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5

 こうして、僕の旅は再び始まった。サーグリア商団は、移動しながらの販売を主としているらしい。出会った当初の、店舗を構えているのはかなり珍しいこと、と。


 そして、移動中は商品を載せる馬車一台、そして人移動用の馬車一台の2台で動いているらしい。そして商品を載せる馬車には必ず一人以上の男性が中に乗る。


 もう移動するところだった、ということで店舗を片付けるといざ出発だ。


「ハールはサーグリア商団に入るのかしら?」


「え、え?

 いえ、一応オースラン王国まで、と」


「えー、ずっと一緒にいようよ」


「こら、わがまま言うんじゃありません。

 でも、そうなのね。

 オースラン王国、か」


「あ、あの、オースラン王国がどうかしたんですか?」


「いいえ。

 あのね、私はもともとオースラン王国で暮らしていたのよ。

 それが両親が亡くなって、兄と困っているところで助けてくれたのがお義父さんなの。

 だから、私はお義父さんがあなたを連れてきたこと、運命だと思うわ」


 うん、めい? どうして急にこんな話を? それにミグナさんとグルバークさんはもともと孤児だった?


「だから、あなたがここにいることに罪悪感なんて、おぼえなくていいの。

 っと、話がずれてしまったわね。

 そう、オースラン王国ね。

 だから、なんだか懐かしいなって」


 罪悪感……。でも、罪悪感覚えるに決まっている。だって、僕なんの役にも立てていないのに、こんな風によくしてもらって……。でも、僕が返せるものは何もないんだよ。


「……、あのさ、どうしてハールはいつもフードかぶってるの?

 熱いでしょう?」


「あ、こ、これは……」


「こら、ケリー。

 意地悪言わないの。

 お前はこっちを手伝って」


 えー、と言いながらもミグナさんについていくケリー。なんだかんだ、ケリーは母親のことが大切なのだろう。それにしても、本当にすっかり癖になってしまった。


「おーい、俺ちょっとギルド行ってくる」


「ああ、頼んだ」


 ギルド? いま、ギルドっていった? もしかして、それって冒険者ギルドかな。


「お? 

 珍しい、ハールから出てくるなんて。

 どうした?」


「あ、あの、ギルドって、冒険者ギルド……?」


「ん?

 ああ、そうだぞ。

 やっぱりハールも男の子だな! 

 一緒に行くか?」


 一緒に。行ってみたい、けれど、やっぱり……。ぎゅっと服の裾を握っていると、無理するな、と頭をなでてくれる。うう、本当に情けない。でも……。


 行ってくる、というシラジェさんの後ろ姿を見送ることしかできない自分が、ひどく恨めしかった。本当は、ここの人の優しさに甘えてしまいたい。自分の弱さを全部さらして、そうして生きられたらどんなに楽だろうか。

 

 でも、僕はできない、よ。怖い、また失うのが。これも全部神様のせいだ。全部、全部全部、神様が悪い!

 ……大丈夫、『ハール』の心は、きっと守ってみせるから。



「おーい、ただいま。

 Dランクだが、なんとか護衛してくれるパーティを探してこれた」


「ああ、よかったわ。

 これで少しは安全に行けるわよね」


「……安全に?」


「あ、ハール。

 そうなの。

 この先の道がね、野盗が出ているみたいで」


 野盗……。


「あ、そんなに心配しないでいいのよ? 

 そのためにパーティを雇ったのだもの」


 そっか、そうだよね。他のみんなはけろっとしているもの。僕だけ過剰に反応しちゃった。また、なにか、があるかと思っちゃった。



「よし、じゃあ明日には次の町に移動するぞ!」


「わかりました!」


「さあさ、ここの商品が買えるのは今日まで!

 ほら、そこのお兄さん、一個いかが?」


 すごい、売り込みの追い上げに入った。ここで売っている商品はほかの町の特産品を仕入れたもの、それと手作り品だ。これらの商品はブラサさんの手によるものが多く、質がいいと人気なのだ。


 いなくなってしまうんなら、予備にも買っておこうかね。

 気になっていたし、買ってしまおうから。


 そんなことを口にしながらあっという間にお客様が並んでいく。はー、本当にすごいな。っと、僕は僕にできることをしよう。店に出ることはできないけれど、きれいに磨いたり、袋に包んだり。そんなことはできるから。


「いやー、売れた売れた。

 ありがとな、ハール。 

 せっせと手伝ってくれて」


「父さん!

 俺も手伝ったぞ!」


「ああ、そうだな。

 たくさんお客さん呼んでくれてありがとうな、ケリー」


「えへへ」


 よかった、少しでも役に立てたみたいで。少しずつ、本当にすこしずつだけれど、僕も成長していたい。そのあとは明日ははやいから、とそうそうに眠りにつくことに。


「こんにちはー、依頼されてきました、グルースです!」


「ああ、お待ちしておりました。

 もう少しお待ちください」


「はいはい、大丈夫ですよ」


 ! たぶん今来たのが冒険者、だよね? 少し興味がある。というか、憧れが……。ちょっと、ちょっとだけ覗いて……。


「ハール?

 何しているの?」


「うわぁ!

 び、びっくりさせないでよ、ケリー……」


「えー、だって、ハールが何だかこそこそしているんだもの。

 気になるじゃん」


 そ、そうかもだけど。でも、本当に心臓ぎゅってなった。


「あはは、それにしてもハールのおっきい声初めて聴いた!

 そんな声も出せるんだね」


「そう、かな?」


 うんうん、とうなずくケリー。あんまり意識していなかったけれど、そっか。そういえば、ずっと大きい声なんて出していなかったかも。自分の存在が少しでも印象に残らないようにって、そればかり考えていたから。


「お、そこにいるのはもしかして、依頼主の子供たちですか?」


「おい、勝手に話しかけるなって」


「いいじゃんいいじゃん」


「こんにちは!

 ケリーです」


「おお、ちゃんと挨拶できていい子だね。

 俺らはグルースっていうんだ」


「グルー、ス?」


「そう!

 っと、そっちの子は?」


 あ、やっぱり気づかれていた。うう、冒険者なんていろんなところ回っているからな。万が一、皇国のことも知っていたら、って思うと……。


「ハ「ゆ、幽霊!

幽霊だから、気にしないで」


 っは! 何を言っているんだ、自分。これはさすがにない。でも、どういえばいいかわからなかったんだ。


「はは、君面白いね、幽霊君。

 うん、わかった」


 の、のっかってくれた。ありがたい。ケリーはまだ少し変な顔しているけれど、いいんだ。なんとなく、名前も知られたくない。


「それじゃあ、出発だ!

 護衛、よろしくね」


「はい」


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