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22


 目覚めたのはそれから何時間後だっただろうか。いつの間にか誰かが着替えさせてくれたようで服が変わっている。それすら気が付かなかった。外はすっかり明るい。


 ……お腹すいたし、のどが渇いた。それにフェリラがどうなったのかも気になる。あと、風呂も入りたい。のそのそとベッドから出て、今日ばかりはと呼び鈴を鳴らした。するとすぐにいつもの侍従が部屋にやってきてくれた。その顔はどこかほっとしたようにほころんでいた。


「スーベルハーニ皇子!

 お目覚めになったのですね!」


「あ、はい、おはようございます……。

 俺そんなに寝ていましたか?」


「2日ほどお目覚めになりませんでした。

 さあ、食事を用意しております。

 ひとまずはお召し上がりください」


「あ、ありがとう。

 それと風呂に入りたいんだが……」


「すぐに準備いたします」


 まずは食事を、といい笑顔を言ってから侍従は部屋を出ていった。そうか、俺は2日も寝ていたのか。ひとまず用意してくれた食事に手を付ける。胃に優しいように配慮してくれたのか柔らかいものが中心の食事をおいしくいただく。あっという間に食べ終わってしまった。


 ……みんなはどうなったのだろうか。それにシャリラントには聞かなくてはいけないことがたくさんある。


「シャリラント」


「はい」


 呼ぶといつもどおりシャリラントは出てきてくれた。


「説明、してくれるよな?

ダンジョンが何なのか」


「説明はいたします。

 ですがそれはもう少々後で」


「なっ!」


「必ず、しますから」

 

 シャリラントはそれだけ言って消えてしまう。いや、後って! 文句を言ってやろうとした時、ちょうど扉をノックする音が響く。仕方ない、シャリラントは後回しだ。


 風呂に入り、新しい服に着替える。服は慣れないが、ここでようやく一心地つけた。やっぱり風呂に入ると気持ちいい。風呂に入りながら聞いた説明だとこの後は陛下との謁見があるそう。お互いの状況説明、ということだ。


そしてそのあとに神使の主たち全員揃っての報告。どうやら俺以外の人たちもちょうど今日、目を覚ましたようだ。明日に回してもよかったが、ほかの人に聞いたところ今日報告をしてしまいたいとのことだったのでこうして詰め込まれることになった、と。


 その前にすこしでもフェリラの様子を見たいと伝えると、わかりましたとすんなりと受け入れてくれた。



「リキート……」


「ハール!

 よかった、目が覚めたんだね」


「ああ。 

 フェリラは?」


「まだ寝ているよ。

 でももうすぐ目を覚ますだろうって」


「よかった……。 

 リキート、本当にすまなかった」


「え、どうしてハールが謝るの?」


「守ると誓ったのに」 


 なのに守れなかった。怪我を負わせてしまった。フェリラがやられた時のことはすぐにでも思い出すことができる。


「ううん、そんなことないよ。

 だってフェリラは今こうして、僕らの前にいるじゃないか。

 そしてハール。

 君も僕の前にいてくれる。

 それが一番大事なことだろう?」


 だから、ありがとう。そう言ってリキートを優しく俺を抱きしめてくれる。なんだよ、これ。こんな年にもなって情けない。そういって振り払いたいのに、なぜか振り払うことができない。


「……リキー、ト?

ハール?」


 その時。ベッドからかすかな声が聞こえる。リキートと二人、ばっとベッドの方を見るとフェリラがまぶしそうに眼を開けていた。


「フェリラ!

 目が覚めたんだね」


「よかった」


えっと? とまだ寝ぼけ眼のフェリラは混乱しているようだ。でも、その声はだんだんしっかりしたものになっていく。ああ、本当によかった。フェリラのことを確認できたタイミングで俺は呼び出されてしまう。後をリキートに託して、俺は陛下のもとへと向かった。


てっきり謁見室かと思っていたら通された先は執務室。中ではソファに陛下が座っていて、リヒトがその横に立っている。勧められた席に座るとリヒトも座り、前に紅茶が置かれた。


「さて、目覚めた早々で悪いな。

 まずは本当によくやってくれた」


 ありがとう、そういって陛下は頭を下げる。え、いきなり頭下げられてもどうしたらいいかわからないよ!? どうしたら、と焦りながらいや、その、と意味のない言葉ばかりが口から出ていく。少ししてようやく頭をあげてくれた。


「スーベルハーニがいなければ、神剣の主たちがいなければどうなっていたかわからない。

 ようやく新たな一歩を踏み出したというのに、すべてが無に帰すところだった」


「あの、それはどういう意味でしょうか?」

 

 ダンジョンは邪魔だが、入らなければ別に害を及ぼす存在でもない。それなのに無に帰す? どういうことだ、と混乱しているとリヒトが説明をしてくれた。


「まず、始めは何ともなかったのです。

 ダンジョン出現時に巻き込まれた家屋は倒壊しましたがそれだけで済みましたし、須戸にすでに住民はいませんでしたから。

 それが皇子がダンジョンに入り半日ほど経過したころでしょうか……。

 急に周辺の家屋が溶かされ始めたのです」


「溶かされ!?」


 まって、まって。外に影響を及ぼすダンジョンとか聞いたことない。おかしいから。


「はい。

 それはダンジョンから発生している……瘴気、が原因だったようです。

 そこからすぐに神島からのお客人であるミーヤ様が対応をしてくださいました。

 詳しく何をなさっていたのかは存じ上げませんが、一心にお祈りをあげていたようでした。

 それにより徐々に進行が緩まり、2日ほど後に完全に止まりました。

 皇宮はなんとか被害をまぬかれましたが、ミーヤ様が言うにはこれも長くはもたない、と。

 後はミーヤ様の気力が切れるのと皇子たちのダンジョン攻略どちらが早いかの勝負だったようです」


「今、2日って言った?」


「え、ええ」


「今、俺たちがダンジョンに入ってから何日が経った?」


 肌感覚ではダンジョンにこもっていたのはせいぜい1日半、そして2日眠っていたなら4日ほどのはずだ。だが。


「本日で9日目になります」


「……は?

 俺たちは7日間もダンジョンにいたと?」


「え、ええ。

 そうです」


 陛下の前とは言え思わず空を仰いだことは許してもらいたい。そう言えば授業でやったわ。違う時間の流れ方をするダンジョンもあると。そりゃ7日間もダンジョンこもっていたら2日間くらい寝込むよ、うん。なんだかどっと疲れた気はするが、ひとまず先を促した。


「ダンジョンに共に入った隊員たちは全員無事に帰還しています。

 今は休暇を取らせています」


「無事ならよかった。

 結局、その道を使わずに帰ってきてしまったから気になっていたんだ」


 その点はご心配なく、とリヒトが言う。なら大丈夫なのだろう。あとはダンジョンでの戦利品の整理を時間をかけてやっていくそうだ。城下町ではもう復興のための工事が始まっている。多めの報酬と自分たちの住む場所を一から整えられることでやる気にあふれた人たちが雇われているようだからきっとすぐに住めるようになるだろう。


「さて、次はスーベルハーニの番か。

 ダンジョンはどうだった?」


 どうって、答えづらい聞き方するな。ひとまず俺もよくわかっていないことは伏せたい。ダンジョンが何なのか、そしてどうして長がエキストプレーン、のような魔人だったのか。それを抜かすとほぼ説明することないけどな。


 簡潔にどう攻略していったかを説明し終わると、お昼を食べた後から神島のお客様たちと共にまた話を聞くと言われて解放されました。




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