは大きくため息をついた。
「……わかった、だったら一緒に来たらいいよ。
でも、僕たちも手探り状態なんだ。
なにも保証できないよ」
「それでいいわ」
ほっとしたような表情の少女。そんなにここにはいたくなかったのか。
「僕の名前はリキート。
今は王都の冒険者養成校をめざしているんだ」
「俺の名前はハールだ」
冒険者養成校、と口にする。そういえば、この少女は冒険者になる、ということでよかったのだろうか。まあ、嫌なら王都で別れればいいか。ひとまずその時のことはその時考えればいい。
「あ、あたしの名前はフェリラ。
よろしく」
おお、一気に表情が柔らかくなった。うん、今までの表情よりもそっちの方がいい。こうして俺らの旅にもう一人加わることとなったのだ。しかし、初対面ではもう少しおしとやかな少女だと思っていたが……。うん、気にするのやめよう。
さて、ひょんなことから男二人、女一人の三人旅になってしまった。まあ、フェリラが思っていた以上にさばさばとした性格だったから、そこまで苦にはならなそうだ。
「あ、フェリラ。
先に言っておくけど、基本的に野宿しかしないからね、僕ら」
お金ないし、というリキート。女の子だし嫌がるよな、と思っていたが、意外にもフェリラはあっさりうなずいた。曰く、自分からついていきたいといったのに文句は言わない、と。まあ、ものすごく助かる性格だったのだ。
さて、こうして再び王都に向かう旅が始まったところで、俺は二人に説明しておかなければいけないことがあった。シャリラントのことだ。あと、他のダンジョンでの拾い物もろもろ。
夜、今日泊まるところが決まった。といってももちろん宿ではなく、野宿ですが。ひとまず木の枝を集め、火を起こす。これで寝る準備は整ったも同然だ。さて、俺の話をする前にまずは妙に静かな理由を聞いておくか。とはいえ、どう聞くか。
「……何よ」
「いや、その……。
嫌になっていないかと、思って」
「あのね、あたしは自分でついてきたのよ。
一日で嫌になんてなるわけないわ」
「なら、いいが……。
なんだか、いつも以上に静かだから気になって」
「いつも以上にって。
そんなに一緒にいないでしょうに」
あははは、と気が抜けた笑い。よかった、力が抜けたみたいだ。これから一緒に過ごすのに、緊張しっぱなしだと持つわけがない。それに、とくに不満もないようで何より。
「ね、なんであんたたちは冒険者養成校なんて目指しているの?」
「俺は、リキートが行くと言ったから、かな」
「え、あ、まあ、そうだよね。
僕は……、うーん、そうだな。
自分だけの力で生きていきたかったから、かな」
自分だけの力で。貴族の嫡男だったのに、家を飛び出したのだ。人によっては耐える力がない弱いやつ、とでも言いそうだが、実際は逆だろう。すごく強いのだ。追い詰められても、それでも自分の人生から逃げ出さずに、まっすぐに向き合ってきたのだから。
「自分の、力だけで……。
うん、そうだね、あたしも自分の力で生きていきたい」
リキートの言葉にフェリラが神妙にうなずく。きっと、フェリラにとってもそれは大切なことなんだろう、そう思った。




