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 はー、早めに目が覚めてしまった。皆はまだ起きていないみたい。一日たって冷静になったけれど、あの状態で、僕の髪が見えていないわけがない。気を、使わせてしまったよね。


 ぶらぶらと歩いていると、何やら人の流れが。こんな早朝から、もう人が動き始めているんだ。いっつも中に引っ込んで、やってくるお客さんを待っているだけだったから知らなかった。


「おーい、そこのガキ」


「ひぃえっ!」


 きゅ、急に何? 振り返るとそこにいたのは、ちょっとおっかない顔したお兄さん。この人一体?


「お、坊主、か?

 お前、あの行商から出てきたよな?」


「え、あ、あの、はい」


「おっ!

 ちょうどいい、俺今困ってるんだよ。

 ダンジョン潜ろうとしたのに防具が壊れちまって。

 なあ、ちょっと売ってくれないか?」


「え、あの、でもまだみんな起きてなくて。 

 僕だけじゃ……」


「あ?

 あー、そうなのか。

 じゃあ坊主は一人でうろついてるのか?」


「あ、はい。

 早く目が覚めてしまったので……」


「うーん、やめた方がいいぞ?

 この辺りあまり安全でもねぇし。

 ほら、送っていってやるよ」


「え、あの、大丈夫です。

 一人で戻れます」


 いいから、と手をつかまれる。その時、なんだか腰にある剣が熱を帯びた気がした。え、え?


「どうした、ファーラ」


 ファーラ? 誰のことだ? って、なんだか僕のこと、急にじっと見てくる! こ、怖い。


「ああ、すまねぇ。

 そんなおびえるなよ。

 ほら、着いたぞ」


「ありがとう、ございます」


 いつの間にか元の場所まで戻ってきていた。まだ、剣は熱を帯びている。こんなの初めてだ。この人は一体?


「あの、あなたは? 

 あなたの、お名前は?」


 気づいたときにはそう聞いていた。一人になってから、こんな風に人に名前を聞いたのは初めてかもしれない。その質問に深緑色の瞳が細められた。


「俺はイシューだ!

 お前の名は?」


「は、ハール」


「ハールか。

 よろしくな」


 イシュー、さん。うん、覚えた。どうしてこんなに気になるかわからないけれど、でも。


「ハール!

 よかったわ、ハールがいた!」


 ……え? あれ、ミグナさん? ってみんなも。


「もう!

 急にいなくなるから、どっか行っちゃったかと……。

 よかった」


 涙ぐむミグナさん。ああ、これはかなり心配かけてしまった。申し訳ない……。


「あの、あなたは?」


「ああすみません、歩いていたので連れていたんです」


「あ、あら、ありがとうございます」


 ぺこりと頭を下げるミグナさんに合わせて、僕も頭を下げる。あ、皆来た。うう、完全に迷惑かけちゃった。


「あ、ああ、いや、気にしないでください」


「あ、あの、このお兄さん、防具が欲しいって言っていて。

 まだ時間じゃないのはわかっているんだけれど……」


「あら、そうなのね。

 ええ、大丈夫ですよ」


 さあ、どうぞ、とミグナさんがお店を開ける。時間を早めてしまって申し訳ないけれど、これでイシューさんの当初の目的は達成できました。


 イシューさんが去ってしばらくした後、ミグナさんとナミカさんがナイフ片手に僕に声をかけた。いや、ナイフって!? 一体何事?


「あのね、ハール。

 実は見えてしまったの、その、髪が。

 それで、とっても伸びていたから、よかったら切らないかしら?」


 髪……。やっぱり見えていた、よね。……。


「……切る」


「え、ええ! 

 じゃあさっそく切りましょう?」


 後ろを向いて、との言葉に従って後ろを向く。少しして、髪が切れていくのを感じた。ああ、すごく軽い。こんなに軽いのいつぶりだろう。


 きった後はまたすぐにフードをかぶる。それについては何も言わないでくれた。髪はこっちで処理するからっていう言葉に甘えてしまいました。それにしても、髪を切るのにナイフか……。ハサミ、ないのかな? いや、ないから使っていないのだろうけれど。


 ここって鋼あったかな……。ブラサさんに聞いてみよう。


「ブラサさん」


「お、どうしたハール。

 またなんか面白いの思いついたか?」


「あのさ、鋼ってある?」


 僕の言葉に鋼? とくりかえる。あー、でもあっても加工できないか。ここにはもちろん鍛冶場がないから。そうすると持っていない可能性が高い。というか、持っていても作れない。


「いや、持っていないな」


「あ、そうだよね。

 ごめんね、変なこときいて」


「いや、いいが。

 どうした?」


「うーーん……。

 あのね、こういうの、作れないかなって思ったの。

 ミグナさんたちがナイフ、大変そうだったから」


 こういうの、と言いながら、地面に指で二種類のハサミを書いていく。本当は現代で使ってたようなやつがいいのだろうけれど、きっと難しいから。


「これは?」


「ここの、内側の部分が刃になってるの。

 それで、ここに力を入れれば切れるかなって。

 ただこっちの方はこの上のところは柔軟性があるものにしないといけないけれど……」


「ふむ……」


 そこからザフラさんはいくつか質問していく。それにできる限り答えていると、大きく一度うなずく。どうやら納得してもらえたみたいだ。さすがザフラさん。


「今度行く町、そこに知り合いの鍛冶職人がいる。 

その人に少し場所を貸してもらおう」


 そうして次の町に移動したときにハサミは完成した。いや、ザフラさんの理解力!


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