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8

  

 食事後、おとなしくミーヤとシスターの部屋に向かう。行くのは決定事項なのだから、さっさと行ってしまった方が後が楽だ。ノックをすると、すぐにシスターの返事が聞こえた。


 部屋の中にはすでにシスターと司教が座って待っていた。そんなに待たせてはいないはずだけど、もう向こうの準備は整っていたらしい。これは早々に来ておいて正解だったな。

 

「よく来ましたね。 

 そちらに座って、司教にご挨拶を」


 シスターたちの示されたのは向かいの席。シスターと司教は隣り合って座っている。


「初めまして、ミーヤです」


「ハールです」


「やあ、こんばんは。

 ハールはここまで案内してくれて、どうもありがとう。

 ミーヤは初めまして、ですね。

 こんな時間に呼び出してしまい、すみません」


 にこやかな司教からは敵意は感じられない。安心してもいい気がする。まあ司教だし。


「ミーヤ、長くこちらに寄れませんでしたが、君の話はアンナからずいぶんと前に聞いていたんです。

 不思議な感覚を持っている子がいる、と。

 会えることを楽しみにしていました」


「私、ですか?」


「ああ。

 君さえよければですが、私とともに神島に来ませんか?

 君のその不思議な感覚はきっとここに来れば、より皆を助ける力になります」


 どうですか? と問いかける司教。神島。聞きなれないけれど、共にといっていたから、宗教の総本山みたいなところだろう。ああ、やっぱりミーヤの力は特別だったんだ。寂しい気持ちはあるけれど応援しないと、だよね。だけど、ならなんで俺もここに呼ばれたんだ?


「あの、私……」


 孤児である俺たちにはおそらく破格の道が示されたのだ。喜ぶかと思いミーヤの顔を覗くと、戸惑うような表情をしている。少し予想外だ。


「少しの間ここにとどまる予定です。 

 返事は帰るまでにくれればいいですよ。

そして、ハール」


 あ、こっちに話が来た。さて、一体何を言われるんだろうか。


「君には可及的速やかにここを出て行ったほうがいい」


……へ? 一体何を言っているんだ。出て行け、じゃなくて、出て行った方がいい? シスターはうつむくばかりで何も言ってくれない。隣のミーヤも驚いているのが伝わってくる。えーっと?


「君はこちらにとどまらない方がいい。

 ……それに、その方が自由にやれるだろう?」


 わざわざ側によって威圧をかける気か? と警戒をしていると、最後の一言を俺だけに聞こえる小さな声で囁く。自由に。確かに今はみんなに隠れてシャリラントと訓練をしている。それをこの人は知らないはず、だよな? これについて詳しく言い当てたわけではないし。なんだかこの感じ、ミーヤに似ている気がする。


「そういうことです。

 ハール、なるべく早くここを出て、行くように……」


「……わかりました。 

 長くお世話になりました」


 後一年、ここにいてこれからのことを考えようと思っていたのに、まさかの速やかに出ていくことに。もちろん、一人で出ていくだろうから、一から自分でこれからの道を決めていかなければいけないのか。まあ、皇国側に見つかったらどうしよう、という一番の懸念材料について、髪色、そして少年から青年に成長することで、見た目が多少でも変わっている。きっとどうにかなるだろう。


「……すみません、少し訂正します。

 2日後の昼に出るとよいでしょう」


 俺に言ってきた後、何かうつむいてじっとしているなとは思っていたが、急に訂正された。え、2日後? まあ、ずいぶんと急だが、特に荷物は多くないから間にあうだろう。でもなんで2日後? なんだかそれ以上質問できる空気でもなくて場は解散。本当にいろいろと急な人だ。



「あの、本当に出て行ってしまうの?」


「うん、そうなるかな。

 ミーヤはどうするの?」


 ここに多少の愛着はあっても、絶対にとどまりたいという意思もない。出ていけ、と言われたら出ていこう。それに何かわけもありそうだし。


「私、わたしは……。

 ハールと一緒に行きたい」


 ……へ? 今俺と一緒に、といいました?


「え、え?

 い、いやいやいやそれは無理じゃないか?」


「やっぱり、嫌だよね、私なんかと一緒じゃ……」


「そういうことじゃない!

 でも、この後はどんな日々が待っているのかわからないから!

 ミーヤを危険な目にはあわせられないよ」

 

 それにここから出たら、正直いつ皇国の追手が来るかわからない。もちろんもう忘れ去られている可能性だってあるけれど。というか、その可能性にかけたい。とにかく、そんな危険かもしれないことに、わざわざ巻き込む必要はない。


「私の、安全のため?」


「うん。

 それに、ミーヤは不思議な力を持っているよ。

 それに救われたことはたくさんある」

 

 私が、とうつむく。えっと、ちょっとこの反応は予想外。どうしよう、とおろおろしていると、今までに見たことがない強い瞳でミーヤが僕のことを見上げた。


「私、神島行く!

 それで、今よりももっとすごくなって、いつかハールに会いに行くよ」


 いうだけ言ってお休み、と部屋に入る。え、ちょっと待って今のなに。え、え?



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