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こうして、僕の旅は再び始まった。サーグリア商団は、移動しながらの販売を主としているらしい。出会った当初の、店舗を構えているのはかなり珍しいこと、と。
そして、移動中は商品を載せる馬車一台、そして人移動用の馬車一台の2台で動いているらしい。そして商品を載せる馬車には必ず一人以上の男性が中に乗る。
もう移動するところだった、ということで店舗を片付けるといざ出発だ。
「ハールはサーグリア商団に入るのかしら?」
「え、え?
いえ、一応オースラン王国まで、と」
「えー、ずっと一緒にいようよ」
「こら、わがまま言うんじゃありません。
でも、そうなのね。
オースラン王国、か」
「あ、あの、オースラン王国がどうかしたんですか?」
「いいえ。
あのね、私はもともとオースラン王国で暮らしていたのよ。
それが両親が亡くなって、兄と困っているところで助けてくれたのがお義父さんなの。
だから、私はお義父さんがあなたを連れてきたこと、運命だと思うわ」
うん、めい? どうして急にこんな話を? それにミグナさんとグルバークさんはもともと孤児だった?
「だから、あなたがここにいることに罪悪感なんて、おぼえなくていいの。
っと、話がずれてしまったわね。
そう、オースラン王国ね。
だから、なんだか懐かしいなって」
罪悪感……。でも、罪悪感覚えるに決まっている。だって、僕なんの役にも立てていないのに、こんな風によくしてもらって……。でも、僕が返せるものは何もないんだよ。
「……、あのさ、どうしてハールはいつもフードかぶってるの?
熱いでしょう?」
「あ、こ、これは……」
「こら、ケリー。
意地悪言わないの。
お前はこっちを手伝って」
えー、と言いながらもミグナさんについていくケリー。なんだかんだ、ケリーは母親のことが大切なのだろう。それにしても、本当にすっかり癖になってしまった。
「おーい、俺ちょっとギルド行ってくる」
「ああ、頼んだ」
ギルド? いま、ギルドっていった? もしかして、それって冒険者ギルドかな。
「お?
珍しい、ハールから出てくるなんて。
どうした?」
「あ、あの、ギルドって、冒険者ギルド……?」
「ん?
ああ、そうだぞ。
やっぱりハールも男の子だな!
一緒に行くか?」
一緒に。行ってみたい、けれど、やっぱり……。ぎゅっと服の裾を握っていると、無理するな、と頭をなでてくれる。うう、本当に情けない。でも……。
行ってくる、というシラジェさんの後ろ姿を見送ることしかできない自分が、ひどく恨めしかった。本当は、ここの人の優しさに甘えてしまいたい。自分の弱さを全部さらして、そうして生きられたらどんなに楽だろうか。
でも、僕はできない、よ。怖い、また失うのが。これも全部神様のせいだ。全部、全部全部、神様が悪い!
……大丈夫、『ハール』の心は、きっと守ってみせるから。
「おーい、ただいま。
Dランクだが、なんとか護衛してくれるパーティを探してこれた」
「ああ、よかったわ。
これで少しは安全に行けるわよね」
「……安全に?」
「あ、ハール。
そうなの。
この先の道がね、野盗が出ているみたいで」
野盗……。
「あ、そんなに心配しないでいいのよ?
そのためにパーティを雇ったのだもの」
そっか、そうだよね。他のみんなはけろっとしているもの。僕だけ過剰に反応しちゃった。また、なにか、があるかと思っちゃった。
「よし、じゃあ明日には次の町に移動するぞ!」
「わかりました!」
「さあさ、ここの商品が買えるのは今日まで!
ほら、そこのお兄さん、一個いかが?」
すごい、売り込みの追い上げに入った。ここで売っている商品はほかの町の特産品を仕入れたもの、それと手作り品だ。これらの商品はブラサさんの手によるものが多く、質がいいと人気なのだ。
いなくなってしまうんなら、予備にも買っておこうかね。
気になっていたし、買ってしまおうから。
そんなことを口にしながらあっという間にお客様が並んでいく。はー、本当にすごいな。っと、僕は僕にできることをしよう。店に出ることはできないけれど、きれいに磨いたり、袋に包んだり。そんなことはできるから。
「いやー、売れた売れた。
ありがとな、ハール。
せっせと手伝ってくれて」
「父さん!
俺も手伝ったぞ!」
「ああ、そうだな。
たくさんお客さん呼んでくれてありがとうな、ケリー」
「えへへ」
よかった、少しでも役に立てたみたいで。少しずつ、本当にすこしずつだけれど、僕も成長していたい。そのあとは明日ははやいから、とそうそうに眠りにつくことに。
「こんにちはー、依頼されてきました、グルースです!」
「ああ、お待ちしておりました。
もう少しお待ちください」
「はいはい、大丈夫ですよ」
! たぶん今来たのが冒険者、だよね? 少し興味がある。というか、憧れが……。ちょっと、ちょっとだけ覗いて……。
「ハール?
何しているの?」
「うわぁ!
び、びっくりさせないでよ、ケリー……」
「えー、だって、ハールが何だかこそこそしているんだもの。
気になるじゃん」
そ、そうかもだけど。でも、本当に心臓ぎゅってなった。
「あはは、それにしてもハールのおっきい声初めて聴いた!
そんな声も出せるんだね」
「そう、かな?」
うんうん、とうなずくケリー。あんまり意識していなかったけれど、そっか。そういえば、ずっと大きい声なんて出していなかったかも。自分の存在が少しでも印象に残らないようにって、そればかり考えていたから。
「お、そこにいるのはもしかして、依頼主の子供たちですか?」
「おい、勝手に話しかけるなって」
「いいじゃんいいじゃん」
「こんにちは!
ケリーです」
「おお、ちゃんと挨拶できていい子だね。
俺らはグルースっていうんだ」
「グルー、ス?」
「そう!
っと、そっちの子は?」
あ、やっぱり気づかれていた。うう、冒険者なんていろんなところ回っているからな。万が一、皇国のことも知っていたら、って思うと……。
「ハ「ゆ、幽霊!
幽霊だから、気にしないで」
っは! 何を言っているんだ、自分。これはさすがにない。でも、どういえばいいかわからなかったんだ。
「はは、君面白いね、幽霊君。
うん、わかった」
の、のっかってくれた。ありがたい。ケリーはまだ少し変な顔しているけれど、いいんだ。なんとなく、名前も知られたくない。
「それじゃあ、出発だ!
護衛、よろしくね」
「はい」




