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 国境までの旅はとにかくスピード重視のものとなった。とにかく身体能力を強化して走り続ける。陛下からは今回の旅に使っていいと資金はもらっており、馬車も使っていいと言われたけれど、まあ自分で行った方が早いので。


 さすがに1日で行ける距離ではないので何日かは宿に泊まることになる。行方不明になっていた白髪碧眼の皇子の存在は即位式の際に国民に知れ渡っている。さすがにばれると面倒なので髪も瞳も隠すように宿に泊まった。


 陛下が変わり、今回のダンジョン攻略によって多くの資源が手に入った。その結果手にいれた巨額の富を陛下は各領主に分配する。その噂はすでに広がっているようで、民の表情は明るい。


 そうして旅をしていく中、宿で2人きりになったとき俺は再びシャリラントにダンジョンのことを聞いた。ずっと後で、と言っていたシャリラントだが、邪魔する人もここならいないでしょうから、とようやくその口を開いてくれた。


「ダンジョンとは、天に昇った魂の中で地上で穢れたものを核としてつくられるものです」


「天に昇った魂を……?」


 シャリラントがようやく話したその言葉に俺は血の気が引いたのを感じた。じゃあ、もしかして母上や兄上もああしてダンジョンになってしまった可能性があるのだろうか。


「ええ。

 あなた方が言うダンジョンのランクとはその魂の穢れによって決まります」


「け、穢れた魂はよくあるのか?」


 だって、ダンジョンは割と多くある。そのすべてが穢れた魂を核にしているのならば一体穢れの基準はどれほど厳しいのだろうか。


「全体の数で考えればあまり多くありませんよ。

 あなたが心配しているあなたの母や兄はきっと、喜んで天上に受け入れられているはずです。 

 とにかく、穢れによってダンジョンが創られ、その魂を削ってダンジョンに資源を満たします」


 また何か気になることを言っている。予想外、いやあのダンジョンを攻略してからはある意味予想していた言葉に俺は気になったことを口にした。


「どうして、そんなことを?」


「とある一件でこの世界には資源が圧倒的に足りなくなりました。

 ミベラ神の力をもってすれば、穢れた魂を浄化することもできますが、人に害をなしてきたその魂を持って人に恵みをもたらせ、となさりました」


「恵み?」


「ええ。

 人々はダンジョンから多くの恵みを得ているでしょう?」


「ならば攻略されたダンジョン、その魂はどうなる?」


「消滅しますよ。

 なにせダンジョンはむき出しの魂そのものですからね。

 そう、恵みを生み出し続けて消耗した魂も消滅します。

 ダンジョンとなった魂の結末はそれしかありません」


 消滅……。ああ、だから苦しんでいたのか? いつだったかどこかのダンジョンで聞いた声を思い出す。でも、シャリラントがそれを気にすることはない。平然と当然の結末だという。


「なら、なら……。

 あの2つのダンジョンは……」


「皇帝、と呼ばれていたエキストプレーン・アナベルク、そして皇后と呼ばれていたショコラティエ・アナベルクのものです。

 まあ、あそこはかなり特殊で共に死んでいった別の穢れた魂すら自分のダンジョンに取り込んでいましたね」

 

「俺は、また人殺しをしたのか……?」


「人殺しとは違うでしょう?

あなたはただ与えられるままに恵みを手にしただけです」


 いや、そうだ。きっとあれは人ではなかった。人によく似た何か、亡霊とでもいえばいいだろうか。だから、だから……。


 あの日。長年の敵であった皇后を手にかけた日から俺はもう人を手にかけることはないと思っていた。もう、手にかけたくないと思っていた。あの体にぬくもりはなかった。決して生きている人間ではなかった。


 それにこれは喜ぶことでもあるのかもしれない。だって、シャリラントの言うことを基とするならばあいつらは魂すら消滅したのだ。完全に。もう二度と俺の前に現れることはない。それに、あの時は手を下すことができなかった皇帝に自分の手でとどめを刺すことができた。


 魂、すら。


 だから。これでよかったんだ。


「ハール。

 これはミベラ神からの恵みなのです。

 ああして恵みを手にして消滅させることが自然なものなのです。 

 あなたが気にすることは何もありません」


「ああ……」


「だけど、あなたはそうして気にするのだろうと思っていました。

 あなたは変わらず優しいですから。

 そういったところがミベラ神の琴線に触れたとも言いますから。

 ああ、本当に。

 あの時のあなたに言わず正解でした」


「ミベラ神の琴線に……?」


「余計なことを言いました。

 気にしないでください。

 ……ハール、ダンジョンに行く前私が頼みたいことがあると言ったことを覚えていますか?」


「ああ」


 これ以上何を言う気だ、そう思ったが確かに言っていた。シャリラントを助けたいと思う気持ちは今も消えていない。シャリラントの話を聞いて疲れはしたが、なんとかそう返した。


「ハール、神島に行ってください」


「神島?」


「はい。

 そこにある始まりのダンジョンに行ってほしい」


 そういったシャリラントは今まで見たこともないほど真剣な目をしていた。


「わかった。

 神島に行けば、そのダンジョンはわかるのか?」


「案内します」


 断ってはいけない、そう感じた。うなずくとシャリラントは少しだけ安心したように表情を緩めた。


「それにしても、ミベラ神とは懐かしいよな。

 あのとき名乗りはしなかったけどたぶんあの時の神様がミベラ神、だよな」


「おや?

 そういえばハールはミベラ神にお会いしたことがあるのでしたか」


「たぶん?」


「今この世に生きるものの中でミベラ神とお会いしたことがある人間はあなたともうお一人くらいでしょうね」


「もう一人……?」


 一体誰のことだ、とシャリラントを見るも答えてはくれなかった。それにしてもミベラ神……。あの時なんか言っていたような気がする。俺に何かをしてほしいとか言っていたような。……。


「ああっ!」


「ど、どうされました?」


「いや、あの時言われたことを思い出してさ。

 たしか地球で生きてきた俺の目でこの世界を見てほしいとか……。

 それをいつか伝えてほしいとかなんとか」


「ああ……、そんなことを言っていらしたのですね」


「でも意味が分からないよな。 

 どうして俺の感想を聞きたがったのか」


「ミベラ神は他になにか言っていませんでしたか?」


「他、ほか……。

 『特別』になれるプレゼントを用意してくれたとか言っていたな。

 それってシャリラントのことだろう?

あとは……」


 古い記憶を頑張って呼び起こす。もうかなり奥深くの記憶だ。えーっと。そういえば意識が完全に途切れるその直前。何か言っていた気がする。


「欲望が、そう、欲望に殺された俺が、また欲望に殺されるのかどうか、とかそんなことを言っていたような気がする」


「欲望、ですか……」


「俺、前世でどうして死んだんだろ」


 今まで実は考えたことがなかった。考える時間がないほどにこの世界では目まぐるしい毎日を過ごしていた。それがこの世界に来ることになった場面を思い出したからか、ふと気になってしまったのだ。


「今日はもう疲れたでしょう?

おやすみなさい、ハール」


 考えこもうとする俺の思考を遮るようにシャリラントが言う。でも、確かにもう眠くなってきてしまった。考えるのはまた後でいいか……。そんなことを思いながら俺は眠りについた。


 そうして初めて、と言っても過言でないシャリラントと2人きりで過ごした数日を経て、ようやく国境へと到着した。



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