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7

 結局そのまま熱出して寝込んでしまった……。つくづく迷惑しかかけない。でも、きっともう大丈夫。これまで以上に厳重に鍵をしておいたから。その間に任務を達成したグルースさんたちは帰っていったらしい。


「えーっと、銀貨1枚が3つと、銀貨4枚が2つ、それと銅貨35枚が1つっすから、えーっと……」


 元気になってきたし、なかなか暇だ、と思っているとそんな声が聞こえてきた。あ、なんか売っているみたい。この声はフィーチャさんかな? 計算にてこずっている声がする。


このくらいなら、いいかな?


「銀貨11枚と銅貨35枚、だよ」


「え、あ、ハール?」

 

 あ、驚かせちゃった。でも早くしないとお客さん嫌がっちゃうものね。早く、とせかすと、ようやくフィーチャさんは値段を口にした。


「じゃあ、銀貨12枚で」


 銀貨12枚だから……。


「お返しは銅貨65枚です」


いや、65枚って。そう思っても突っ込まないものである。今度はもう対応できたみたいで、お客さんが帰っていった。


「いやー、助かったっすよハール。

 計算得意なんすね?」


「う、うん。

 計算だけは」


 え、どうしてそんな風に目を輝かしているの、フィーチャさん?


「ねえ、お願いっす!

 これからも手伝ってください!」


 え、これからも? ……僕でも、役に立てる、のかな? お世話になりっぱなしだし、表に立たなければ……。


「う、うん……」


「わーーー!

 嬉しいっす!」


「で、でも僕絶対にお客さんの前に出ないよ!?」


「わかってるっすよ」


 にこにこと嬉しそうなフィーチャさん。いや、なんで? そ、そんなに計算苦手だったの?


 まだ人前には出れない。けれど計算が得意、ということで何かと経理関係を任されることに。まさか、こんなことになるとは。


「いや、本当に助かるわ!

 計算、早くて正確だし」


「い、いえ」


 うう、そんなに褒められると申し訳ない気持ちになってくる。いや、もちろん嬉しいんだけどね!? 僕が人の視線を怖がっていることも気が付いているのだろう。極力外の人に触れないで済むように気を使ってくれているし。


 でも、僕にでも役に立てることがあるのがとても嬉しかった。今までお荷物だったけれど、ちゃんと一員になれたみたいで。


「あーー、重い! 

 水運びって本当に大変っす」


「そうだね。

 でもないと生きていけないからな」


「そんなことはわかってるっすよ」


 水? ひょこ、と顔を出すとフィーチャさんとハミルさん兄弟が水を運んでいるところだった。サーグリア商団特性の木桶に入れて運んでいるそれは、もちろん水が隙間から漏れることもない優秀なもの。だが、重さだけはどうにもできでいなかった。


 水、みず、みず……。なんかいい案があった気がする。……あ! 思い出した。確か水を入れる容器をボールとかにして転がしながら運ぶんだ。せっかくだ、ブラサさんに作ってもらおう。これができたら、きっともっと水くみが簡単になる。


「ぶ、ブラサさん」


「ハール。

 俺に何か用か?」


「あの、お願いが……」


 身振り手振りで何とか形を伝える。ボールの形でもいいし、ドーナツ状でもいい。作るのはボールの方が作りやすいだろう。


--------------------

「ハール、できたぞ」


 数日後、ブラサさんから急に呼び出されたと思ったら急にそういわれた。できたって、もしかしてあれ!? もうできたの?


「これでどうだ?」


 受け取ったものをじっくりと見てみる。うん、よく丸められている。


「これ、水は入れてみました?」


「ああ、入れてみた。

 ちゃんと漏れないことは確認した」


「すごい!

 こんなにすぐに作ってもらえるなんて」


「言われたときに、ちょうどいいものがあったからな。

 満足してもらえてよかった」


「これ、使ってもらっていいですか?」


 もちろんだ、と答えてくれたブラサさんに甘えて、早速今日の担当、ウィリーさんに使ってもらうことに。うまくいくといいな。


「は、ハール!

 あれ、すごいね。

 水持って帰ってくるの、すっごく楽になったよ」


「本当ですか?」


 うん、と笑顔を見せるウィリーさん。よ、よかった……。初めて、僕の、『陽斗』の知識が役にたった。よかった……。


「あの、それたくさん作って売れませんか?」


「いいと思う!

 水汲みに困っている人、たくさんいるもの」


「頑張る」


「おーおー、なんかにぎやかだな。

 どうした?」


「あ!

 パーレンさん、聞いてくださいよ!」


 こうしてあれよ、あれよとボール型の水入れは新商品として発売。即完売という異例の商品になった。


「いやぁ、だってお宅のところの人が、毎日楽しそうに水をもちかえってただろ?

 そんなに便利なものかって、ずっと気になったのよ」


 とのこと。


 こうなってくると、なかなか楽しい。次は何がいいかなって考える。まずはみんなの困りごとを解消したい。あとは玩具とかもいいよね。オ〇ロ、名前は使えないからチップ、という名前ですすいと作ってみる。ケリーとやってみたけれど、これ単純に見えて奥が深い。あっという間にはまって、夜更かしして怒られたこともあった。


---------------------

「だんだん笑顔を見せるようになってきたな」


「ええ。

 フードはまだ手放せていないけれど……。

 まだまだ先は長いと思うけれど、本当によかった」


「しっかし、ハールが考えるものは本当にすごいよな。

 アッという間にうちの商団の人気商品になっちまった」


「うん。

 あれから格段に売りあげが上がったし」


「はー、本当に感謝しなきゃな」


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