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今日も人用馬車に6人乗り込む。そして2人がそれぞれの御者、2人が荷台の見張り。今日はその外側を護衛のグルースさんたちがかこっていてくれた。
「そういえば……。
聞いていなかったんだけどさ、ハールって何歳なの?」
「……え?
今さら聞く」
しっかりうなずくケリー。気になるかな? 僕の年齢なんて。
「あ、あら、私たちもうっかりしていたわ!
何歳なの?」
う、ミグナさんものっかってきた。これは逃れられないか……。
「8歳、です」
たぶん、まだ。そういえばずっと日にちなんて気にしない生活していたから、今日が何日か知らない。この世界、なんでかわからないけれど、ちゃんと日付の感覚があるんだよね。だから、誕生日っていうものが存在する。
「え、8歳?」
「は、はい」
えっと、なんでそんなに驚かれているんだろう? 何かおかしなこと言ったかな?
「ケリーよりも小柄だから、その年下かと思っていたわ。
でも同い年だったのね……」
え? ケリーって同い年なの? ちらり。うん、僕よりも頭一つ分くらい大きい。え、ちょっと待って。これ僕としてもかなりショックなんだけれど……。
「ま、まあこれから大きくなるわよ!」
しかも慰められた。まあ慰めはありがたく受け取っておきます。
むすっとしたとき、急に馬車が大きく揺れる。急停止した!? 一体何が。
「っ!
なんだ、お前ら!」
「へっへ。
おい、馬車の中のものすべて置いていけよ。
そしたら命だけは助けてやる」
聞こえてきた声にばっと顔を見合わせる。これ、もしかして野盗の声?
「大丈夫、大丈夫よ。
ほら、こっちにおいで」
あ、ミグナさん、とても冷静だ。一気に逸った心臓がなんとか落ち着く。そしてケリーと二人、本当の子供みたいに抱き着いた。どうしよう、で、でも大丈夫だよね? だってそのためにグルースさんたちがいるんだもの。
「おい、速攻立ち去れ」
「いろいろもらったらな」
その言葉共に、布が上がる音がする。野盗が? と思ったのもつかの間。強い力で抱きしめられた。
「大丈夫だ」
「シラジェ、さん?」
「ああ」
ああ、よかった。シラジェさんだ。知らない人じゃない。そう安心したとき、馬車の外で怒鳴り声、そして争う音が、きこえ……。あっ……。
音で強制的に開かれる扉。だめ、今もまだそこを開けてはいけない、のに。
「っ!」
体が震える。脳で考えることを拒否するように。叫び声を、上げたくなる。あの日上げられなかった、その声を吐き出すように。目が回る。ぐるぐると、今と『あの時』を行き来する。ああ、まだまだじゃないか。まだまだ、僕は蓋をできていなかった。
あんなにも、得意だったはずなのに。大丈夫だ。また、蓋を、鍵をすればいいだけだから。
「ハール?
どうした!?」
だから、大丈夫、だよ……。
「くそっ!
もっと薬を持ってくるべきだった!」
「あんなにしつこくして、一体何が狙いだったんだ?」
「さあ?
それよりも、みんな傷は大丈夫か?」
「まあ死にはしないさ」
声が、きこえる。誰の声だっけ。えーっと、確か、そう。護衛の……。
「グルースさん!?」
「うおっ、びっくりした!
急に起き上がんなよ」
「あ、ごめん」
あ、血の気が……。
「ほら、まだおとなしくしてろって。
大丈夫か?」
「あ、うん……。
ケリー、みんなは無事?」
「おう!
だから安心して寝てろ」
「ありがとう……」
ああ、よかった。皆が、無事で。
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「あれ?
その子起きたの?」
「あ、また寝ました」
「そっか。
でも急に倒れるなんてどうしたんだろうね?
本当に幽霊みたいに真っ白な顔してたけど」
「わ、わからない、です。
何も知らないんです」
「君たち、兄弟ではないの?」
「あ、違いますよ。
途中で合流したので」
「そ、っか。
早く良くなるといいね」
「まあ倒れた原因、考えられるのはもともと体調悪かったか、あの雰囲気がだめだったんじゃ?」