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そんな一幕もありながら、俺たちは順調にオースラン王国へと到着した。そこでも歓迎されることとなり、なおかつ王城へと行くことになった。そこであった国王陛下は俺に友好国として今後頼む、という話と近々商会を皇国へ派遣して交流をはかりたいという話を軽くしただけで終わった。
ちなみにキンベミラ殿下は王城にはいなかったようで会わずに済みました。ちょっとまだ会うのは何となく気まずいんだよね。ここでは船の調整の関係でほかの国よりも長く滞在することとなった。どうやら一般の人達と同じ船に乗せるわけにはいかないこともあり、専用の船が向かっているところなのだとか。
「何か乗れるものさえ用意してくれたらあとは自分たちでどうにかなるのに」
「せっかくご好意で用意してくださるのです。
それに、さすがに神島に入るのですからそれなりの船でありませんと」
待たされることが分かりぶすっとしたマリナグルースさんにティアナ様が苦笑いする。早く帰りたかったのだろうけれど、俺としては幸運だった。せっかくオースラン王国に来たのだ。サーグリア商会のみんなに会っておきたかった。
「あの、俺はちょっと城下町に出かけてきてもいいですか?」
「出立日までに帰ってきていただけるのでしたら構いませんが……」
「どこに行くんだい?」
「お世話になった人にあいさつをしておきたいんです」
俺の言葉になるほど、とうなずかれる。ここに来るまでの間にいろいろと話をする時間があった。その中で俺の今までの話をすることもあったのだ。まあ、ミーヤのことがあったからこの国の孤児院で暮らしていたことがあったことは割と初めのほうに知られたけれど。
ということで、全員俺がこの国の王都にも縁があることを知っているのだ。
「せっかくなら、私も挨拶をしてもいいかい?」
「え、リーンスタさんもですか?」
「ああ。
もちろん迷惑になるようならやめておくよ」
思わぬ申し出にちょっと悩む。でも、俺は結局うなずいた。
「これから会いに行くのは俺のもう一つの家族みたいな人たちです。
良ければ、リーンスタさんにもあってほしい、かな」
きっともう二度と会える機会はないから。せっかくなら会ってみてほしい。あの国から逃げ出して何も信じられなくなった俺に、もう一度人を信じる温かさを教えてくれた人たちに。
「うん、じゃあ行こうか」
俺の言葉に柔らかく微笑んだリーンスタさんと一度わかれて支度を整えることとなった。
いろいろと迷った結果、俺は城を出る前に手紙をしたためた。さすがに仕事中のところに突撃して今すぐ会いたいは迷惑すぎる。なのでお店の人に手紙を託すことにしたのだ。それは明日の同じ時間にもう一度お店を訪れるので、その時に会える時間を教えてほしいというもの。きっとこれなら迷惑じゃない、と信じたい。
きっとみんなに会えるのは明日になるから、とリーンスタさんの同行を断ろうとしたけれど、結局一緒に行くことに。町を自由に歩いてみたいとのこと。だったらまあいいか、と二人で出かけた。
懐かしさを感じる街並みを見ながら目的のサーグリア商会へと歩を進めていく。そこは今日もにぎわっていて思わず微笑んでしまった。
「ハールの家族みたいな人たちって……、サーグリア商会なのかい?」
「ええ、そうですが。
ご存知なのですか?」
「ああ。
かの商会は神島に商品を卸しに来ることもあるからね」
「そうなのですね⁉
本当に大きくなったな……。
俺が一緒にいたころはまだ固定の店すら持っていなかったんです。
近しい人たちだけで家族のように身を寄せ合ってお店を経営していました」
「そうだったのだね」
そんな話をしながら店員さんのうち一人に話しかけた。
「あの、すみません。
この手紙をシラジェさんに渡してくれませんか?」
「シラジェ会頭に、ですか?
あの失礼ですがあなたは?」
「ハールと申します。
きっと名を伝えてくれるだけでわかるはずです」
そういってもさすがに不審げな視線は途切れない。ここは信じてもらうしかないんだけれど。まさか手紙すら受け取ってもらえないなんて、と戸惑っているとあれ、と後ろから声がかかった。
「ハールか⁉」
聞き覚えのある声に振り返る。その先には思っていたとおり、ケリーが立っていた。その目は驚いたようにこちらを見ている。
「ひ、久しぶりケリー」
「お、おま、お前!
こんなところでなにして、ってちょっとこっち来い」
そういってケリーにぐい、と手を引かれる。
「あの、ケリー様⁉
そちらの方は?」
「俺らの家族、だ!」
「は⁉」
あああああ、なんだか申し訳ない。いまだにあの店員さん混乱している。だがケリーがどんどん進んでいくため俺はついていくしかなかった。その後ろをリーンスタさんがついてきてくれていた。
「まったく。
まさか急に来るとは思わなかった」
「ごめんって。
今日はこの手紙だけ渡して後日またちゃんと会おうと思ってたんだよ」
「手紙?」
「明日同じ時間にまた来るから、そのときいつ会えるか教えてほしいって」
「そんなのいつでもいいに決まっているだろう?
家のほうに直接来てくれたってよかったのに」
「それは迷惑かなって」
「ハールが迷惑なわけないだろう。
お前だって家族なんだから」
まっすぐ、ためらいなくそう言ってくれるケリーに思わず微笑む。やっぱりその言葉はうれしい。




