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「ああ、次に進むにはこっちは迂回した方がいいだろう」
「そうだな。
大丈夫かと思うが、ダンジョンがあるし」
「あー、じゃあここは少し早めに切り上げるか」
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「ということだ!」
「「はい」」
ダンジョン? 今ダンジョンっていった?
「お、なんだハール。
ダンジョンに興味あるのか?」
「ハールって、なんだかんだそういう、男の子があこがれるものすきよねぇ」
「う、べ、別に……」
そんなに興味があるわけじゃない。ただ、ちょーっとだけ気になっただけだし。
「いいじゃないか!
俺だって興味あるよ」
「はは、そうか。
だが、ダンジョンはさけていくからな」
「……どうして?
だって、ダンジョンにはそれに挑戦する人がいるでしょう?
そういう人が必要なもの……、例えば冷たい水が入った水筒とか、防具とか、そういうの売れるんじゃないのかな」
ここのお店、武器は売っていない。でも、なぜか防具は売っているのだ。とはいえ数は多くないが。そんな僕の言葉にピタリと動きが止まる。
「確かに……。
新たな商売のチャンスか?
いや、しかし……」
「シラジェ。
あそこのダンジョンは特に危険だって言うでしょう。
子供たちもいるのよ」
「うっ、わかっているよ。
ハール、それは魅力的だが、だがやっぱり安全第一でないと」
う、そうだよね……。男の人は多少は戦えるとはいえ、みんな商売人。もともと戦闘はあまり得意ではないのだ。それなのにわざわざ危険なところに身を置く必要はない。余計なこと言っちゃった。
「ごめんなさい……」
「謝る必要はないさ。
今後気を付けてくれればいいだけ」
「うん……」
あう、落ち込んでいるからって頭撫でないで……。そのとき、パサリとフードがとれる。今まで、フードに関しては本当に細心の注意を払ってきた。この瞳の色がばれても、髪の色はせめて、って。でも……。
「あっ……!」
ばっ。慌てて外れたフードをかぶる。み、見られた、よね? ど、どうしよう。本当に。
「ハール?」
体の震えが止まらない。もしも、これのせいでみんなに何かがあったら。そんなのだめだ。ここに来るまで、外に少し出るようになって知ったことだが、たまに、皇国の皇子の話が出てきていた。皇子が一人、行方不明らしい、と。皇国なんてかかわるもんじゃねぇ。呪われた国になんて、って。その時も僕は血の気が引いた。もしかしたら、って。
「ハール、どうした?」
「髪……」
「髪?」
「見た、よね?」
「え……?」
「だ、大丈夫。
見えていないわ!」
「本当……?」
うん、とうなずいてくれるのはナミカさん。本当に、見えていない? 大丈夫? あれから切っていない髪は、どんどん伸びている。今はひもで一つに縛っていた。どこかで切りたいが、髪を見せるのも怖いのだ。
ナミカさんの言葉に、一度息を吐き出す。それで少し平静を取り戻したが、まだ少しだめだ。
「ごめん、休んでいる」
それだけを言うと、返事も待たずに奥に行く。どうして、どうして僕はこんなにも恐れないといけないんだろう。腰につけていた剣を抱きしめる。ひんやりと冷たいそれが、僕の唯一のよりどころで。それが、なぜか今とても寂しく感じた。
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「ねえ、母さん。
ハールの髪……」
「うん。
根元の方は白、いえ銀かしら。
でも、先の方は黒……」
「黒って、珍しいな。
前に見たのはどこでだったか?」
「それにハールはもともと瞳の色も珍しいから。
それが原因で何かあったのかもしれないわね」
「とっさに、見ていないっていったけれど、それでよかったのかな……。
受け入れてあげた、方が」
「そうね、ゆっくりと向き合っていきましょう」